コミュ障吸血鬼、アンナの仕事姿に衝撃を受ける


 どうやってアンナの仕事姿を見るかを考えているうちに訓練が始まってしまったため、やむなく、細目にしたりして頑張ってアンナの仕事姿を見ることにした。

 目を細めると、少しだけ人のシルエットがわかる程度には見えることがわかった。

 となれば、あとは耳で情報の補強をしてアンナに聞かれても対応できるようにするだけだ。

 と言っても、コミュ障だから対応できる気が全くしないというか、全く自信がないけど。


「ティアナ? どうしたの? そんなに目を細めて……あっ、そっか、吸血鬼だから日向は眩しいんだっけ! あぁ、もうっ、なんで気づかなかったんだろう! こんなことなら持ってきたのに……!」

「……!?」


 えっ、サングラス、あるの? この世界に?

 この世界の住人のリオナが言うんだから間違いないんだろうけど、本当にあるとは思わなかった。

 咄嗟のことで驚くのが遅れたぐらい衝撃的な一言だったよ?

 というか、リオナは僕が思ってたことをほとんど口にしてくれるから、本当に僕の思考を読んでいるんじゃないかと思えてくる。


「えっ? そんなことあるわけないでしょ? 思考を読むなんて、そんな便利なスキルを私が持ってるわけないじゃん! もうっ、ティアナったらなに言ってるの?」


 そうだよね、うん、そんなことあるわけ……あるよね!?

 事も無げに言うからスルーしそうになったけど、思いっきり思考読んでるよね?

 僕はただ思考を読んでいるんじゃないかって思っただけなのに、さも僕が言ったように言って、しかも、ご丁寧に種明かしまでして……。

 まぁ、これで今までの合点がいったからいいんだけど……。

 でも勝手に人の思考を読むのは良くないと思う。


「じゃあこれからは、じゃんじゃん思考読むね!」


 言ってるそばから読んでるし……。

 それに、断りを入れればいいってもんじゃない。


「えぇ? じゃあ読まないけど、ティアナは本当にそれでいいの? 思考読まれた方が楽じゃない?」

「えっ……?」


 言われてみれば、確かに……。

 僕の思考がリオナにダイレクトアタックするわけだから、思考を読むスキルは、コミュ障な僕とコミュニケーションをとる上であった方がいいかもしれない。


「じゃあ読んでもいいよね?」

「……まぁ、いいけど……」


 ふて腐れた感じで返事をすると、いきなりリオナが抱き締めてきた。


「口尖らせちゃって可愛いなぁ、もうっ! ――そうだ! 代わりにあの変態の仕事姿を見て上げるから、ティアナは耳で聞くだけでいいよ。可愛い可愛いティアナが目を細めちゃうなんて、勿体ないから! というか細めないで!」


 本音出てるよ、本音。

 まぁ、確かに女の子が眉間にシワを寄せて目を細めると、失礼だけど不細工に見える。

 どんな姿か僕にはわからないけど、今の僕は美少女らしいし、細めるのは良くないか。


「そうそう、ティアナは美少女なんだから目を細めるなんてそんなはしたないことせず、そのまま普通な感じで座ってればいいんだからね?」


 ◆


 リオナとのやり取りをしている間に、訓練は激しさのピークを迎えていた。

 なぜなら、アンナVS新人の騎士全員というとんでもない勝負が始まりそうになっているからだ。

 邪神を倒したらしいアンナと戦うなんて、新人の騎士達からしたらどう思うんだろう?

 僕だったら、〝絶対に勝てない!〟って思って、絶対に棄権する。

 そんなことを思いながら、僕はアンナがいる方向に聴力を集中させる。


「さぁ、どこからでもかかってきなさい!」


 アンナの大きな声が聞こえてきたあと、一拍間があってから新人の騎士達がそれぞれにかけ声を上げるのが聞こえてきた。

 そのあとすぐに剣と剣がぶつかる音が聞こえてきたから、恐らくかけ声を上げながらアンナに突っ込んでいったんだろう。

 剣と剣がぶつかる音の合間に次々と「うぐっ!?」とか「ぶふぉっ!?」とか「ぐえっ!?」とかやられてる感じの声が聞こえてくる。

 それを聞いていると、アンナって本当に強いんだなと思う反面、どんな対処したらそんな声が出るの? やりすぎてない? とヒヤヒヤする。

 そんな僕の隣で、リオナが意外そうに呟いた。


「ふーん、変態だけどやっぱり戦女神ヴァルキュリアと呼ばれるだけあって、強いじゃん。変態だけど」


 変態だけどって2回言った……。

 まぁ、出会ったときはアンナが騎士団長ってことを知らなかったし、アンナの態度が態度だっただけに意外なのもわかる。

 僕だって今、少し衝撃を受けてるし。

 主にリオナと同じ理由でだけど……。

 だって、出会った頃から僕にベッタリで変態染みた思考を持ってるアンナが、こうして騎士団長っぽいことをしてるんだから、そりゃ衝撃も受ける。

 これは、悔しいけど、ただの変態じゃないと思わざるを得ない。

 アンナは、〝変態〟じゃなくて〝強さを兼ね備えた変態〟だったんだ。


「ブフッ……!」


 隣のリオナが吹いた。

 また思考読んだでしょ。


「だって、私と同じこと考えてたんだもん。笑っちゃうでしょ?」


 そうなのか。

 でも……うん、結局のところ、アンナが変態なことに変わりはない。

 今までの言動を見れば、アンナが変態なことは明白だからね。


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