第5話 アルタイルとの出会い

「あ、すみません。誰か居るかとかまで思いいたらなくて。」


大声で道を歩きながら歌っていたら、真後ろに人が居た時のような恥ずかしさだ。や

しかもネタの内容が古い、この世界では知る人が居ないのだから、関係ないだろうけど。

因みに零史はまだ生まれてなかった時のアニメだ。

『初対面では敬語』をモットーに、にこやかに笑いかける零史を前に、老人はひざまずく。


「おぉ、闇の聖霊よ。どうか私の罪をすすぎまたえ。」

(若干のテンションの違いを感じる。レースゲームしようとしたら、ケースの中身がRPGだった時みたいな?)


零史は肩に乗るルナに、こっそり問いかけた。


「(ねぇ、ルナ。どゆこと?岩(どこでもドア)から出てきた俺らに驚いてるのとはちょっと違うね。)」

「(闇の聖霊とは、この世界が信仰している聖霊の一柱(ひとはしら)です。ここはその神殿ですよ。)」

「(オッケー、俺は聖霊なのか。……聖霊?何すればいいの?)」

「(特に強制されているような役割などはありませんが、以前のマスターは、ここで罪を犯した者の、負の感情を取り除いてエネルギーに変換していました。)」


なるほど、この能力は人の感情までも引き込むことが出来るのか。

零史は老人から回りに目を向けた。

古代ローマの建造物みたいな廃墟だ。今は崩れヒビが入り……遺跡と呼ぶに相応しい風格がある。


(どーみても現役(げんえき)の神殿には見えないよな。)


「(前のマスターが、働いてたのって何年前よ。)」

「(マスターが爆発し、零史が生まれるまでにおよそ180年が経過しています。)」


なるほど、そんなにラグがあったのなら、遺跡になっているのも頷ける。

人間が180年もほったらかされたら、文明の発展はすさまじいものだろう。


(さっきお爺さんが言っていた「罪をすすぐ」とは、負の感情を俺の能力で抜いてくださいって事だな?

特定の感情を吸いとるなんて、やったことないからな~初めてが人間は怖いよなぁ。)


「あの~……、俺はほんとに"闇の聖霊"ではあるらしいんですけど。そー呼ばれるの慣れてないんで、零史(れいじ)って呼んでください。あなたは?」


とりあえず、話を聞いてみる事にした。

犯罪者にしたって、零史はこの老人の名前すら知らない。どんな罪を犯したのかも。

もしかしたら、懺悔(ざんげ)的な感じでどーにかできないかなー?と思ったりしている。

信じるものは救われるよきっと。


「私の名はアルタイルと申します。零史様……畏(おそ)れおおくも御名前(おなまえ)を知ることが出来るとは……。」

「えっと~、はじめましてアルタイルさん。

立ち話もなんですし、座って話しません?」


ひざまずくスタイルの老人(アルタイル)を、近くの……壁だったもの……へ誘導する。

零史は、老人に向かい合うように近場の残骸へ座った。


「聖霊様は、なぜこんなにも親しみ深く、この老いぼれに話かけてくださるのですか……。」

「あー、俺。闇の聖霊として代替わりしたばっかなんですよ。

だから、聖霊らしくとか出来ないし、分かんない事多くて。なので色々教えてくれると助かります。」


「零史、分からないことは私に聞いてください。」

「ルナく~ん、頼もしいよありがと~。」


ルナが零史の肩の上で器用に胸をはっている。

その頭をぐりぐりと撫でながら、零史は老人を見た。


零史はこの老人が罪を犯したようには見えなかった。

話し方や、所作(しょさ)などから真面目で落ち着いた性格がうかがえる。

まぁ、人間それだけで判断するものではないが……。第一印象はそんな感じだ。


「……零史様、私は罪を犯しました。だが私は、研究をやめられなかった。」


アルタイルは両手で握っていた紙を、零史に差し出した。


「……紙飛行機。」


そう、それは紙を折ってつくる紙飛行機だった。

子供でも折れる、良く見る折り方だ。


「禁忌と知りながら、空を飛ぶ方法を探し続けました。

飛ぶ鳥を見て憧れ、そして自分も飛んでみたい、空からの景色はどれ程素晴らしいのだろうと、子供心に芽生えたその夢を……私は諦められませなんだ。

科学者と知られ、人の手で殺されるくらいなら。伝承の通りに……この神殿で裁かれよう。そう思ったのでございます。」


「ちょいまち!えっ?禁忌?紙飛行機が??え、なんで!?」

(こんなの、子供なら誰でも作れるようなオモチャじゃないか!)


その問いには、紙飛行機を興味深そうに見ているルナが答える。


「零史、たしかに『空を飛ぶこと』は禁忌とされています。

この世界の人間は『魔法』を使います。

そして……人間は魔法が何よりの生活の糧となっている。

火も水も土も風も、己の力量があれば魔法でなんでも自由自在。

魔法が無ければ生活は驚くほど不自由で、魔法が有れば何もかもが簡単です。人々は魔法を頼りに文明を発展させていった。

そして時代が進み、魔法が生活に根ざせば根ざすほど、魔法を失うのが怖くなった。

そして魔法は『聖霊』に寄り頼み使うものと信じられています。」


(なるほど、魔法が無いと何も出来ないってことか?そしてその魔法は聖霊が与えてくれるもの……。)

零史は、零史なりに噛み砕いて理解しようとつとめる。

ルナの話をアルタイルが引き継ぐ。


「そうです。聖霊が作りたもうた人間に、空を飛ぶという力は備(そな)わっていない。

聖霊が必要ないと判断した力を求めるのは聖霊に反逆する行為、禁忌だ。と、そう教えられました……。

少なくとも、このガラヴァ皇信国(こうしんこく)の国教。聖信教(せいしんきょう)の聖典には、そう記されています。」


零史は言葉が出なかった……もし心の声をそのまま叫ぶとすれば「何だそれ!!」と叫んでいただろう。

だが、零史には圧倒的に情報が足りなかった。それが善か悪か判断するだけの情報が。


「ねぇ、ルナ。俺ってどうするのが正解?」

(俺ってば、俺より後に生まれたルナに頼りきりだな。)


兄弟で言うなら、零史がお兄ちゃんのハズだが、いかんせんルナの知識が頼りだ。

もしルナが居なくなったら……と考えると、魔法が失われるのを恐れる人類の気持ちも分かる気がする。


「零史が思うままに。

零史は聖霊です。人のルールには縛られません。私も零史の意志に従います。

この世界の新たな闇の聖霊に、零史の人格や記憶があるのには、何か理由があるのだと思います。」

「うん。ありがと……おっけ。まだ全然分かんないけど。決めた。


俺は……アルタイルさん、貴方の罪を……飛行機の研究を手伝います!手伝わせてください!」


何てったって飛行機の技術は、宇宙へ行くには必須だ。

禁忌だろーが何だろーが、絶対 宇宙飛行士になってやる!


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