天使の口付け

@masaimasa

第1話 天使

真っ白な肌、真っ白な目。牛の乳のように、全身が白一色。極めつけに天の使いであることを証明する、背中の小さな翼と、額の聖痕。産声さえも美しい。正しく神がかった、理想の個体。

村の教会に天使が降誕した。

この村の話題は天使でもちきりだ。

救世の存在である彼らの降誕はこの村の発展を約束するものだ。昨今の日照りにより不作が続き、貯蓄していた穀物も底をつき始めた。飢えと隣国との戦争があやぶまれる我が国の税率の上昇と、徴兵による若者の不足。誰もが不安を抱えていたし、実際村の存続の危機であった。今回の村長の娘の出産も村では反対の声が上がっていた。

そこに来てこの天使の降誕である、嬉しくないはずがない。天使の降誕に貢献した村は国からの報酬が出る。この先10年は安泰に暮らしていけるだけの穀物と、税の軽減。さらには、村の教会は天使の降誕により、聖地と化し、巡礼の民による寄付と、その近辺の宿は彼らの宿泊で大量に儲けを得られるだろう。思いつく限りでこれだ、ありとあらゆる恩恵を彼女はこの村にもたらすだろう。

しかし、天使の本質はその美しさではない、天使は周囲のありとあらゆる生物を癒すのだ。それは物理的な傷ではなく、心を癒す。現に彼女の周りにいるだけで皆、今までの不安をわすれ、楽しげにしている。それは今後の素晴らしい村の発展への想像からだけでは無い、まるで、負の感情が吸い取られるかのように、産声を聞いた瞬間に安らいだのだ。

しかし私は、美しすぎる彼女の姿とその異常とも言える能力を人ならざるものとして、おぞましく感じてしまったのだ。

明日には教会から使者が訪れるらしい。

私は皆より一足先にとこに着くとしよう。

我が子の誕生と、妻の出産の無事を祈りながら。


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