第3話 アメリカの良心

「ウォーターゲートの稚拙とJFKの巧緻」

 に、と男の唇が歪む。

「貴方が、首謀者、で、宜しいのでしょうか」

「ノーコメント」

 さらさらと隣で筆が奔る。無論レコーダも廻っているが、筆記には揮発のリスクが無い。

「……クライアントの要望になるべく即した、下請けの悲哀だよ」

「標的の選定についても、ですか」

 会見から初めて、男の、ディープスロートの顔面に、一般表現としての表情、と記して差支えない現象が浮かび上がった。


 凄惨な、酷薄な。


 嗤い。


「私情だ。それを私の口から言わせたいのかね」


「報復ですか」

「ノーコメント」


 世界を敵に廻して人は生きていけない、しかし私は報道記者としての職業倫理に忠実であっただけだ。神にも。

 知性、理性、智性、或いは、智誠。

 人が、不当に、虐げられている。

 しかも、神を信じる者が。

 その者に手を差し伸べる事は、罪なのだろうか。そうであったのだろうか。


 結果、私はバチカンを敵に廻し、会社は潰れ、失職した。


 他方、アメリカンジャスティスを貫き通しそのアメリカから抹殺された者達。


 なるほど、だから、正義では無く良心、そういう事か。


「まあ、そうかな」

 大量破壊兵器は無い、無かった、不都合な真実を訴え続け結果勝利と、無職を得た同志が、ぼやくような口調で同意する。

「この国で正義は安過ぎるし、普通過ぎるんでね」

「読者、購読者の心にも訴えてみる、と」

 このままではあらゆる新聞が廃刊になってしまいますよ、と。

 その自社意見広告、特集記事の第一弾として掲げられたのが。

「銃乱射事件、異論は無いな」

 満場一致で可決された。


 総てが異常であり異様、異例な事件でした。


 犯人が裁判を経る事無く事件当時現場にて射殺、本件での類例事例との共通項、普遍的な要素はこの一事くらいです。






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