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神崎 ゆう

第1話

「あれーっ。おっかしいなぁ。」


 昨夜明け方まで映画に夢中になり、寝不気味の中、仕事に追われ、パソコンに向かってフル稼働の朝比奈葵の横で、先程から情けない声を上げながら探し物をしている男の名前は黒崎仁。


 3年前にこの会社へ転職して以来、葵と同じ部署になり、話をしているうちに意気投合し、二人は自然に付き合う様になった。


 仁は転職の際、気に入った会社が2社あって、どちらも受けて、両方とも採用通知を貰ったが、ギリギリまで悩んでこの大和証券に入社を決めた。


 雰囲気も良く、やりがいもあるこの会社に決めた事を、仁は心から満足していた。


 おまけに可愛い彼女も出来て、これ以上の幸運はないだろう。

 朝比奈葵は、顔立ちも可愛かったが、明るいムードメーカーで、会社では嫌う人間は居なかった。


「変だなぁ。確かにこの辺だったのになぁ。。」


「もう、何なのよさっきから。。煩いなぁ」


 普段は笑顔を振り撒いている葵も、流石にさっきから横でずっとゴソゴソ探し物をされている状況にはイライラしていた。

 仕事に集中しようにも、視界にちらついて全く集中出来ない。


「いや、この辺に500円玉を落としたんだけど、全然見つからないんだよ。おかしくないか?

 最近こういう事多くてさ、いくら探しても見つからない物が、ある時その場所に突然何事も無かった様に表れるんだよ」


「あのね。落とした物が無くなるなんて事、現実的に有り得ないから。硬貨って意外と跳ね返って遠くに飛んだりするんだよ」


 その時、少し離れた場所に光る物が葵の目に飛び込んで来た。


「ほら。ね。元に戻ってるって言うのも、きっと優しい誰かがコッソリ置いてくれてるんだよ。」



 葵は拾った硬貨を仁に手渡しながら得意気に言った。


「ありがとう。そうだよな。」

 葵の言葉に納得して戻る仁の背中に更に葵が思いついて声をかけた。


「あっ、ねえ。500円玉私が見つけてあげたんだから、お礼にコーヒー奢ってよ。」


「はいはい。しょうがねぇなぁ。」

 苦笑いしながら去っていく仁


 それからは穏やかな時間が過ぎて、何事もなく時間通りに仕事が終わった。


 同僚達と談笑しながら更衣室へ辿り着いた葵は、自分のロッカーの番号を見て一瞬戸惑う


 ロッカーは2段になっていて、葵のロッカーは上の段で150番。。だった筈なのに、150番はひとつ前の下の段になっていて、葵のロッカーは151番になっている。


 良く見ると数字の並び順が横に順番に並んでいたのが、縦の並び順に変わっている


 なにこれ。。。なんで?


「朝比奈さん。どうかしたの?」


 同僚から声をかけられ、思わず同僚に返答する


「ロッカーの番号」

「えっ」

「ロッカーの番号変わってますよね」


「ロッカーの番号。。いつもと一緒だけど。。」


 何を言ってるの?と怪訝そうな顔で見られ、それ以上は何も聞けず。


「ごめんなさい。何でもないです。」

 その場の雰囲気にいたたまれず、葵はロッカーから急いで荷物を取りだし、そそくさとその場を後にした。


 しかし、会社を出てからもどうしてもその事が頭から離れない。朝会社に行った時はまだ150番のままだった。


 何年も使っているロッカーの番号を間違える筈がない。

 じゃぁ、いったいどういう事?

 誰かが番号を張り替えた。。。

 でも何のために?

 しかもそれならみんながその事に気付く筈。。


 みんないつもと変わり無い感じだった。


 どうして私だけ?


 いくら考えてもわからないまま、それでも不思議すぎて、考えずにはいられなかった。


 そしてこれをきっかけにして、少しづつ、葵の世界が変わっていった。

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