深夜のノック

 帰宅後、コーヒーを一杯飲んだところで、


 コツコツ


 ノックの音が響いた。返事を返し、こんな時間に誰だろう、とぼんやり思いながら、続くノックに急き立てられて覗き穴も見ずにドアを開ける、と、そこには誰もいなかった。辺りを見回しても、生き物といえば誘蛾灯とたわむれる蛾ぐらい。眉をひそめてドアを閉める。


 いたずらだろうか。だがこんな時間に?


 思うか思わないかの瀬戸際で、再びノックの音が響いた。


 コツコツ、コツコツ、コツコツ


 なんにせよ、こんな時間にこんなにノックするような人間はろくでもない奴だろう。ノックを無視することにした。それから十秒、二十秒、三十秒……ノックはなかなか鳴り止まない。ついに1分も経ってしまった。もう我慢ならない。荒々しくドアに近付き、乱暴にノブを回しかけ、ふと思い直す。覗き穴に目を当てる。その向こうは、真っ暗で何も見えなかった。

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