親友と好きな人と、好きだった人

隠れ豆粒

もう行くね

 彼女と出かける約束をしていて、ふたりの家の丁度真ん中くらいにある公園で待ち合わせをしていた。

 僕は待ち合わせの時間の一時間程早く公園に着いた。なんとなく、外で何もせずにぼーっとする時間がほしかったのだ。

 秋の公園は少し切なげで、しんとしていた。

 ベンチに座ってしばらくして人影が見えた。彼女では、ない。けれど、その人は僕を見つけるとこちらに近づいてきた。

「なにしてんの?」

「高崎、久しぶり」

 高崎は中学の時に仲の良かった、少ない女子の友達だ。

 高崎はベンチの、僕とは逆の端に腰を下ろした。

「高崎こそ、なにしてんの」

「ちょっと本屋行こうかなと思って。で、公園通ったらはやてがいたから声をかけてみた」

 それからしばらく、ふたりともなにも話さなかった。けれど、どうしても訊きたいことがあった。

「あのさ、訊きたいことがあるんだけど」

「なに?」

「気分を悪くすると思うけど、いい?」

「うん、で?」

「……なんで、アイツと別れたの?」

 アイツとは、僕の親友のことだ。高崎は、僕の親友と付き合っていた。けれど、中学三年の時に急に別れたのだ。高崎から話を切りだして。

「あーそっか。やっぱりそのこと知ってたんだ」

「うん……アイツから聞いた」

「あの頃さ、颯と私で合唱コンの練習の仕切りしてたじゃない?」

「うん、懐かしい」

「それで颯のことさ、好きになっちゃったんだ」

「え……それが理由で、アイツと別れたの?」

「そうなるね。でも、そのタイミングで颯とあの子が付き合い始めちゃったからさ。ホント、笑えるよね」

「……その頃、僕も好きだったよ。高崎のこと」

 高崎の表情が固まった。

「じゃあ、どうして」

「その前は、あの子が好きだったんだ。でも、あの子から恋愛の相談を受けたんだ。同じクラスに好きな人がいるって。だから、想いを伝えられなくて……諦めきれないままで、それで……自分の気持ちに嘘吐くために、高崎を好きになったのかもしれない」

 こんな話、高崎に話さない方がよかったのに、けれど、本当のことを誰かに知ってほしくて、話してしまった。

「……」

 高崎は僕をみて笑ったまま、なにも言わなかった。

「ごめん、嘘吐いた。高崎のことは、本当に好きだったよ。でも、それ以上に、あの子が好きなんだ」


 あの子のことを諦めきれずに何ヶ月か経って、そして、あの子は僕に告白してきたのだ。好きな人がクラスにいるというのは嘘だったらしく、ただ、どのように想いを伝えればいいのかを、本人の意見をきくために僕に相談してきたのだとあとであの子からきいた。

 両想いだっということを知って、嬉しくて、そのままお付き合いさせてもらうことにしたのだった。


 そのまままた沈黙が訪れた。

 そのあいだに四台の車が公園の前を通り過ぎた。五台目の車が通り過ぎた時、高崎は立ち上がった。

「颯、ありがとう」

「……え?」

「なんか、ホントのこと知れてよかった。すっきりした」

「そっか」

「今日、あの子とデートでもするんでしょ? それでここで待ち合わせをしている」

「よくわかったね」

「まあね。久しぶりにあの子と話したいけど、私がいたら気まずくなっちゃうよね、多分」

「いや、そんなことないと思うけど」

「私が気まずいから」

「そっか」

「もう行くね」


 秋の風が頬を撫で、なぜか泣きたくなった。けれど公園の入口に人影が見えたので、僕は立ち上がり、笑って手を振った。

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