第5話 また……


「飽きた」


 ご主人様が僕に向かってそう言った。


 僕がご主人様に買われて3年が経っていた。毎日のように使っていればそりゃ飽きるだろう。

 僕はやっと解放されると喜ぶはずなのだが、僕の口からは思わぬ言葉が出た。


「ご主人様、僕を捨てないでください、お願いします」


 手足がない状態でご主人様にすがりつく。


 僕は無意識の内にそう口走っていた。

 どうやら僕はご主人様に依存していたらしい。

 捨てられたくない、使って欲しい、そう思った。


「ご、ごめんなさい」


 急にすがりついたことを謝る。


「しかし飽きたものは飽きた。お前、痛みになれただろう?」


 静かに首肯する。

 現に今も、お腹に剣が刺さっているのだが、ちょっと痛いな程度しか感じない。


 よくよく考えればこれは僕の前世の罪滅ぼしであって、僕は生きる価値などない。

 僕に関わった、紫苑、お父さん、お母さん、ミーツェ、サリーさん。他にも多くの人が僕のせいで死んだ。


 そんな僕が生きていたって被害者が増えるだけだ。

 それなら使われるだけ使われて死ぬ、そう3年前にきめたことを今、思い出す。


「……捨てるか。いいな」

「はい」


 僕はご主人様に捨てられることになった。

 おそらく捨てると言っても、口封じのために僕を殺すのだろう。さすがの『自動再生』をもつ僕でも首を切られれば死ぬ。

 そんなことはご主人様は百も承知だ。


 だから、僕の最期はご主人様に首を切られて死ぬのだろう。

 これでいい、みんなはこれで許してくれるかな。


♢     ♢     ♢     ♢     ♢


 数日後、僕はご主人様に連れられスラム街に来ていた。

 首を切られて殺されるかと思っていたが、違うとすればどうするのか。見当もつかない。


 しばらく歩きスラム街の中心あたりまで来たところで――


「じゃあなカグラ」


 ――ご主人様が僕につけていたリードを離す。


「今まで世話になったからな、せめてもの慈悲だ。もしここで生きていける運があるなら生きていけるさ」


 慈悲だと言うなら殺してほしい。

 まさかまだ罪滅ぼしは続いているのだろうか。

 僕はその場に座り込んでしまう。


「ああそれと、屋敷の地下のことは誰にも絶対に言うなよ。これは命令だ」

「はい」


 僕は奴隷としての強制力がなくてもご主人様の命令には絶対服従だ。だから余程のことがない限りあのことは言わないだろう。


「じゃあな」


 ご主人様はそう言って元の道を護衛と共に戻っていった。


 これからどうすべきか。もう僕を縛るものは何もない。

 それに違和感を感じる。


 何かの匂いがする。そして一人の男が歩いてくる音がする。


 そして気がつけば意識を刈り取られ、連れ拐われていた。



「――す?」

「――――から、――――こい」


 何かの話し声が聞こえ目が覚める。


「了解っす」

「ん? ちょうど起きたか」


 目の前にいたのは偉そうなボスらしき男と、下っ端らしきモブの男の二人がいた。


「ようこそグラビル商会へ。うちは麻薬や奴隷を専門的に扱ってる紹介でな、こいつが偶々お前を見つけて連れてきたってわけだ。まあお前はいい体してるからな、うちで味見をしてから奴隷市場にでも出すとしよう。何があったのかは知らんが運が悪かったな」


 ご主人様が言っていた「運が良かったら」というのはこいつらに見つからなければの話だったのだろうか。


「ついてこい」


 ボスらしき男の後をついていく。


 連れこられたのは、ボスの寝室だろう豪華な部屋だ。

 部屋の中心には大きな天蓋付きのベッド。暗い中にそういう雰囲気を出す間接照明があった。

 窓の外を見ればすでに暗く、スラムだからか何の光もない。


 ボスにベッドに押し倒される。

 そして素早い手付きで服を全部脱がされる。


「なっ、お前男だったのか……」


 今やっと僕が男ということに気づいたのか落胆している。


「あいつが女って言うから期待してたが……殺すか?」


 どうやらあの下っ端に女だと報告されてたらしい。


「まあ可愛ければいいか」


 可愛ければいいのだろうか。元ご主人様もだが可愛ければ男でも抱けるらしい。


 僕は全てを受けいれ、ボスと夜を共にした。



 朝、日の出と共に起きる。

 窓からはちょうど朝日が登っているのが見え綺麗だと感じた。


 少しするとボスも起きた。

 ボスは僕に見向きもせずに何処かへと行った。


 あれ? 僕はどうしたら……


 すると同時に別の男が現れ、ついてくるように言われた。

 連れて行かれたのは地下らしき部屋。そこに放り出される。


 顔を上げれば周りには多くの男たち(全裸)。


 そして一日中まわされた。


 翌日、体を綺麗にされた後、男に気絶され遠く離れた奴隷商会へと移された。

 悪い男には首トンは必須技能なのか、やけにうまかった。

 そして展開が早いのは気のせいか。


 奴隷商会には多くの女子供がいて空気が重かった。ここから見るに奴隷は購入者が奴隷を直接品定めをして売られるのだろう。

 名前は忘れたが、僕を売った最初の商会と似たような感じだが、扱いは最悪だった。

 食事は1日に一回。言うことを聞かなければすぐ罰を与えられる。


 食事の回数からして十日後。

 僕の前に一人の冒険者らしき男が来た。


 僕を数秒ほど見つめた後、男は言った。


「店長、こいつを買おう」


 領主様の次はこいつか。

 冒険者だから、僕のすることは荷物持ちかもしれない。はたまた、一緒に戦うかもしれない


 僕は僅かな期待を胸に男に買われ、二度目の奴隷生活を送ることになる。

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