リオナ 3


 吸血鬼(分身)が消え去った後、私は呆然とアンナの後ろ姿を見詰めていた。


「ふぅ、ちょっとだけスッキリしたわ」


 やり遂げたように、また、満足げにそう呟くアンナ。

 けど、ちょっとと言ったことから、まだ怒りは収まっていないらしい。

 まぁ、ティアナが無事に戻ってきてくれない限り安心はできないから、仕方ない。


「さて、行くわよ」

「えっ?」

「なに惚けてるの、吸血鬼のところに行くわよ。そこにティアナもいるんだから」

「でも、どこにいるかなんてわからないし……」

「……あのね、私を誰だと思ってるの? 吸血鬼の居場所なんて、すでに把握済みよ」


 本当にアンナは、規格外過ぎる……。

 方法を聞きてみたいけど、聞いたって私にできることじゃないだろうから、やめておこう。


「さっきの吸血鬼の分身の魔力と似た魔力を探知したの」


 聞かなくても喋っちゃった……。

 というか、私でもできる方法だった。

 魔力探知は、魔物を狩るときに使ってるから。


「それで、ティアナはどこに?」

「それが……なんの因果か、ティアナが生まれた〝不死者アンデッドの洞窟〟にいるみたいなのよね」

「〝不死者アンデッドの洞窟〟!? ティアナって、そんな危険なところで生まれたの!?」


 そっか、だからが……。


「洞窟にいたときのティアナは今以上に喋らなくて、でもそこが可愛いというか守ってあげたくなるというか……ともかく、私のハートをことごとく撃ち抜いたわ! はぁ、ティアナを思い出すと怒りが込み上げてくるわ。いえ、もちろん怒ってるのはティアナにではなく、吸血鬼の方よ? けれど、私の愛しくて愛しくて可愛い可愛いティアナを思い出すと、連れ去った吸血鬼に対しての怒りが沸々と……」

「わ、わかった! わかったから! アンナのティアナへの愛情が深いことはよくわかったから!」


 これ以上喋らせると、日が暮れちゃう。

 まぁ、今、実際に日が暮れてるどころか日の入りしてるところなんだけど……。


「コホン。私としたことが、取り乱したわね。さて、気を取り直して、ティアナを取り返しに行くわよ」


 そう言って歩き出すアンナの後を、私はティアナ救出に全力を出すことを誓いながら追うのだった。



 ――待っててね、ティアナ。絶対に助けるから!



 ◆


 と、意気込んだものの……私達はなぜか今、女王陛下の執務室に来ていた。

 アンナが真っ先にここに向かったせいだから、私のせいじゃない。


「はぁ!? ティアナさんが誘拐された!? ちょっとアンナ、貴女がいながらなんて様なの!? 戦女神ヴァルキュリアが聞いて呆れるわ!」

「陛下、素が出てます。素が」

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!? 早く助けに行きなさいよ! ティアナさんにもしものことがあったら、許さないからね!?」


 えっと……今目の前にいる人は、本当に女王陛下なの?

 さっきと全く性格が違うんだけど?

 気になった私はコソッとスキル【鑑定】を使った。



 ――そっか、この人、ティアナと同じ……



 そうとわかれば、女王陛下が朝アンナの家に一人で来るという奇行にも納得がいく。

 まさか、そういうことだったとは思わなかったけど。

 納得した私は、未だに話しをしている二人に向かって言葉を放つ。


「あの、早くティアナを助けに行かないといけないと思うんですけど?」


 私にそう言われた二人は、我に帰ったのか体裁を整えた。


「コホン。では、私、ルネリア・ティン・ローメリアの名の下に命じます。アンナ、リオナ両名は、至急ティアナさん救出に向かってください」

「「はい!」」


 命令を承った私とアンナは、女王陛下の執務室を後にした。



 ――今度こそ、助けに行くから……待っててね、ティアナ!


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