上がっちゃうのなら、下げてしまえばいいじゃない

 朝食を終えて着替えた僕は、三人が着替えるのを待つべくリビングで手持無沙汰にテレビを見ていた。


 流れているニュースは何の変哲もない、よくあるものばかり。今思えば、起きてすぐに見たネットニュースなども特におかしなものはなかったはず。


 ギャルゲー世界とは言っても、異常な事ばかりが起きている、というわけではいないようだ。


(いや……僕が主人公だというのなら、その周りだけがおかしくなっているのかもな)


 ふと、姉さんのしていた乙女ゲー、そして姉さんの言葉を思い出す。


『なぁ、姉さん。この主人公の女の子、色々な事に巻き込まれすぎじゃないか?』

『はぁ? そんなのあったりまえでしょ。何も起きなかったらゲームじゃないじゃん。ご都合主義万歳、って感じ?』


 その時は、そんなものなのか、と適当に流したが、いざ自分が当事者になると色々考えさせられる。


 つまり、僕の周りで何かが起きる事が大前提なのだ。ご都合主義的に起きる何事かに巻き込まれ、その中で選ぶ選択によって好感度が変動する。主人公である僕は、その流れからは逃れられないのだろう。


 そう、選択だ。あの乙女ゲーの中でも、主人公は選択肢を幾つか提示され、その結果として好感度が上がっていた。……そう言えば、姉さんはこんな事も言っていたな。


『なぁ姉さん。さっきから好感度が連続で下がっているようだが、大丈夫なのか?』

『いいのよ。この周回じゃこいつのルートは狙わないし、むしろ他のイベントに変に絡んでフラグ持ってかれるから集中的に下げてんのよ』


 ……今でもあの時姉さんの言っていた言葉の意味が正確には分からないのだが、個別ルートを狙わない相手の好感度を意図的に下げてた、という事だったのだろう。多分。


「そうか……操作するのだから、下げる、という選択肢もあるのか」


 現に、さっき陽菜さんの好感度は下がった……はずだ。あの、でゅーん、がそれだったとすれば、このギャルゲー世界にも『好感度が下がる』という概念が存在している事の何よりの証明だ。


 まぁ、ごはんをよそってもらうのを拒否する、というのが好感度が下がる要因だったのは未だに良く分からないが。僕自身の手でご飯をよそった方が陽菜さんの手を煩わせずに済むだろうに、何がお気に召さなかったのだろうか。


 ふぅむ……好感度を下げる、という方針は悪くはないが、どういった行動で好感度が下がるのかを正確に把握する必要があるな。極端な事を言えば、好感度が上がる行動の正反対を選べばいいのだろうけど。


「結局、彼女達の事をもっと知って正しい選択を出来るようにする事が、ノーマルエンドへの近道なわけか……」


 三人三様の性格、それに沿った選択。今日一日は、本当に大変な一日になりそうだな……。


「……しかし、遅いな三人とも」


 もうあれから15分経ったと思うのだが、何故誰も来ないのだろう? 女性の身支度に時間が掛かるのは承知しているが、あまりのんびりし過ぎると遅刻してしまう。夢の世界とは言え、遅刻は避けたい。


「仕方ない、呼びに行こうか」




 好感度ラブチェッカー


『天海藍梨』 8


『緋村深紅』 6


『日輪陽菜』 15



女神様からの一言

「淳史君? この状況で女の子を呼びに行くその行為の事を『フラグ』って言うんですよ~?」

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