青夏 ~空想の友と意地悪な神~

直木和爺

序章

プロローグ

 友達が欲しかった。

 大勢でなくてもいい。100人いてもいろいろ困るだけだから。

 たった一人でよかった。心を通わせられる友達が。心の底から笑い合える友達が。

 でも、運命は残酷で。世界はいじわるで。私には友達が一人もいなかった。


 祖母が亡くなって3年。後を追いかける様にしてこの世を旅立った祖父の残した家に引っ越してきた私たちは、その町ではよそ者だった。

 町の人々のよそ者を見る目は鋭かった。今まで放っておいたのに、死んだら財産だけかっぱらいに来ただとか、いずれ土地も売り払ってお金にしてしまうのだとか、そんなことを陰で言われていた。


 肩身の狭い思いをしながら過ごす新しい地での生活は、思うようにいかなかった。

 ありもしない噂は学校にも広がって、気がつけば私の周りには誰もいなくなっていた。

 だからこれまで友達ができないなんて経験をしてこなかった私が、そんなことを願うようになったのだ。


 友達が欲しい。この町でも心を通わせられる友達が欲しい。




『では授けてやろうぞ』




 その声は私の頭の中に直接響いてきた。


『我の力ではそう多くは授けられぬが、なんじが諦めぬのであれば一人、汝の望む以上の者を授けてやろう』


 それが本当ならば、私はそれでいい。たった一人、信頼し合える友達ができるのなら。


『だが願いとはただ無償で叶えられるものにあらず。汝の意思を見せよ』


 意思。それなら大丈夫だ。私はここにきてからずっと、その願いを、その思いを手放したことなどないのだから。




『願え。願い続けよ。さすれば汝が願い、叶わん。耐えよ、我が試練に耐え抜け。さすれば汝が想い、成就せん。しかし我が試練、耐え抜けなかったとき、その願いは反転する。ゆめ忘れるな』




 声はそれきり聞こえなくなった。


 そして私はそれきり誰からも見えなくなった。誰にも声が届かなくなった。

 誰かに触れることも、触れられることも。


 友だちが欲しい。その願いが生んだ結果は、その願いと真逆のものだった。

 私はもう誰とも触れ合えない。誰とも心を通わすことができない。たった一人ぼっちに、永遠の独りになってしまったんだ。




 世界から切り取られた透明人間。それが私の願いに応えた、意地悪な神様からの贈り物だった。



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