犯人を探ります

「ちょ、ティアさん!?」


「何をしているのだティア殿!」


「いけませんティア様! ペッしてください! ほら、ペッ!」


 それが予想外だったのだろう。


 全員が驚き、リリスは吐き出させようと背中を叩いてきた。

 そうはさせないとコップを手に取り、水で一気に流し込んだ。


「──んぐっ、うん。おっけい」


「何が『おっけい』ですか! 危険な薬だってことを忘れていませんか!?」


 凄まじい剣幕に、私は仰け反る。


「い、いや……私にはこれがあるから、大丈夫だよ!」


 そう言って右指に嵌めている指輪を見せる。


 これには魔術刻印を刻んでいて、効果は『魔力回復』『消費魔力軽減』『自然治癒』『打撃軽減』『斬撃軽減』『属性耐性』『状態異常耐性』『思念伝達』『言語理解』『身代り』の10個。


 生きるために必要な効果が、この指輪に全て詰め込まれている。

 致命傷を受けない限り、寿命以外では死ななくなる道具だ。


 私は神だから普通よりは頑丈だけど、それでも万が一ということがある。なので私は、これを最優先で作っていたのだ。


 今回は、それが役に立つ。


 薬の副作用は、極端に言うと毒に近い。

 それは『状態異常耐性』で無効化出来る。つまり麻薬は、私にとってただの強化薬でしかない。


 それを説明すると、リリスは何とも言えないような表情になった。


「もう……これからは、やる前に何か一言ください。焦りましたわ」


「ごめんって。でも、これで材料は判明した。……ふむ、案外面倒な素材で作られているんだね。そうかなるほど……これは良い情報を掴んだかもしれない。でも、まさかこんな連続して同じような問題が起こるのか?

 ……いや、可能性としては非常に高い。そう考えるのが妥当だけど」


「あ、あの……ティアさん? どうしたのですか?」


「──ん? ああ、薬の材料がわかった。ついでに犯人も絞ることが出来たよ」


「それは本当ですか!?」


 そのことにジュドーさんだけではなく、アリス王女とエリックも目を丸くして驚いていた。


「嘘、ではないのだな?」


 それでもまだ信じ切れていないのか、疑いの目を向けてくる。

 ならば、見せてあげれば嫌でも信じるだろう。


「──ほい」


 私は先程飲み込んだ麻薬と全く同じ物を、テーブルの上に『創成』した。


「な、何だこれは!?」


「何だって……例の薬だよ。本当の名前は『デビルパウダー』って言う麻薬らしいね。材料は一部を除いたら簡単な物ばかりだったよ。でも、その一部の入手方法が厄介で、それのおかげで犯人を絞り込めた」


「その材料とは……?」




「──悪魔の心臓だよ」




 本来、悪魔には心臓がない。


 でも、そう仮定されている部分はある。


 体が消滅した時に出来る真っ赤な球体。それが悪魔の核であり、心臓だ。

 それは人の手では触れることすら出来ず、それが魔界に返って器を得ることが出来れば再び限界する。


 ……幻魔の時は、リリスがそれすらも焼却したけどね。


 悪魔の心臓をどうにか出来るのは、同じ悪魔のみ。


 なので、同じ悪魔が麻薬を広めているのか、それとも悪魔と契約している誰かが、その悪魔と協力をしているのか。


 ここまで絞れれば、調査することは限定的となるだろう。


「……まさか、また悪魔が関係しているとは思わなかったけどね。ほんと悪魔ってのは、私に恨みでも持っているのかねぇ」


 この下界に落ちて来て、悪魔に連続で邪魔をされた。


 今回に関して言えば、そいつらが全て悪いって訳じゃない。それでも悪魔に対して思うところがない訳ではない。


 ……この野郎邪魔しやがって、程度には思っている。


「大丈夫ですわティア様。今回も、私が全て消滅させて差し上げます」


「いやいや、今回のメインは王女様達であって、私じゃないよ。私はあくまでも補助。麻薬についての情報を出すだけだ。……でも、いざという時は頼りにしている」


「──ええ! ご期待に応えられるよう、頑張りますわ!」


 今回の悪魔は、まだどんな相手なのか判明していない。

 協力者が麻薬を販売しているだけで、悪魔は戦闘系という可能性もある。


 ……いや、協力者が居る居ないに関係なく、悪魔は戦闘が得意なタイプだろう。


 悪魔の心臓が必要ということは、悪魔を狩っていることは間違いないんだ。もしそいつと対面したら、私は無力な小娘だ。夢の中でしたように、逃げるしかない。


「これまで八方塞がりだった問題を、こんな一瞬で解決してしまうとは……ティア殿は何者だ?」


 アリス王女が問う。


 ──私が何者か?

 そんなの、わかりきっていることだろう。



「ただの錬金術師だよ」

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