(8)

 斧を持った「レッドスカル」が背後から「もう1人のボク」にこっそり近付いている。

 しまった。もう少し詳しく説明すべきだった……。「もう1人のボク」は、近くに居る人間の存在を感知出来る。目が見えてなくても、死角に居ても、隠れてても、魔法的な手段で気配を消してても、ともかく相手が何をしようが、人間の体の大半を構成する「水」の存在そのものを感知出来るのだ。

「ちょっとテーブル借りるね」

「え……ああ……どうぞ……」

 ボクは、近くで飲んでた兵隊にそう云うと、テーブルを持ち上げ……。

「おりゃあッ‼」

 ボクが開けた壁の穴から外に向かって飛び出すテーブル。しかし、「もう1人のボク」はテーブルに向って廻し蹴り。

「えっ⁉」

 「レッドスカル」の悲鳴。「もう1人のボク」の廻し蹴りはテーブルを砕いただけでは止まらず、斧を振り上げていた「レッドスカル」の腹に叩き込まれ……そして、「もう1人のボク」の「鎧」の脛に有るのは、「レッドスカル」の「鎧」の装甲を斬り裂けるであろうブレード

 しかし、「もう1人のボク」の攻撃が当たる一瞬前に……。

「余剰エネルギー放出‼」

 ボクの「鎧」の背中と脚後部の余剰エネルギー放出口より出力MAXで余剰エネルギーが吹き出る。

 背後うしろからボクに激突された「もう1人のボク」は更に「レッドスカル」に玉突き衝突。そのせいで廻し蹴りの筈が「レッドスカル」に命中したのは「もう1人のボク」の太股の辺り。

 そして更にボク達3人は、道路の反対側の建物の塀をブチ破り……。

 塀の向こう側に有ったのは、日本庭園に料亭風の建物。

「そっちは時間切れのようだな……」

「そっちもあと四〜五〇秒ってとこでしょ?」

 ボクの「鎧」はリミッター解除の時間切れで、開いていた装甲が閉じていた。

 次の瞬間、「もう1人のボク」が視界から消える。続いて右の方から何かの激突音。そして……。

 ボクはからの飛び蹴りを転がって避ける。

「古い手だね」

 「もう1人のボク」がやったのは、「火事場の馬鹿力」と「鎧」のリミッター解除による高速移動だ。しかし、その際に、とっさに拾った石か何かを別の方向に投げる。その事で「実際に居る方向」とは別の方向から音がする事になり、一瞬だけ注意がそっちに行ってしまう。

 だけど、残念ながら、高速移動と言っても、実際の速度は、せいぜい、時速七〇㎞ほど。予備動作ほぼ無しで一瞬の内に、その速度に加速出来るから「目にも止まらぬ超高速」だと錯覚するだけで、自分自身でも同じ技を使える上に、似た技を使える知り合いが何人か居るボクには、十分に「見える」。

「なら、正攻法を使う事にしよう」

「ちょっと、これ借りるね」

「えっ⁉」

 ボクは、わざと「レッドスカル」に近付くように転がっていた。そして「レッドスカル」が持っていた斧を手に取る。「レッドスカル」は腰の辺りに片手を当てている。その指の隙間からは血が流れていた。

「ところで、その傷、大丈夫?」

「ヤツの膝に仕込まれてた杭が少し当たったけど、内臓や骨は無事……そろそろ再生は終る筈よ」

「再生?」

 どう云う事だ? 彼女は、普通の人間でも、ボク達「強化兵士」みたいな存在でもなくて……そうか、ボク達の世界におけるボク達より一世代前の「再生能力ヒーリング・ファクター」にリミッターがかかっていない「強化兵士」みたいなモノ……ボク達の原種「古代天孫族ヴィディヤーダラ太陽の支族スーリヤ・ヴァンシャ」により近い存在なのか……。

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