仲間が増えました

「それじゃ、私はリリスを呼んでくるよ」


 私は部屋を出て、一階へ降りる。

 ちょうど客も来店していないようで、リリスは手持ち無沙汰になっていた。


「リリスー? ミアが起き──「ミア!!」どぅわ!?」


 私が全てを言い切る前に、リリスは二階へ上がって行ってしまった。


「まったく、どんだけ心配していたんだか……」


 はぁ……と溜め息をつき、私も上にあがるとそこには────


「ちょ、苦しいって!」


「良かったです。ご無事で本当に良かったです……!」


 横になっているミアに覆いかぶさり、抱きついて号泣しているリリスの姿があった。

 ミアは部屋に戻ってきた私に気が付き、必死に手を伸ばして助けを求める。


「ティアちゃん! 助けてぇ!」


「ごめん無理」


「そんな……!」


 勿論、即答で拒否した。


 リリスの馬鹿力には私だって敵わない。無理して止めようとして、巻き添えを食らいたくない。

 だから私は、リリスが満足するまで傍観することを決めた。


 ……ミアは……うん、可哀想だし両手を合わせて合掌でもしておこうかな。


 リリスが満足するまで、約三分の時間を必要とした。

 一応最後は私が声を掛けてあげたけど、それをしていなかったら二倍の時間はかかっていただろう。


「……死ぬかと思ったわ」


「馬鹿力に締め上げられたら、そりゃ死にかけるだろうね」


「他人事みたいに言って……ティアちゃんはリリスのご主人様なんでしょう? もっと早くに助けてくれたって良かったじゃない」


「嫌だよ。私だって死にたくない」


「酷いですわ。力加減くらいは弁えています。やめてと言われたらやめますし、もっとやれと言うのであれば、私も本気で抱擁させていただきます」


「じゃあ、抱きつくのはやめてくれる?」


「それは出来ません」


「あれ? おかしいな。会話が成り立たないぞ?」


「…気のせいでは?」


 そうか。気のせいなのか──って、んな訳あるかい!


「はぁ……まぁいい。それよりもご飯にしよう。ミアも、お腹空いているでしょう?」


「私もお邪魔しちゃって良いの?」


「勿論だよ。リリスも、そうでしょう?」


「ええ、一人増えたところで問題はありません。それにこの前言ったでしょう? 料理は大人数で囲った方が美味しく感じられます。と」


 そうして私とリリスで準備をして、ミアのためにスタミナの付く料理を揃えた。


 ちなみに、あの嵐の日に作った私の手料理は、涙して喜んでくれた。一生大切にするとか言われたけど、そこは勿体無いので食べてもらった。リリスは何度も美味しいと言って完食してくれたのは嬉しかったな。


 それからはこうして二人で料理したり、片方が忙しい時は代わりに作ってあげる。という役割でやっている。


 基本はリリスにやってもらっているけどね。やっぱり私が作る料理と比べて、リリスの料理はめちゃくちゃ美味しい。


「美味しい……!」


 ミアはお世辞抜きに料理を堪能してくれた。

 ハムスターのように料理を頬張り、幸せそうに目を細めている。これだけ喜んでくれたら、作ったこちらも嬉しいものだ。


「ミアってさ、まだ泊まる場所を見つけていないんでしょう?」


「ええ、そうね。リリスとパーティーを組んだおかげでお金は入ったけど、まだ部屋は取っていないわ」


「だったら、うちに泊まる?」


「──いいの!?」


 その誘いが余程嬉しかったのか、ミアはテーブルに手を置き、身を乗り出して私に詰め寄った。


 リリスに何の相談もしていない言葉だったけど、私はそれでもいいと思っている。一人増えた程度で大して変わらないし、どうせなら仲間同士で同じ場所に住んだ方が、色々と便利だろう。


「リリスも、それでいいでしょう?」


「……ええ、ミアが同居するのは嬉しいことですが、本当にいいのですか?」


「勿論。……でも、タダとは言わないよ。たまには店の手伝いをしてもらうし、冒険者として店の宣伝もしてもらいたい」


 元とはいえ勇者の仲間だったミアが、ポーションや小道具などの商品を愛用しているというのは、冒険者達に対してかなりの宣伝になる。それは知名度の高い人であればあるほど、その宣伝効果は期待出来るだろう。


 それにリリスと比べて劣っていても、ミアも結構な美人さんだ。


 そんな人が店で働いているというのは、独り身の男性客に有効だ。


「家賃はどのくらいかしら?」


「いらないよ」


「はぁ!?」


「だからいらないって。リリスも払っていないし、ミアだけ払うのはおかしいでしょう?」


 家賃程度でうるさくはしない。その程度で傾くような財布じゃないし、家事を手伝ってくれるのならそれで十分だ。


 ただ単に、そういう相談をするのが面倒ってのもあるんだけどね。


「……まぁそれで遠慮しちゃうってのなら、依頼の途中で魔物の素材や魔核、そこら辺にある薬草を採ってきてくれたら嬉しいな。金欠なら無理しなくていいし、望むなら買取もするよ。どれも錬金術には必要な素材だから、良い値で買わせてもらう」


 ミアは何も言えなくなっていた。

 開いた口が塞がらないといった状態で、石像のように固まっている。


「……あれ? 私、何か変なこと言ったかな?」


「おそらく、条件が良すぎて絶句しているのだと思います。たまに店の手伝いと宣伝をするだけで家賃は無料。魔物の素材などは買取可能で、何よりここは雑貨屋です。用があればすぐに利用出来ます。……今更ですが、ここは何処よりも恵まれた場所ですわ」


「そうなの? ……うーん、やっぱり人の適正価格ってのはわからないや」


 これでもちょっと枷を嵌めているかな? と思っていたくらいだ。


 ミアには店の手伝いをしてもらえる。家事もやってくれる。彼女の強さは知っているので、質の良い魔物の素材を持って来てくれるだろう。彼女が私の商品を使ってくれるのなら、それを見た他の冒険者も、自然と私の商品を求めてくれる。


 こちらにとって都合が良い。

 ミアをここに住まわせることにメリットがある。


「それでどうかな? うちに住む?」


「ぜひ! お願いします!」


 ミアは私の手を取り、これで契約は完了した。


「これからもよろしくねティアちゃん、リリス!」


「うん。よろしく頼むよ」


「はい。よろしくお願いします。ミア」


 こうして私の家に、新しい住人が住むこととなった。

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