きっと7話

首を傾げながら目の前の人を見る。髪の毛を短めに切りそろえた女性だ。カウンターのような中からこっちに向かってしゃべっていたくらいだからこのお店の人だろうか。お店の人に地図をくれっていっただけなのに何がいけなかったのかわからない…


「地図ないんですか?」

「地図はある! だが、まず人の話は聞いたらどうだい?」


どうやら地図はあるらしいが、それを売るから話を聞けと脅されているらしい? なんで? 話大好きっこなんだろうか。


「はぁ…あのね、その服どこで手に入れたんだい?」

「服? これ? えーと俺が住んでいるところの学生服の一つだよ。えーと…だから服屋さん??」

「ああ、他の町の人なのかどおりで変…いや、変わった服装だと」


今変とか言いかけなかったかこの人。まあ俺もいいとは思ってない服装だけども、流石に着慣れた服をそんな風に言われるのは少しだけカチンときてしまう。


「それで地図だったね。この町のと世界地図だっけ?」


話大好きっこはカウンターの中でごそごそと地図を探しているみたいだ。地図はその辺の棚には置いてないんだね。ああそうか。ちらりとこの町の地図で行きたい場所とか見られたら売れないもんね。


「こっちがこの町の地図で5イエーイ。で、世界地図ねこれ。ちなみに30イエーイなんだけど買える?」


木の板に書かれたものがこの町の地図で5イエーイらしい。ところどころ空白で多分自分で書き込んだりするんだろう。500円ってことか…すでに書かれている情報料金込みなのかな、少し高く感じる。で、世界地図なんだけどこっちはロール状に巻かれ紐で閉じられていた。開けてみてもいいというので覗いてみるとざっくりと各町や国の配置が書かれているものだった。3000円か…まあ世界地図でならそんな金額なのかもしれないね。それにこの紙って動物の皮みたい…あれか羊皮紙ってやつ? ちょっとファンタジーっぽい。


「どうするんだい? なんなら今あんたが来ている服と交換でもいいんだよ」

「…は?」


服あげたら着るものがなくなるじゃんっ 何言ってるんだこの人は…合計35イエーイちゃんと払えるし。


「なんだ払えるんかい。残念…そうだ書き込むためのものはあるんかい?」

「大丈夫です」


…追いはぎか!! 理由を付けて俺の服を奪おうとしているみたいじゃないか。俺は35イエーイをカウンターに置くと地図を受け取りさっさと雑貨屋から外へと逃げるように出た。所持金は金貨4枚と大銀貨9枚と銀貨8枚と銅貨2枚と鉄貨5枚だ。さりげなく魔石はこれで消費したのでもうない。


先に服を買いたいところだがいい加減お腹がすいたのでご飯にしよう。買ったばかりの木で出来た地図を眺めると…


「やられた…」


たしかに建物がどこにあるのかちゃんと書かれているし、名前が付いている店とかの名前も書かれている。問題はそれが何の店なのかがわからないんだ。冒険者ギルドみたいにわかりやすい名前ならその建物が何なのかよくわかるんだけど…後さっきの雑貨屋の名前は『アンバー雑貨店』というらしい。こう何の店かわかるように書かれているところがとにかくすくないのだ。


「モコの実5つ買うから店教えてよ」

「いいよ、兄ちゃんは今度はどこが知りたいんだい?」

「今食事が出来る店」

「ああ、そっか…宿だと基本昼食べれないしね」


宿屋を教えてくれた情報少年に再び声をかけ食事が出来る店を訪ねた。情報少年に5イエーイをモコの実と交換すると「まいどありー」とニコニコしていた。少ない金額でもやはり売れるとうれしいらしいね。


「そうだね…この町でおすすめな店でいいかな?」

「それで」

「じゃあ『ヨコミチ』、『グリーンカーテン』、『憩い亭』ってところかな。『ヨコミチ』は軽食って感じの店だね。『グリーンカーテン』はちょっと洒落た店で高め。だけどおいしいらしいよ。『憩い亭』は創作料理を出してくるところでね何を出されるかわからなくて、当たり外れがある。後は…その地図貸して」


俺が手に持っていた地図を奪い取るように持っていくと地図に何やら書き込みを始めた。何を書いているんだろう…落書きとかだと困るんだけど?


「これでよしっ ほら、ここ。ここの通りに露店がよく並んでいるから、食べ物もあるよ」


落書きじゃなかった! 心の中で情報少年に謝っておこう。返してもらった地図を見ると露店が多いところに露店と記入されている。それとさっき教えてくれた3件の店にもそれぞれ軽食、高い、創作料理と書いてくれてあった。なるほど…この地図はこうやって自分で完成させるものなんだな。


というわけで俺は昼ご飯を食べに来た! 選んだ店はここ……ジャーン!!


『憩い亭』


看板にはそう書かれている。創作料理とのことだけど…あれだ運試し的な? 怖いもの見たさ的な? だって宿の料理あまりおいしくなかったし、軽食とか選択しないよね。高いなんてもってのほかっ じゃあ露店かここしかないじゃん! とりあえず周辺に変な匂いはしてないし…むしろおいしそうな匂いが漂っている? というわけで今日の昼食はここに決めた!


扉を開け中へ入ると思ったより賑わっていて、みんな楽しそうに食事をしているのが目に飛び込んできた。思ったより食べに来る人がいるみたいだね。


「いらっしゃーい。カウンター席しか空いてないけどいいかな?」


もちろんオッケーだ。俺が頷くと店のお姉さんが案内してくれた。椅子に座ると店のお姉さんがニヤニヤしながら俺のほうを見ている。なんなの…?


「お客さんうち来るの初めてだよね?」

「はあ…」

「じゃあね、肉料理と魚料理とオリジナル料理から選べるんだけど、ぜひオリジナルを勧めたいなーなんてね」

「………」


店のお姉さんがそういうと賑やかだった店の中が急に静かになった。気のせいか周りの視線が俺に向けられている…??


「えっと…はいじゃあそれで?」

「よしきたーーーーっ オリジナル入ったよ!!」

「「「うをををををおをををををおーーーーー!!!」」」


周りから上がる大きな声に思わず耳を塞ぎたくなる。そんくらい大きな声があふれた。変な店だ…間違いなく変な店に違いない。オリジナルを選んだだけでこんなに騒がしくなるなんて何なの?


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る