#6

「さて、改めてお名前を伺ってもよいでしょうか」

「耶麻上ハツヱ」

「ん? いや、ちょっと待ってくださいね……真田佑香さん、ですよね?」

「あ……そうです。合っています」

 あの町から逃げ帰ってから。

 私はまともな日常生活を送ることができなくなった。原因はおそらく佐伯だ。彼女が、逃げ帰った私を信者達に監視させているのだと思う。実際に人の視線を四六時中感じるし、私の行く先々に先回りしてはじっと私のことを観察しているのだ。学内でひかりのみち関係者に出くわす回数も明らかに増えている。佐伯自身が姿を現さないのが不気味だけれど、それも彼女のやり方なのだろう。あの町にいた全員が関わっている、くらいの規模感で行われていてもおかしくはないくらいに、至るところからの視線を感じる。恐ろしい。何もできない。怖い。でも、心のどこか、見知らぬ部屋のようによそよそしい部分で、「よろこばしい」という気持ちが生じているのはなんなのだろう。この状況でそんな感情を抱くことなどありえない。気味が悪い。だから病院にわざわざ来たというのに。

「それで……お伝えしづらいことではありますが、鑑別診断結果などを見るに、貴方は統合失調症の疑いがあります」

 違う。違う。違う。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る