第9話 大阪の女 2

大阪出身の関西弁の彼女の、名前が思い出せない。確かエリカだったと思うけれど、思い出には違いないのだが人は忘れていく生き物らしい。仮にエリカとしておこう。

その後、エリカとはよく顔を合わせた。まぁ、僕が暇に任せて彼女に会おうとしていたから当然だった。何度目かホテルで話している時。

「ご飯食べ行かへん?」

と、お誘いがあった。

気ままな1人旅、下心が無いと言えば嘘になるだろう。あわよくばなんて考えてもいいだろう、実行に移すかはさておき頭の中でシミュレーションくらい。

エリカから誘われたのは、カオサンロードからチャオプラヤ川を渡ったところにあるムーガタ屋だった。

ここはとても広く、ほぼタイ人しかいない店だった。日本的に言えば焼肉が出来るビアガーデン?に近い。

ムーガタやシーフード全て食べ放題、料金は1人300バーツくらいか。それなりの値段の場所。

こういった場所に来るのは初めては僕は素直に楽しかったし、日本人の女の子と一緒になんて寂しい旅の中で本当に稀で嬉しかった。

関西の人だけあってエリカは面白い話を沢山聞かせてくれた。

「インドに行った時な、タクシーの運ちゃんとバリ喧嘩してん。あっちのタクシーてな、ターボ言うてメーターの上がり方がごっつ半端ない速さに出来るボタンがあんねん。そんでな、それおかしいやん!って運ちゃんに言ったらな、何もない所でここで降りろー!って下されてん。通りかかった兄ちゃんに送ってもろうたから良かったんやけどな。」

お酒が入ると饒舌になるのはどこの出身でも一緒だ。

「アフリカの少数民族のな、村に行ってん。そこで少し暮らしたんやけど、まず電気が無いねん、お風呂も無いねん。どうやってお風呂に入るって言うとな、きったない泥水の池があんねんな、そこで水浴びするんや。てか飲水もそこからやし、洗濯もそこや。わけわからんて。そんでな、そこの村行くのに船で行ったんやんか、戻る船もあるかと思ったら来ないねん。誰もいつ来るかわからんねん。いつ来るー?って聞いたらな、来ない時は来ないよってアバウト過ぎやろ!」

こんな旅の話を延々としながらビールと肉を食べた。

「あんたな、何でバックパッカーやってん?」

突然投げ掛けられた質問に少し戸惑いながら僕も答えた。

「今しか出来ない事をしたいから、かな?別にお金が無い訳でもないけど、ただホテルに泊まって観光してとかより、もっと異国を間近に感じる旅をしたいから。」

「趣味バックパッカーやな。そういうの好きやで。てかな、私行ってみたいとこあるんやけど、これから付き合ってくれへん?」

「どこ行きたいの?」

「そんなん決まってるやん、ゴーゴーボーイや。」

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