第14話 皇女の死闘

轟々と燃え盛る屋敷を背後にフィルはベルフェゴールと名乗る男と対峙していた


「お主がどこの誰であろうと関係ないのじゃ わらわは今忙しい 去れ 

さもなくば死ぬ」


絶対に普段なら使わない言葉 

今胸にある怒りは眼前の燃え盛る屋敷よりも熱く強い


「これはぁ 怖いぃなぁ そんなにぃ 睨まれてはぁ 」


「言葉はそれだけか? ならば死ぬがよい! 氷槍アイススピア


空中に五本の氷槍を顕現させベルフェゴールを串刺しにしようとして


-よけろ-


謎の声が頭に響いた その声に従うか一瞬迷った 相手が攻撃してきた痕跡はない

ただ突っ立ているだけだ ただその態度に違和感を感じたフィルは避けた

そして避けた瞬間


石が砕ける音がした


「っ これはっ!」


「ちっ・・・」


驚愕の声と舌打ちが響く

屋敷を取り囲む石でできた壁に丸い穴が開いている 

あそこはちょうど自分の心臓があった位置だ 

もしあの声に従わずあのまま攻撃していたら・・・

あの穴が自分の胸に しかし


「これで どうじゃっ」


氷槍はいまだ健在 それらは男を串刺しに・・・


「ぇっ・・・」


することなくベルフェゴールの手前で氷槍はまるでなかったかのように消えた


-よけろっ―


先ほどよりも強い声が頭に響いた

とても嫌な予感がした

全力で横に飛ぶと同時に再び石が砕ける音がした

さっきよりも大きな穴が石壁に空いているではないか


「っっ・・・・強いっ」


見えないうえに触れたらそこが削られる攻撃

ただ石壁の後ろの庭には傷一つない 


「ということは・・・」


おそらくあの攻撃は貫通せずに相殺できる

フィルが右の

手のひらを天に掲げる


「あれほどの攻撃 手数にも制限があるのではないか?

