第7話 ハルちゃん

カオサンロードでの1日は、まず朝(と言っても昼頃だが)起きて水シャワーを浴び、着替えて外へ。

ブラブラ散歩をしながら適当な屋台で軽くブランチ?ランチをとり、ホテルへ戻ってインターネットと読書、日が落ちて涼しくなったら外へ出て屋台でビールを飲んだりイブラヒムとクラブへ行ったり。

カオサンロードにはクラブが何軒かある、よく行っていたのは「ザ・クラブ カオサン」タコのマークの看板が有名な大箱だ。ここには毎日の様に通った。客は白人や旅行者が多く、少しのローカルの女の子やゲイがいていつも箱はパンパンだった。もう一つはもう閉店してしまったが、確か「ガリバー」というカオサン入口の角にあったクラブだ。ここはローカルの女の子も多く、大学で日本語を勉強してますーみたいによく声をかけられた。

そんな女の子にもイブラヒムはガッついて行くものだから、あなたの友達は嫌いだと何回も言われた。この辺は前にも書いているが。


そんなダラけた無意味な日々を送っていた僕に2回目の運命的だと思っている出会いがあった。屋台で1人、パッタイなんかつまんでた時だった、いきなり日本語で話しかけてきた女の子がいた。

「こんにちは!私ハルちゃんだよ!あなた日本人でしょ?」

茶髪にショートカット、目が大きく背の小さい女の子だった。ハルちゃん、、、ずいぶんと馴れ馴れしく、いきなり面食らったがニコニコと向かいに座り話しかけてくる。

胸元、両腕にタトゥーが沢山。細身な可愛らしい子だ。歳は20代前半に見えた。

「ハルちゃんは歌を歌う仕事してる、日本にもアメリカにも住んでた事あるし、英語、日本語、中国語、韓国語、イタリア語、フランス語、タイ語全部喋れるよ!」

本当か嘘かわからないけど、この子は通り過ぎる観光客全てに挨拶をしていた。

「あっ韓国人!アニョハセヨー!あれは中国人!你好!ハルちゃん見ただけで何人かわかるよ!ハルちゃんすごいでしょ。」

人懐っこい女の子なのか?不思議な子だった。

「ハルちゃんのお父さんは日本人。私ハーフだよ。お父さん会ったこと無いけどね」


こんな話を聞いて、タイにはよくある事なんだろうと思った。最近知り合ったタイの女の子にも子供がいて、相手は日本人だって言ってた。子供が出来たって言ったら逃げたって話していた。

ハルちゃんと話が弾み、お酒も入っていた事もあり、珍しくカオサン以外に出る事になった。

2人でタクシーに乗り、どこに行くのかわからないまま走った。20分くらいした後バーやクラブが一つの敷地に沢山ある場所に着いた。

後で調べたのだがRCAと言うエリアだった。

この時以来、何度も訪タイをしているがRCAには行ったことがない。

ハルちゃんと一緒にその一軒のクラブ、おそらく「ルート66」に入りビールを飲みながら音楽を楽しんだ。ハルちゃんはダンスが本当に上手かった。ここでも当時の日記があるので引用させてもらう。


"すれ違い様、確かに日本語で「こんにちわ!」と聞こえた。

不思議に思い振り返ると、小さな体にバックパックの女の子が「こんにちわ!」と微笑んでいる。


「日本人か?私も日本人だよ!タイとハーフでカリフォルニアに住んでたの。今は新宿に住んでるよ。ダンスの先生してる!でも日本語苦手。」


145cmくらいの細身の子だ。タンクトップから覗く胸の真ん中に大きな骸骨と羽のタトゥー。

頬にピアス。ショートカット。笑うと歯の矯正器具が見えて、またキュートだった。


僕は背の小さい、ショートカットでタトゥーの入っている、キュートな子が好みだ。


「お前、かっこいいね。髪の毛もお洒落。これからビール飲みに行くよ?」


お世辞だとしてもまぁ悪い気はしない。彼女の好きなクラブに行こうとタクシーに乗った。

本当は五月蝿い所じゃなくて、水パイプとビールで彼女と話したかったけど。


「すぐ着くよ。私ボーイフレンドいないからお前なるか?明日サンデーマーケット一緒に行ってもいいよ。」


タクシーの中で手を握られた。肩に頭がもたれかかる。「嫌か?」


「君は可愛いし僕の好みではあるけど、さっき会ったばかりだし、日本人は真面目なんだ。」


「ガールフレンドいないなら良くないか?33歳だからだめか?」



タクシーの中でキスされた。「まぁいいや。」


タクシーを停める、クラブに入りビールを飲む。先生と言うだけあってダンスが上手い。

僕はダンスとかはまるで詳しくないのだけれど、彼女のダンスはとても魅力的でセクシーだった。


クラブからの別れ際「またね。」とキスをされ、タクシーに一人で乗った。

本当は一緒に帰れれば良かったんだけど。僕は一人で帰された。


現れて、消えて。それから3日は彼女に会った時間に彼女に会った場所にまた会いたくて通ってみたけど、会えなかった。


こんな暑い国に雪女みたいな話だ。


「まぁタイの雪女は亜熱帯の気候じゃ溶けるのも早いわな。」


そんなひとり言をいって島へ向かうバスに乗り込んだ。"


ちょうど「GO」という小説(窪塚洋介と柴咲コウで映画化された)が好きだったので文体が影響を受けている。恥ずかしい。


と、こんな感じで僕はハルちゃんに恋をしてしまったようだ。また会えないかと同じ場所に通ったけど会う事はなかった。

ここから僕はカオサンを出て、パンガン島へ向かう事となる。


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