勇者一行が人類を救済の後、人類の敵に回りました

司弐紘

序章 最後の一幕の始まり

最後の一幕の始まり

 人の世界は蹂躙されていた。


 敵は突如として世界に現れた得体も知れない生物の集団で、仮に「魔族」と称されてはいたが、それが正解かどうかは誰にも確かめようがない。


 ただ、それは明確に人類の敵であり、大陸に数多く存在する王国の軍隊は、この生物の集団――魔族――の前に、ただ守ることだけで精一杯だった。


そんな膠着状態のまま十年余りの年数が過ぎ、このまま絶望の日々が続くのかと誰もが諦めかけたその時、希望が出現した。


 英雄とも勇者とも言われる、戦士シャングの登場である。


 彼は三人の仲間と共に、魔族の拠点を壊滅させてゆき、ついには魔族の首領であろうと目されていた、大物魔族をほふった。


 しかし魔族は滅びず、シャング達の一行はさらに魔族を追いつめるべく、異世界へも踏み込む。


 時折大陸に戻ってくる彼らの言葉によれば、その異世界に存在する魔神を倒せば、この呪われた時代は終わりを告げるということだった。


 以前よりもずっと住みやすくなった世界で、人々はただ英雄の仕事が終わるのを待ち続けた。


 そして、その日はやってきた。


 世界から一斉に魔族達の姿が消えたのだ。


 跡形もなく、ただ忽然と。


 人々は自分たちの英雄が魔神を倒したことを知った。


 歓喜に湧く、全世界。


 そして、その狂乱が最高潮に達した瞬間――


――人々は、頭から冷水をぶっかけられた。


 シャング達が北方の大国エーハンスの王城アリクルに攻め込んだというのだ。


 その城は、もちろんエーハンスの首都でもあったのだが、わずか半日で陥落した。


 しかも相手はたったの四人である。


 にわかには信じがたい話ではあったが、考えてみれば簡単な話だった。


 軍隊でさえ手を焼いていた魔族。それをたった四人で壊滅させたシャング達一行。


 彼らに対抗できる力が人々にあるはずもない。


 こうしてシャング達は新たな人類の敵となった。


 ――人が人を蹂躙する時代が幕を開けようとしていた。

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