第12話 セクシーなの?キュートなの?どっちが好きなの?


……みんなでランチの時間となりました。


温かいスープに、スピカお手製のふわふわパン!

そしてどんなに怒ってても、デザートの約束は忘れず出してくれるスピカは今日も天使だ。


ああ神様こんなに美味しいランチをありがとうございました。


……さて、現実を見よう。

俺はベラトリックスへと向き直った。

スピカが何度か縛ったが、すぐに自分でほどいてしまうので、諦めて彼女にもランチを提供した。

そいいえば、先程の戦闘で負ったキズだが、ベラトリックスは自分で治癒魔法をかけていた。


「えーと、ベラトリックスさん。

とりあえず、もう攻撃の意思は無い……という事ですかね?」

「そうよぉ、ベラはアナタの虜(とりこ)なの♡」


なるほど、サッパリ分からない。


「へ、へー……そーなんだー。じゃあ、何でこの場所が分かったのか、教えてくれる?」

「なんかねぇ、森で迷った旅人が~、この辺りで魔物にしては、聞いたことも無い鳴き声の飛行物体を見たって噂してたの。」


よかった、今度はちゃんとした答えがかえってきたぞ。


「……飛行機が見られておったのか。まぁ、ずっと隠しておけるとは思ってなかったが。」


アルタイルが唸る。


「結構な音の大きさだし、しょうがないよ。予想よりちょっと早いけど。」


そうなのだ、飛行機は音がデカイ。

それに、この世界で空を飛ぶものは珍しいなんてもんじゃないだろう。

なにせ、禁忌なのだから。

遅かれ早かれ、見つかっていたに違いないのだ。

少し前から、ここを引っ越すことも検討されていた。


「それと……脱走事件の護衛の話ぃ。それもあってベラが来たの。

『とてつもない光の魔法と、恐ろしい黒い球の魔法を使う男。

そいつが悪魔の子を拐(さら)った。』

幻覚を見たんだろうってバカにされてたけぇどっ。ホントだった♡」


「は?拐った!?俺がスピカを拐った?そんなバカな……。」

「そんなっ……違うのに!零史お兄ちゃんは助けてくれたんだよ!」


スピカが俺にすがるように袖をにぎりしめた。


「チッチッチッ、おこちゃまだねぇ。嘘か本当かなんてカンケー無いのよ。」

「私たちが誘拐したことにすれば……ファウダー領に売られる途中だったという事実も隠せて、一石二鳥だったのじゃろう。」


アルタイルの言う通りだろう。

聖信教は悪魔の子を売っていた事実を隠したかったのだ。


世の中、信用がものをいうからな。

科学者の俺たちと聖信教、信じるのはどっちだって言ったら……。

犯罪者の俺たちじゃないのは明白だ。


「零史、ベラトリックスをどうしますか?」

ルナが難しい事を聞く。


「スピカがやろうか?」

(何をだ?何を「やる」んだ?スピカちゃん。そんなうるうるお目々で見つめても騙されないぞ!?)


「ベラを殺す?別にいいわよぉ、どーせこのまま街に戻っても殺されちゃうしぃ……殺すなら、さっきのステキな光の魔法がイイナァ……ゾクゾクしちゃう♡」

「ゾクゾクしないで!……街に戻っても殺されるってどー言うことだ?」


俺はベラトリックスに詰め寄る。

平和的に帰っていただこうと思っていた思惑がくずれた。


「だってベラ、任務シッパイしちゃったし。科学者の首を持って帰らなきゃ行けないのぉよ?」

「なんと、おぞましい。私たちの首をじゃと……!?」

「そぉんな、モッタイナイこと出来ないでしょ~?」


ベラトリックスは椅子から立ち上がり、また俺の首筋に絡み付いてきた。


「ちょっ!離れろっ!スピカちゃんの目が笑ってないから本当マジでやめてっ!」

「この魔力の香りたまんなぁい♡」


俺は「魔力って臭いあるの?」と常識人アルタイル先生に、真っ青な顔で問いかける。


「私は聞いたことがないぞ。」


さすが、変態(ベラトリックス)だけに備わった能力のようだ。

触手のような腕を外すのは困難を極めた。


「んん~!よいしょっ!……はぁ……。

ベラトリックスについては、取り敢えず保留にしよう。出来れば殺したくないし。

でも、もしまた敵対する素振りが少しでもあれば……俺が責任もって殺すからな。」


ベラトリックスに見せつけるように、『極小の闇(サテライトダーク)』を出現させる。


「はぁい♡」


ベラトリックスさんや、ここは空気を読んで怯えるところですよ。

嬉しそうにしないで、マジで。

ドン引きだよ。


「そうと決まれば、引っ越しを考えねばな。

ここはもう安全ではないからのお。」

アルタイルが髭に手をあてて考えるポーズだ。


「うぅ~ん。んん~。でも何処に引っ越せばいいのかな?」


その横でスピカも、首をあっちにコテン、こっちにコテンとかしげながら考えている。


「私と零史だけなら、亜空間に避難できます。最悪、そこへ逃げ込みましょう。」


ルナ君、ありがとう。でもアルタイルとスピカを置いていく事は出来ない。

最終手段は、打てるだけの手を全て打ってから考えよう。

俺は、ルナの額(ひたい)を指先でかくように撫でる。


「別に隠れなくても~。襲ってきた奴は、ベラが全員殺してあげよっか?」

「ベラトリックスは、修羅の国の人なの!?追っ手をみんな殺さないで、その人もお仕事だから!ね?」


まったく、物騒なメンバーが増えてしまった。

俺たちまでヤバイ奴らだと思われちゃうでしょ!


「零史、ここは1つ提案なんじゃが。飛行機も完成したことじゃし、研究を次の段階に進めんか?」

「そうだね、飛行機の研究も続けるけど、それだけに構ってられないし。まだまだやることは山積みだ。」


科学は1日にしてならず、宇宙服とか、ロケットの推進力の問題とか、宇宙食とか、宇宙に出た後のエネルギー源であるソーラーパネルも欲しい……となると、課題はてんこ盛りだ。どう考えたって人手が足りない。


「……ということわじゃ、RENSA(レンサ)のメンバーを増やす必要があるのではないか?」


アルタイルがおちゃめにウインクを投げてよこした。


「そうか!そうだね。俺も『俺』に変わる燃料を研究する人が必要だと思ってたし……。」

「ふぅん、イイんじゃなぁい?」

「何?どういうこと?」


スピカが皆の顔を交互に見ている。


「お嬢ちゃん、木を隠すなら……?」

「……森の中。お嬢ちゃんって呼ばないで!私はもう14よ。」

(この二人は案外いいコンビになるかもしれないなぁ。)


……なんて思ってる場合じゃ無いんだろうけど。

危機感が足りないのは、日本人だったからか、聖霊だからか。


「ねぇねぇ零史お兄ちゃん!

街に行くの!?人がいっぱい居るの?」

「そうだぞー、そこで仲間(科学者)を探すんだ。」


めざせフリーメイソン!

ネットも発達してない時代に、会員数600万人を越えていたという凄い組織だ。

よおーし!国に迫害されている科学者を一人でも多く集めよう。

多ければ、自衛の手段も増えるし。

世間の科学への見方を変えられるかも……もしかしたら科学者の自治区。なんかも夢じゃないかも!?


「でも……飛行機を持っていける場所なんて、あるの……?」


スピカちゃん、やる気に水をささないで……さすが水系魔法の得意な未来のクールビューティー。

まだ可愛いままでいてよね!

ノーモア反抗期!!

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