コミュ障吸血鬼、羨む


 唐突に心臓に悪いと言われて困惑する。

 僕はただお礼を言っただけなのに、どこに心臓に悪い要素が……?


「ティアナは気にしなくていいよ。私が勝手に驚いただけだから」


 リオナにそう言われたので気にしないことにする。

 代わりに、ますますわからなくなった。

 驚く要素もどこにもなかったはずだから。

 ……そうだ、あの事、謝らないと。


「……ごめん」

「ううん、ティアナが謝ることは何もないよ。元はと言えば、私があんなことを言ったのが悪いんだから……。ごめんね、ティアナ。許してくれる?」

「……ううん」


 首を横に振りながら答える。


「……えっ? あれ? 今のは許しくれる流れじゃないの……!?」


 そうは問屋が卸さない。

 僕は根に持つタイプだから、今回のことだってちゃんと根に持ってる。

 それに、アンナがお風呂で僕の胸に対して「大丈夫、成長期だから。すぐ大きくなるわ」って言ったこともちゃんと覚えてて未だに根に持ってるから。

 だから、今回リオナが言った「それはティアナがコミュ障だからいけないんでしょ!?」もきっちり覚えてる。


「うぐっ……そうだった……。ティアナはそういう性格だった……。じゃあ、どうしたら許してくれる?」


 ……そうだなぁ。


「……ご、ごくり」

「……これから一週間、口きかない」

「えっ……そ、そんな……っ!! で、でも、それで許してくれるなら……あ~でもでも、一週間もティアナと喋れないのは……」


 頭を抱えて「う~ん、う~ん」と唸りながらぶつぶつと呟くリオナ。

 猛烈に葛藤してるみたいだけど、これに関しては一歩も譲らないし、猶予も与えない。

 だって、助けに来てくれたことを考慮した上での罰だから。


「むぅ……じゃあ、仕方ないよね。――うん、わかった。一週間我慢する」

「思考読むのも、無し……だよ?」

「ギクッ……! わ、わかってるよ? 読まない、読まないよ……たぶん……」


 今、「ギクッ」って聞こえたし、最後ボソッと「たぶん」って言ったよね?


「……読んだら、一生口きかないから……」

「このリオナ、これから一週間、絶対に思考は読まないと誓います!」


 即座にビシッと敬礼しながら宣言したので、一応良しとする。


 ◆


 それはそうと、僕が「やめて」って言ってから止まっている元北村の人達はどうしよう?

 全くピクリとも動かなくなっちゃった。


「吸血鬼じゃなくなったらいいのに……」


 思わず本音が口から溢れる。


「ティアナ……。でも、吸血鬼になったらもう元には戻れないから……」


 リオナがそう言った矢先、突如元北村の人達の体から赤い煙のようなものが立ち上ぼり始めた。


「えっ……?」

「ちょっとティアナ、さっきから意地悪過ぎない? 口きかないんじゃなかったの? まぁ、私はそれでもいいんだけど」


 そう言ったリオナの言葉を、僕は首を横に必死に振って否定してから、リオナの後ろ――元北村の人達――の方を指差す。


「後ろ? 後ろがなに……って、えぇぇぇぇぇ!?」


 後ろへ振り向いたリオナが、元北村の人達から上がる赤い煙のようなものを見て驚く。

 そして、赤い煙のようなものが収まると、元北村の人達が動き始めた。


「えっ、あれ? 動けるぞ?」

「お、おい、お前、目の色が元に戻ってるぞ!」

「それはお前もだぞ!? 何がどうなってるんだ!?」

「歯も元通りだ……本当にどうなってるんだ?」


 聞く限りだと、吸血鬼じゃなくなった――元に戻った――ってことらしい。



 ――どういうこと?



 全くわからない僕は、騒ぐ〝元北村〟……じゃなくて、〝北村〟の人達を唖然と眺める。


「みんな!」


 唖然としている僕を他所に、リオナが北村の人達に駆け寄る。


「リオナ!」

「よかった、無事だったんだな!」


 駆け寄ったリオナに気づいた北村の人達が一瞬にしてリオナを囲む。

 大勢の人達に頭を撫でられたり抱き締められたりを何度もされて照れているリオナを見て――



 ――少しだけ、羨ましいと思った。


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