#3

 前田の葬式は二日後に執り行われる予定だった。

 あのイベント(と彼らは言い張っていたが、もっと適切な表現があると思う)の後、取っている授業がたまたま同じであったり、道端でばったり出くわしたりと、なんだかんだで「ひかりのみち」メンバーと顔を合わせる機会があった。また当初引っかかった押しの強さや妙な熱意も、単なる不器用さの表れなのだと解釈するようになってから、このサークルの人々と行動することが自分にとって自然なことであるように感じられていた。田舎から出てきた私にとって、彼らの不器用さや朴訥とした雰囲気は、どこか居心地がよかった。

 前田の死は、その矢先のことだった。訃報は勧誘された初日に、前田の右隣に座っていた佐伯という女性部員から聞かされた。詳しいことは教えてもらえなかったけれど、自宅で突然倒れ、そのまま亡くなったのだという。前田は親元を離れて一人暮らしをしており、発見が遅れてしまったとのことだった。

「辞めないよね?」

 出し抜けに、佐伯は言った。いつものボックス席で、前田の訃報を伝えた直後のことだ。

「そりゃ、辞めはしませんけど……」

「本当だよね? 約束してね」

 縋るような目で私の顔を覗き込んできた彼女は、そんな自身の振る舞いにはっとしたような表情を見せ、次の瞬間には普段どおりの無表情に戻っていた。佐伯は前田の右腕のような役割で、冷静な秘書のように行動することが多かった。

 そういえば、前田が亡くなる二ヶ月前に、サークルの新入部員が一人退会している。

 少しだけ引っかかるものがあったが、忙しない学生生活の中でそれはすぐさま溶けて消えた。

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