これらがすべて防げるかっ

氷槍アイススピア氷礫アイスグラーブ氷矢アイスアロー

氷刀アイスナイフ氷球アイスボール


空中に優に100は越える武器が顕現される 眼前の男を貫き、叩き、刺し、裂き、殴る瞬間を 主の命令を 待っている


「・・・殺れ」


絶対零度より冷たい号令と同時に手を振り下ろす

100の武器がそれぞれの願望をかなえるべく男に殺到するが


「無駄 むだ ムダぁ」


その願望をかなえることができず武器たちはベルフェゴールの前でまるで見えないバリアがあるみたいに砕け散る

それでも嵐の如く攻撃を続ける


「まだまだっ こんな程度でわらわの魔力は尽きないのじゃっ

氷山アイスバーグ


車一台分はあるだろう氷の塊がベルフェゴールの頭上に顕現する

それも五つ


「ん~ なんだぁ これェ」


「死ねえぇっっ」


当たれば必殺の質量 しかしそれも


「だからぁ むだぁ」


ベルフェゴールは顔色一つ変えず まるで蚊を振り払うがごとく

その氷五つを粉々にする


「っ・・・なかなかやるのじゃっ しかし これで終わりなのじゃっ」


ベルフェゴールの回りに散りばめられた氷山アイスバーグの残骸の氷

が浮かび上がりベルフェゴールを中心に回り始める

そしてそれらは周りの土 石 などを巻き込み


氷竜巻アイストルネード


入ったものを石や氷礫が皮膚をえぐり体をぐちゃぐちゃにする死の竜巻が現れる

防御不可能な全方位からの攻撃 それにこれまではじかれた攻撃の残骸もあの竜巻の中に入っている


「こ これで さすがのやつも・・・!」


「だからぁ むだだってェ」


あの死の竜巻の中でもあの男は平然と立っているではないか

そのままゆっくりと歩いて近づいてくる


「あ あ あ あ あ あ あ・・・」


「さすがにネタ切れかなぁ 」


「くっ くるなっ こないでなのじゃっ」


地べたを這いつくばり無様に逃げる姿は先ほどまでの凛とした姿はどこにもない

その目にあるのは冷たい殺意ではなく怯え


「はぁ こんなぁ もんかなぁ」


ベルフェゴールはその少女の白く細い首をつかみ上げる


「かはぁっ・・・」


少女は息ができず 必死に暴れるがそれもむだ


「うん 死んで」


そのまま自らの現能でこの世から葬り去ろうとして


「死ぬっ・・・っのは おまえじゃっ 絶対凍土フローズンソルトアブソルート


その瞬間 氷がベルフェゴールの体を蛇が這いあがるように凍らせ包み込んでゆく


「ばかなっ どこからっ」


ベルフェゴールも流石に焦りを隠せない 


「地面じゃ お主を攻撃しておる時に使っていたのは右腕 左腕はずっと地面においていたのじゃ すべてはこの魔法ただ一発を決めるためにっ」


「ふざけるなっ ふざけっっるっっっ こんなこおりっ」


権能を使い破壊するが


「おっと それは破壊してもムダなのじゃっ」


それは破壊しても破壊しても破壊しても破壊しても破壊しても

破壊しても破壊しても破壊しても破壊しても破壊しても破壊しても破壊しても

破壊しても破壊しても


「また 再生する故な」


足が膝が腰が胸が腕が手が指先が目が髪が、凍らされてゆき 

しゃべることもままらなくなっていく


「っっっ・・・・・・ぁぁぁぁぁ」


ここに哀れな氷像が完成した

その氷像の手を砕き 自分の首を開放する


「ごほっ ごほっ はーあ とんだ災難だったのじゃ とはいえあの魔法は一時的な拘束にしか使えないいわば生きた魔法じゃ わらわの魔力の半分近くを注ぎ込んだ 魔力が尽きない限りはあの氷はあの男を拘束し続ける いずれは溶けるのじゃ そのまえに・・・?」


そのままアルフとクズノハを助けようとして

ピキリっと

後ろで何かが割れる音がした

恐る恐る振り返る

ピキリっ ピキリっ ピキリっ

その音は次第に増えていき


「あぁーあ ひどいぃめにぃあったぁ」


バリンっとガラスが割れるような音とともに

氷像からベルフェゴールが復活した


「ふっ ふざけっ ふざけるなっ こんなっ こんなことがっ」


「いやぁ てかげん してたらぁ これはやばいなぁ というわえでぇ

・・・・・死ね!」


その言葉と同時に頬を何かがかすめる

そこから漏れ出した鮮血がフィルの肌を赤く彩る


そのまま座り込んでしまった

万策尽きた・・・ もう終わりだ

魔力つきたし体力ももうない 

もう次の攻撃はよけれない 

短い人生だったなぁ ああでも


「哲人に会えるなら わるくないのじゃ」


眼をつむりやってくる死を待つ


「死ねぇ!」


”あの世でも耳飾り探してくれるかな?”















だが・・・・こない 代わりにきたのは


「何者だっ お前はっ」


戸惑いの声 なにか想定外のことでも起きたのだろうか?


「俺か? おれは黒鉄哲人」


この声を聴きゆっくりと目を開ける

聞きなれてはいないがすぐにわかる声だった

誰よりも心地よく鼓膜を叩くその声の主

あまりにも平凡で優しい顔つき 屈託なきその笑顔は見ていて気持ちいい

その後ろ姿はまだ1日ほどしか経ってないのにどこか逞しくなっている

言いたいことは山ほどある でも

ここはこれが一番いいだろう


「とある 女の子の英雄になりにきたのさ」


「おそいのじゃぁっ 哲人っ」


危機ピンチのときにやってくる英雄に対する文句はこれと決まっているから

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