第8話 青龍

臭い 臭い この場所はとくかく臭い

腐った匂いがする 血が 心臓が 腎臓が 肺が 

命が 倫理が 秩序が 生命が 腐った匂いがする

そしてここは黒い何もかもが黒い 土 木 葉に到るまでがすべてが黒い

それでも物が見えるのは太陽がわずかに差し込むおかげだが

その太陽の光すらも黒い


「ここが 大樹界ね・・・」


得たばかりの異世界の知識がすぐに役に立ってとてもうれしいのだが望んだ使い方ではない これが今世界を脅かす謎の現象 哲人はこうなった経緯に思いを馳せる


・・・


「大樹界の藻屑となりなさい」


ベットに拘束された状態で一方的な死刑宣告を受けた

背中から幾何学模様の黄色に輝く魔法陣が出現する

普段なら 異世界で魔法陣だ! 俺の黒歴史ノート1ページ目とは全然違う! とか

興奮しながら言っていただろう 今胸にあるのは絶望だけだ


「せめてもの選別として 情報を渡しておきましょう この魔法陣は転移陣といって長距離に物体を送るための魔法陣です 場所は旧帝国軍前線基地 今は大樹界に呑まれた兵士の墓場です 早い話処刑台ですな 処刑人は・・・処刑獣は魔獣ですな」


「そこは別に言い直さなくていいですよ」


「意外と冷静ですな・・・ これから死ぬというのに」


「そうですね 如何せん死んだことがないので実感が沸かないんですよ フィルは大丈夫でしょうか?」


「お嬢様は・・・強い方です それに一人ではありません」


「そうですよね 大丈夫ですよね・・・ アルフさん伝言を一ついいですか?」


「内容によります」


「耳飾りもうおとすなよ と お願いします」


「っっ・・・ 承りました ではよい夢を・・・」


老執事が礼をすると同時に

その言葉と同時に魔法陣の光が哲人の視界を覆いつくした


・・・


そして今に到るわけだが 転移された後は拘束は解けていた

今俺がいるところは黒すぎてよくわからないが石垣でできたなにかの建物跡だ・・・ 


「多分これが 前線基地ってやつなんだろうな・・・」


見た感じは相当古い もう放棄されて何年もたつような建物だ 

当然 人間が生きていくために必要なものなど残ってはいないだろう

食料も水もない


「短い 異世界生活だったなぁ」


しかしこれでお終いだ おれの異世界生活は一日で幕を下ろした

初めこの世界に来たといは中指たててピンチを招いてフィルと出会って


「あのときは異世界なめてたなぁ」


今度はフィルがヤバくなるもんだから耳飾りを探して

フィルの屋敷につれて行ってもらって


「風呂あがったあとに ジャージが洗濯されておいてあったときは驚いたな

でもなんでか上着だけ妙に生暖かったんだよな・・・」


それに女の子っぽい いい匂いもした これも魔法なのかな

アルフさんすげぇって思って クズノハと出会って


「お兄ちゃんは効いたなぁ」


フィルに誤解されかけて そのあとは食事を楽しんで


「こんな日々が続けばいいなって思ってた」


そんな日々はあっさりと終わった こうも・・・あっさりと

手のひらに冷たい雫が落ちている 

空を確認するも真っ黒で視界もぼやけてよくみえない


「あ おれ泣いてるのか・・・」


自分で言って気が付いた 止めようとした涙だが止まない雨のように拭っても拭ってもそれはでてきた


「ち ちくしょぉぉ・・・ ふぃるぅをこそうとしたって・・・ばか いうぜまったく・・・ するなら とっくにやってらぁ・・・」


そうだ できるなら確実にやる場面なんかいくらでもあったのだ

今にして思えばこんな理不尽なことはないな


-ああ 全くだな-


「・・・誰だ?どこにいる?」


どこからか声がした 周りを見渡してもあるのは黒い樹木だ


-ここだ ここ 視てみろ自分の手を-


見てみれば籠手が言葉を発すると同時に蒼く光っている


「なんだよ おまえ」


-なんだ もう忘れたのか? 悲しいな 英雄-


「は? 英雄 なにいっ・・・ あっ」


哲人の記憶の海から突如として何かが飛び出てくる

まるで映画を見ているがごとく脳内で映像が再生される

謎の声に呼ばれ地下室に入って籠手をはめたところまで


「・・・なんで わすれてたんだ てゆうかお前はなんなんだ?」


-我か? 我が名は青龍だ よろしくな 思いを曲げなかった

小さな英雄リトルヒーロー


そうこの籠手は暢気に諸悪の根源である龍の名を名乗った


・・・


「青龍・・・わかってるのか?その青龍せいでで俺も大変なことになったしフィルもそうだ くそっ こんな籠手嵌めたのが間違いだった」


そういって外そうとして

強く光りだす


-待て それは違う 昨日我はその少女を助けた これは間違いない-


「なに? 」


-昨日 あの屋敷に妙な男が入っていた 結局我も気絶したがあやつも気絶させた

となると・・・ おそらくあやつだけ先に起きて邪龍信教の聖書を置いていったのか?-


「つまりどういうことだ?」


-お前は 誰かにはわからない だがはめられた 確実に-


「はめられたか・・・ それがわかったところで」


-何をいっている 伝説を塗り替えるのだろう?我にはお前を強くできる力がある-


「! てゆうか今更だけど なんで籠手が話してるんだ?それに青龍って・・・思ってみればわけがわからないことだらけだが」


-呑み込みの悪いやつめ 九大神龍伝説を思い出してみろ

九つの龍の体は武器となり九つの龍の魂は帝国民に引き継がれた

龍の力と魂は形を変え いまでもなおあの帝国との契約に従っている

その青龍の力こそがこの籠手だ-


「でも おまえ青龍じゃん 残したのは呪いじゃないのか?」


-あの少女の姿か? あれは呪いではない あれは巫女である証だ-


「巫女?」


-これ以上は言うことはできない 

そしてこれを知ってしまったらもう後戻りはできない

それに今のお前にはやるべきことがある-


「なんだよ もったいぶって それにやるべきことって」


-この大樹界から抜け出すこと そのためにその目とその籠手の使いかたを教えてやる-


「ちょっと待て 籠手はともかく・・・目?」


-なんだ 鈍いやつめ 仕方ない そこの水たまりをのぞき込んでみろ

黒いがわかるだろう-


そういわれ黒い水たまりをのぞき込むと・・・蒼い光二つが見えた


「なんだ この光・・・ いや待て この光の位置的に俺の目か?」


-そうだ それは我の 青龍最強の武器

 万物を見通し

見たものを消滅させる眼

 蒼眼ブルーアイズ だ-

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る