第42話 これからも


 ……そうだ。状況は変わっていない。

 僕たちは、この圧倒的に不利な状況から逃げなくてはいけない。

 ただ、もう策は尽きた。

 どうする……。隙を見て逃げたいが……。

 ……ダメだ。

 抜け道の先には、鉄パイプを持った60人ほどの犬飼の仲間。背後には、犬飼。

 仮に、抜け道を戻れたとしても、また、犬飼の仲間がいる。


 一体どうすればいい……!!


「はぁ……そろそろ犬飼、お別れの合図みたいだぜ」


「小黒……さん……?」


ただその時、小黒だけが一人、

待っていたとばかりに口を開いた。


「ぎゃっひゃひゃひゃ!! 死ぬ覚悟でも決めたってことかああああああああああああああああああああ!?」


「ちげえよ……お前は自分の策に溺れて、負けるってことだ」


「あぁん!? 何言ってんだテメェ!」


「お前が、時間をかけてくれる陰湿なやつで助かったぜ……」


「誰が陰湿だってえええええええええええ!?」


「楽しかったぜこの不良の世界も。最後の喧嘩がお前だったつーのは少々いただけねぇがなぁ」


「あぁ!? だからさっきから何言ってんだよおおおおおおおおお!! 恐怖で頭でもおかしくなったかああああああああ!? ……あぁ? なんか聞こえるぞ……」


「時間切れだ。聞き覚えがあるよなぁ……俺たち不良には特によ……」


「……おい!! まさか……お前……」


 聞き覚えのあるサイレン音。

 ゆっくりと、ゆっくりとその音は大きくなる。


 キィィィィイイイイイ!!


「お前がこんな場所指定するから案外遅くてビビったぜ」


 3台のパトカーが止まる。


『おい! 犬飼だな!! ここで何をやっている!!』


 3台の車が止まる。


「け、警察じゃない!! 助かった!! でも、どうしてこんな人気のないところに……!」


 そう。本当に、ここは人気のない場所である。

 最寄りの警察署からは、車でも1時間以上かかりそうな場所だ。こんなところを、パトロール中に発見だなんてことは、たまたまにしてはできすぎている。

 となれば……。


「……まさか小黒さんが!?」


 驚いた表情で、見つめる羽川先輩。


「あぁ呼んだのは俺だぜ」


「……小黒。これがあんたの作戦ってやつか……なぁ、もう一度聞くが本当に良かったのか? 犬飼がいう通り、あんたもこれまでの悪さがバレて、それ相当の罰を受けるのはわかってるだろ?」


「あぁ、それは承知の上だ」


「てめぇ!! 小黒!! これでてめぇがやった罪が消えるとでも思ってんのか!!! お前も退学だ!!!」


 その言葉通り、警察も小黒の事も知っていたのか、それとも小黒が最初から自白していたのかはわからないが、

 小黒の身柄を拘束し、連れて行こうとする。

 しかし、小黒は、少し待ってくれと警察の手を止めた。


「もちろんわかってるさ……罪は償う。だが、ちょっとだけ、

 待ってくれ。最後にあの嬢ちゃんにだけ、謝罪をさせてくれないか」


 小黒は、そういうと、羽川先輩の元へ駆け寄った。


「私に……?」


 小黒は、頭を下げた。


「……すまなかった。神崎を呼び出すためだったといえ、怖い思いをさせた。

 もちろん俺は、この件に関しても警察に話して償うつもりだ。勿論、これで許してくれだなんて言えないが……悪かった」


「小黒……さん」


「くそ……俺の完璧な作戦があああああああああ!! こんなところでえええええええええええ」


 犬飼の暴れる姿を見ながら

 小黒は微笑む。


「おいおい最後ぐらい吠えるなよ犬飼。一緒に行こうぜ、同じ不良として、俺がついていってやるからよ、光栄に思え」


「うるせええええええええええええええええええええええええ」


 バタン。


 犬飼を乗せたパトカーは、どんどん速度を上げていき、いつの間にかサイレンの音がだんだん小さくなり、消えていった。


『悪いが君たちも署までいいかな。聞きたいことがあるんだ』


「はい」



 ♢ ♢ ♢


 ーーそれから一週間が経った頃。

 風の噂だが、犬飼は高校を退学処分となり、現在は、お寺で修行僧として、

 思いっきり、絞られているらしい。もうあの頃の犬飼は見れないぐらいに

 毎日、疲れ切っているとかいないとか。

 そして、小黒だが……退学処分の予定ではあったらしいのだが、

 羽川先輩が小黒の学校へ行き、

 小黒を庇ったとか。

 そのため、小黒は停学処分となり、もう不良の道は外れたらしい。


「何、ぼーっとしてるのよ、宮川くん!!」


「は、はい!!」


「全く……神崎さんがせっかく可愛い姿になってると言うのに……」


「あ……」

 

 とても綺麗な花さんの姿。ウエディング衣装を見に纏っているその姿は、

 本当に見惚れてしまう。


「に、似合ってるか……?」


「は、はいとても」


「そうか……ならよかった」


 顔を赤らめながら、にっこりと笑う花さん。


『ミスコンに参加される方は入場してくださーい!』


「呼ばれたか……行かないとだな」


「はい……花さんなら優勝間違いなしですよ」


「そうか? じゃあ行って……あぁ忘れ物をした」


 花さんが立ち止まる。


「忘れ物? 衣装は着てるし一体何を……」



「……ご褒美だ、昴」

 

「ご褒美?」


 チュッ……


「……!?」


 甘い香りが近づいたかと思うと、

 同時に、柔らかい感覚が頬に当たる。


「あらら……大胆な行動は女の子の特権ね!」


「姉御の旦那顔真っ赤っスうううう!!」


「ええええええええええええええええええええええええ!? ま、待ってくださいよ花さーん!!?」



 ーー僕の平穏な生活は、終わりを告げた。

 きっとこれからも、

 いろんなことが起きるのだろう。

 でも、それは、嫌な気持ちではない。

 今日は何が起きるだろうか。

 明日は何が起こるだろうか。

 ……まぁ、どっちでも良いか。

 何が起こっても、僕は……

 この人と一緒に居られるんだからーー。


 

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