第5話:異世界の少女に逃げられました



「それで?」

 豪奢な応接室で冷えた声に促され、国王は正面に座る甥へと気まずげに続けた。

「うむ・・・・・・何というか、その、レディルを説得している間にだな・・・・・・いつの間にか」

「その少女がいなくなっていたと?」

「そう、なのだ・・・・・・城中を探させたのだが、どこにも見当たらず、おかしな事に、姿を見た者さえいないという報告が上がってだな。・・・・・・異世界から来た救世主様だ。どんな力を持っているかわからぬ。それに・・・・・・振り返ってみれば、我々は異世界召喚されたその少女に一言も声をかけることなく放置し、レディルの奴も彼女に対して随分な暴言を吐いていたことを思い出してだな・・・・・・」

 そこで国王が小さく「・・・・・・逃げられたかもしれぬ」と言うと、目の前にいる甥に大きな溜め息を吐かれた。

「何をやっているんですか、伯父上。本当に・・・・・・」

 反省してばかりの国王は「すまん」と素直に謝った。


 この甥、国王の弟の次男、ルザハーツ公爵家のライツ・ルザハーツは、紺の髪に青紫の瞳を持つ19歳。

 王太子であるレディルとその婚約者ルーシェの幼馴染みでもある。

 魔物が大量発生しているこの現状で、国一番魔物の討伐に貢献しているのがこの男である。

 今日も早朝からルザハーツ領の騎士団と共に山中の魔物討伐に出ていたが、異世界召喚が行われるという情報が届き、ライツは急ぎ城へと駆けつけた。

 しかしその時にはすでに儀式は終えており、さらに召喚した救世主が消えたと城中が大騒ぎになっていた。

 ちなみに騒動の原因である王太子は、現在神殿の反省室で神官長に説教を受けている。

 

「見慣れぬ衣服を着た黒髪の少女か・・・・・・。衣服は着替えられたらおしまいだし、黒髪は珍しくはあるが、いないわけではない。無事見つかると良いが・・・・・・」

 バン! と国王が両手でテーブルを叩いて立ち上がる。

「ライツ頼む! どうにかして消えた救世主様を探し出してくれ! 国のため、初代国王のご意向に反し、緊急事態として異世界召喚を行ったが、まさかこのようなことになるとは・・・・・・。大量の魔石を消費し、もう一度儀式を行うことも出来ぬ。連れ戻してくるまでにレディルの奴は説得する。あいつももう子供じゃないんだ。時間を置けば頭が冷えて己のなすべき事がわかるだろう。どちらにせよ国王権限を使い、あいつとルーシェ嬢の婚約は破棄とする!」



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