おはよう。鈍痛。

寝付けなかった。頭がさえ切っていて寝ようと思っても、別の白い何かが僕の睡眠を妨げた。

眠りの中へと落ちたのはたしか、AM5時を過ぎたあたり。突き飛ばされたみたいに、眠りのそこに落ちていた。僕はその暗闇が死と似ているような気がした。

起きたのは次の日の11時前。よく見る名前からの着信があって、スマホが背中の下でバイブしているので目が覚めた。頭が痛い。脳みそが軽い毒に侵されているみたいに、ギシギシと頭が痛い。君の話は愚か、僕も何を話したか覚えてないけどおおかた何時にどこに集合するかの話だろう。

「今日、遊ぶんですか?」

「…んまぁ、遊ぶ?何時に…する?」

字におこすとこんな感じの会話文になるだろう。

頭痛と睡魔で僕の頭はめちゃくちゃになっていた。相変わらず哲学者ぶった憂鬱は僕を闇の奥へと連れ去ろうとした。

気がつくと電話が切れていた。そして、しばらくするとかかってきた。ここら辺は何とか覚えている。

「今日は遊ばないんですか?」

「いや…ちょっと頭が痛くて」

「じゃあ寝ましょう」

吐いて捨てたような声が聞こえて、途端にプツリと電話は切れてしまった。それと同時に自己嫌悪と不甲斐なさが僕の睡魔を打ち消した。僕には君が必要なのに、もうあんな思いはしたくないのに。嫌われてしまったかもしれない。悪口を言われてしまうかもしれない。失望されたかもしれない。そんな考えが、細胞一つ一つに植え付けられたように、体を駆け巡る。けれども、体は鉛のように重く、何度も起き上がろうとするも、ヘタレこんでしまった。ようやく何度目かの挑戦で体を起こすことに成功する。だけど、今度は電話をかける勇気が出ない。君のトーク画面で僕は壊れたおもちゃのように静止してしまった。睡魔を打ち消したふたつが徐々に僕を蝕んでいく。不意に、トークに吹き出しがひとつ、ピコンと顔を出した。それはまるでイエス・キリストに救いの手を差し伸べられたようだった。

(電話かけていいですか?)

もちろん断る理由なんて、間違ってもない。僕はすぐに返信をして着信を待った。電話がなり、君の声が僕の鼓膜を震わせる。

「あの、言いたいことがあるんですけど」

「うん」

僕の声はさっきよりかはハッキリとしていた。だが、眠くもないのに瞼が落ちる。そして、頭痛は相変わらず脳を蝕んでいる。

「いいや、やっぱり言えない」

「え」

電話は切れてしまう。程なくしてもう一度スマホがなり君は同じ話をするけど、また言い出せない。切れてしまう。次の着信で君はお吸い物の話をして笑った。僕は言えない話がなんなのか気になっていた。別れ話だったのだろうか。だとしたら、僕はこの日がターニングポイントになっていたのだろう。

僕は結局君の元へと行くことにした、そうしなければ何かが終わってしまうような不安が僕の頬を何度も打っていた。ベットから降りてしまえば頭を這っていた鈍痛は思ったよりも痛くはなかった。僕はリビングに寝転がる母の体をまたいで歯を磨き、テレビを見て大袈裟に笑った。そうしなければ何かに押しつぶされそうだった。

「行ってきます」

そう言って玄関の扉を開いた。空は絵の具をこぼしたみたいに青くて所々に白いペンキがこぼれていた。君は後にその雲のことを美味しそうといった。僕はあの雲になりたいと思った。

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