第47話 男を魅せる時

シャウラが構える黄金のレイピアが魔力により変形していく。

グニャリと溶けるように動きだし、尖端に行くほど細い螺旋を描いていた。

螺旋に捻(ねじ)れ細く鋭くする事によって、この攻撃はシャウラの持てる魔法の中で1番の貫通力を誇る。

きっと、ドラゴンの鱗をも貫くことができるだろう。

レイピアを包むように旋風が吹いた。

シャウラが渾身の力と魔力を込めて、レイピアをビリヤードのキューのように撃ち出す。


「栄光斬(ミチスアーヴァ)!!」

ギュルギュルギュルシュパーーーーーン!!!


螺旋は回転しながら、ドラゴンへと向かっていく。

キリ揉み状に回転しながら真っ直ぐドラゴンへと発射されたレイピアは、黄金の流星となりドラゴンとその後ろに居た魔物たちを貫通していった。

飛んでくるレイピアを、体をひねって避けようとしたドラゴンだったが、急所は外せたものの肩に命中し片腕が吹き飛ばされたようだ。

ドラゴンの鮮血が舞うが、シャウラの顔色は良くない。

日に何度も撃てるような魔法では無いのだ、ドラゴンと人間では魔力量が圧倒的に違う、早期討伐しか道は無いことは誰もが分かっていた。

この魔法で戦闘不能に追い込めなかったのはツラい。


「くっ、外したか。」

「グガァァアアァァガァアァアアア!!」


腕を片方なくしたドラゴンは、怒りを増して崩れた体勢のままブレス攻撃を放ってくる。

先程とは違って分裂することなく、太く真っ直ぐ飛んでくる強烈な光だ。

ターゲットはもちろん、片腕を奪ったシャウラである。


「お下がりください!」

「我らが!!」


皇都騎士団の7人の仲間が、シャウラを守るため前へ進み出て待ち構える。

両手を前にクロスし、地面に片膝をつくと騎士団の目の前に真っ白な城壁が現れる。

その要塞の中央には門はなくライオンの彫刻が象られ、ドラゴンのブレス攻撃を挑戦的に睨み、まるで迎え撃つかのように受け止め咆哮をあげる。


「ガァオオオオォォォオオオオ!」

「グガァァァアアアアアアアア!」

バリバリバリバリバリッ!!!


