第15話鈍感系主人公は初恋少女の顔を見ない

第15話  鈍感系主人公は初恋少女の顔を見ない




一番最初に見放された時は、もしかしたら私が産まれた時だったのかもしれない。そんなことを思うほどに私に対する両親の態度は冷たかった。


西園寺家は名家だ。700年以上続いていて、今では日本の誇る財閥という自負もある。だから、家を続けることに重きを置いている。そして、それには絶対に必要なピースがある。それは男の子だ。


両親だって、親戚の人たちだって誰も言わなかった。女の子がダメだなんて一言も。それでも私や姉たちはずっと劣等感を感じていた。


小さい頃から親に言われたことに従って生きていた。親も私が6人目の子供ということもあってとても手馴れていたと思う。私も何にも反抗しない、何の文句も言わない我ながら良い子だった。精神に異常をきたしてしまった姉たちには悪いが。


「お父様。ただいま、帰りました。」

「ああ、ご苦労。」

「別れてきました。」


私が話しているのに返事すらしないのは私がもうどっちでも良いからなのだろう。実際にお父様にとってみたらお兄様以外の存在なんて全部駒みたいなものなのだろう。


高校生になった時に親に紙を渡された。そこに写っていたのは自分よりも10個も年が上の人達で、私はその人たちとの交際を命じられた。とはいえ、父の目的はただ家同士の関係を持って相手側の勢力を取り込むことで、目的を達成すると私はすぐさま付き合いをやめさせられた。そうやって父の道具にされ続けたことで姉たちはおかしくなった。多分、彼女らは優しすぎたんだと思う。少なくともこうやって生きながらえている私とは違う。今も、こうやってさらなる悪事に手を染めようとしている。山田君は無事だと良いと思うが、そんなことを思う私は少し図々しすぎるのかもしれない。


「おい。次だ。」


紙を渡される。選択権は私にはない。だけど、私は感情を押し殺した声ではいと頷いた。



「あーいうのが一番むかつくのよ。」

「麗華様、助けようとはしてましたもんね。西園寺さんのこと。」


麗華とアリスは喋っていた。運転手が運転する車の中で。だけど、麗華達が乗っている車に後続してついてきている車にもおかしな格好をした人達が乗っていた。


「私は知ってたのよ。西園寺家がずっと、言い方は悪いけど援助交際みたいなのをしてたのは。」

「私たちが中学生の時に助けようとしましたもんね。西園寺さんのお姉さんですか。あの時は。」

「なのに私が何もしていないみたいに。私は家庭の問題というのも無視して、あなた達を助けようとしたのに。」

「断られたんですっけ。お姉さん達本人に。」

「そうよ。だから、私は西園寺家に関しては静観することを決めたのに。なんなのよ!あの態度は!」


激情している麗華にアリスはご機嫌をとるように喋っている。でも、そんなことにも気づかない馬鹿な幼馴染は愚かな発言をした。


「その前にそんな話を全く聞かされていないのに現場に居合わせた俺には何もないの?」


麗華は手に持っているスマホを思わず、ツバサに投げる。


「だいたい、あなたが忘れてるからでしょうが!」

「なんで、あんなに大騒ぎになっていたことを忘れられるのよ!何が「何の話だ?」よ!私から言わせてもらうと、あなたが忘れてる方が怖いわ。」


その後もガミガミと怒り続ける麗華にツバサは黙って話を聞いている。怒られてる最中にニヤついて、麗華にビンタされても嬉しそうなのが少し怖い。


とはいえ、目的の場所が近づいてきて流石に降りらなければいけない所まで来た時に、麗華はようやくツバサを怒るのをやめて車を降りて、後ろを振り向いた。


麗華の目の前に立つのは30人ほどの人達。だけど、彼らは明らかに一般人ではないような鋭い眼光や肉体、そして何より各々武器を持っていた。だけど、その少女は彼らにたじろぐことも無く明らかに命令口調で言い放った。


「最初に言ったと思うけれど、あくまでも目的は西園寺家の当主、次期当主の確保よ。あなた達に言っても無駄かも知れないけどできるだけ殺さないで。」

「結局、西園寺さんのこと助けるんですか。」

「助けるんじゃないわ。私は自分の娘を使って汚いことをやっている西園寺家の当主が気に入らないだけ。別に西園寺家の娘が助かろうがどっちでも良いわ。」


顔が少し赤くなっているのは恥ずかしいからだろうか。とにかく命令は下された。


「アリス、あれがツンデレって言うんだぜ。」

「そんなの知ってますよ。」

「う、うるさい。と、とにかく第4班配置につきなさい。」


前にも言ったように近衛家は日本一の財閥グループだ。それももう何百年と続いている。いつだって権力者がやることは一つで、彼らは自分で武力を持ちたがる。だから近衛家にもそういう戦う集団がいるのも当然で、彼らはどのような戦い方をするかによって所属班が分けられている。


そして今、麗華のそばに控えているのが俺も所属している第4班だ。どんな人がいるかというのは、銃を舐めている人や火炎放射器を持ちながらハアハアと息を荒くしている人がいるのから想像してほしい。


でも彼らはそんな見た目とは裏腹に麗華の合図によって俊敏に動き出した。


だけど、4班の人達と一緒に行こうとした俺だけは麗華とアリスによって止められる。


「新海くん達は先に行っているので、ツバサ君はそれに加わってください。」

「それとあなたは戦闘をしなくていいから、西園寺 桜だけを助けることを最優先にしなさい。」


なんでと聞くまでも無くアリスは次の言葉を話す。


「西園寺 桜はかわいそうな子供です。未だ高校二年生なのに高校生になってから交際した人数は十七人で、それも全部、自分より十個以上も年の上の人しかいません。もしかしたら、学校でのあの姿すらも家に強制されているのかもしれません。少なくとも今、この世界には彼女を救えるのはツバサ君しかいません。」

「そんなになのか?」

「私が調べた範囲内では。」


靴紐を結び直す。別に怒りとかじゃない。ただ、純粋にそんなことをずっと隠し通していた西園寺さんが凄いと思った。


「じゃあ、助けてくるわ。」


俺はそっと地面を蹴って駆け出した。

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