門と手


不思議なこと……不思議なことか。そうさな……こんな体験をしたことがある。


 今はもうきれいさっぱり無くなってしまったけど、昔我が家の近所に古い屋敷があったんだ。私の家族が引っ越してきた頃には既に、人が住まなくなってもう何年にもなるっていうそんな代物でね。小学生の時、その屋敷に幽霊が出るという噂が立って、小学生ってのはそういう噂を聞くといてもたってもいられないんだ。私は当時好きだったリンちゃんと一緒に屋敷の様子を見に行くことにした。午後の授業サボって、弁当持ってね。


 いざ屋敷の傾いた門の前に来ると、中は暗いしカラスは鳴くしで、リンちゃんはすっかり怯えて電柱にしがみついてた。正直私も怖くてたまらなかったけど、いいカッコ見せたかったんだね、私は空元気を出してずんずんと門の中に入ってったんだ。右手に棒なんか持って入ってみると大したこと無かったね。崩れた母屋と、傾いだ納屋と、それしかなかった。全部見て回るのに十分もかかんなかったよ。でも、門を出てみるとリンちゃん疲れきっててね。一時間は待った。散々呼んだのに答えてくれなかったなんて言うんだ。

 不思議だな〜って思いつつ、公園のベンチに座って、弁当食べたね。リンちゃん黙りこくってさ、こっちが何言ってもひたすら箸を運んでる。仕方ないから私も黙って弁当食べることにして、ふい、っと箸を上げた拍子、リンちゃんの右手にぶつかった。リンちゃんの箸が散らばって、ごめんって言いながら私は咄嗟にそれを拾おうとしたんだ。するとピシッ、とその手が打たれてね。何すんだってリンちゃん見上げたら、その顔、真っ青になってて……そしたらリンちゃん、いきなり悲鳴上げて逃げてったんだ。弁当放り出して。

 次の日学校行ったら、リンちゃん引っ越しててね。夜逃げ同然だっつって。あれほど不思議なことは無かったね。……不思議じゃないかもしれんがね。印象深かったね。

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