ライオンの咆哮とドラゴンの咆哮が響きあい、ブレス攻撃が城壁にぶつかる激しい音が止まない。

ドラゴンと皇都騎士団による消耗戦が始まったが、しかし、決着は思ったよりも早くつきそうである。

最強の矛と最強の盾の話はあるが、今回は最強の矛に軍配があがった。

ブレス攻撃は途切れることなく襲い来ており、城壁が少しずつ崩れていっている。


「ガァァ……ガァァアアアッ!」


城壁が剥がれていくにつれ、ライオンの咆哮も勢いが無くなっていき、苦しそうに首をふっていた。

ドラゴンの攻撃はまだ止みそうにない。


「もっとだ!城壁(ガード)が崩れるっ……魔力を、そそがない……とっ!!」

「ぐっ!!」「はぁぁぁあっ!」「ぅぅうっ!」


皇都騎士団は、苦しそうに肩で息をしながら城壁の向こうのドラゴンを見る。

するとドラゴンは、ブレス攻撃を吐きながら一歩また一歩と城壁(ガード)へと近づいてくる。


「化け物か……!」


誰が呟いたか、その声に騎士たちは唾を飲み込む。

恐怖し、戦慄した、ドラゴンとは言え、所詮(しょせん)魔物だろうと侮っていたのかも知れない。

しかしそれは間違いだった。

大隊に相当する数の騎士を、ドラゴン体で圧倒しているのだ。


「グガァァァアアアアア!!!」

「ヒィィイイイイッ!」


ドラゴンの咆哮に悲鳴があがる。

その堂々たる姿は、正に伝説の存在だった。

ドラゴンは攻撃しながら、自らに治癒魔法を発動させる。

ドラゴンのちぎれていた左肩が白い光に包まれ……その断面の肉が沸騰するようにボコボコと泡だち、腕が……新たな腕が生えてきたのである。


「そんな、バカな……治癒魔法にそれほどの力はっ……!!!」

「も、う駄目だ……かはぁっ!」

「ぐぅっ……はぁ、はぁ、はぁ……あぁ。」


シャウラが驚愕に叫び、青い顔で震えている。

気力だけで持ちこたえていた皇都騎士団の、心が折れ、魔力の消耗に膝をついている事もできず項垂れていった。

ふと、ドラゴンのブレス攻撃が止む。

さすがのドラゴンも長い長いブレス攻撃と治癒魔法により消耗しているに違いない。


しかし、こちらも限界だった。

ブレス攻撃を防ぎきった城壁がスゥッと消えていく。

7人の皇都の騎士が、一人、一人と地面に前のめりで倒れていき、跡には7人の魔力欠乏で亡くなった騎士が倒れていた。


「死んではダメだっ!死ぬな、お前たち!!」


シャウラは急いで倒れた仲間のもとへ駆け寄り、叫んだ。

だが悲しんでいる暇は無い、レグルスはドラゴンの攻撃が止んでいるこのチャンスを逃す事なく、ルナーたち撤退組に後退の指示をだす。

最前線に構えていた皇都騎士団がやられたのだ、自分達はあれほどの防御魔法が張れるだろうか……出来なければ、何も出来ず死ぬしかないのだが。


(……せいぜい、時間を稼ぎさせてもらうぞ?)


レグルスは騎士団の陣形を迅速に建て直し、次撃に備えた。

首筋に緊張の汗が流れ、その鋭い目線は、ドラゴンへと向かう。

リゲルとアダラも隙無く構え、ドラゴンの動向を探っていた。


このチャンスに、撤退指示を受けたルナーは、率いている撤退組200人と共に戦闘区域の後方へ移動していた。

そして彼はラーヴァへと馬を走らせようと手綱を握り顔を上げたが……しかし撤退はしなかった。

その必要が無くなった事が分かったからである。


ドラゴンは1度上空へ舞い上がり、混戦になっている魔物たちの中心へと降り立った。

そして、四肢を地面に突き立てうなり声をあげている。

ドラゴンから無数の赤い鎖のような物が、魔物たちへと伸びる。

赤い鎖に自由を奪われた魔物は苦しみもがき、そして力無く崩れていく。


「グァッ!グギャァアアッ!!」

「ギャア!ギャギィーー!」


騎士たちは、ドラゴンの行動の意味が分からず、ただただ恐ろしい光景を固唾を飲んで見つめる。

そんな中、レグルスはその行動の意味が分かった気がした。

というより、知っている気がするのだ。

錯覚だろうか、レグルスにはドラゴンが回りの魔物たちの魔力を取り込んでいるように見えた。


(まるで、零史じゃないか。)


ドラゴンは、零史の能力(ブラックホール)を見たはずである。

偵察班として行き、零史が沈静化を試みたという事は知っている。

目の前のドラゴンを見る限り失敗したのだろう。

しかし、他人の能力を……見ただけで再現してしまえるのだろうか。

ドラゴンの知識と膨大な魔力をもってすれば可能なのか?


どちらにせよ確実に言えることは、次の攻撃は防ぎきれないだろうと言うことだ。

騎士団の攻撃によって減っていた魔物たちが、次々にドラゴンの糧となり倒れていく。

魔物が倒れる数に比例して、ドラゴンの瞳の光が増していっているように見えた。

まるでその命を取り込み、生き生きとしていくかに。


「来るわね……。」

「総員、防御魔法を展開!」


アダラの呟きに、リゲルの命令が後を追う。

レグルスもその大剣を握り直し、シャウラを立たせ、その背にかばった。


「信じて待て、必ず助けはある。」

「何を……っ!」


レグルスの心強い言葉に、シャウラが眉を寄せる。

この状況で、いきなり信仰心を説いているのだろうか、この男は。

だがしかし、祈りたい状況なのはシャウラにもわかる感情だった。

祈って助けがくるのなら、うずくまり祈りを捧げていたい。死にたくない。

しかしシャウラはもう1つ帯刀していたレイピアを構えた。


「私は、私を信じています。」

「そーかい。」


レグルスはシャウラのこたえに軽く笑みをこぼした。

そして1分1秒でも多く時間を稼ぐため、顔をひきしめ、ドラゴンに対峙する。


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