第9話 不良美少女の実力

ガラガラガラガラ。


「羽川先輩いますか!!」


「その声は、宮本くん!? どうしてここに……!!」


「怪我はないですか?」


「え、ええ、私は神崎さんを呼び出す餌だったようだから……」


縄を解きながら、安堵する。


「良かった。説明は後です、神崎さんが今、大変なんです!」


「神崎さんが!? あの連中は、危険よ!!

 あの連中、喧嘩が大好きな地元でも危険とされてるヤンキー達みたい。そんな……私のせいで……」


どうやら、思っていた以上に、まずい奴らに絡まれてしまったようだ。


「……反省は後からにしましょう! とりあえず、今は神崎さんの方へ!」


「わかったわ、宮本くん。ありがとう」


♢♢♢


「神崎さん!」


「羽川ちゃん、無事か?」


「ええ、私は大丈夫よ!」


「良かった、よし……ならあんた達は下がってて、後はあたしがやるから」


『生意気な口を叩きやがって! お前らやっちまえ!』


『へい!』


まずはガタイの良い、一人の男が、花さんの顔面に向かって

拳を固く握りしめ、

距離を勢いよく詰めてくる。


「はっ……花さん!! 危ない!!」


「神崎さん!」


ドサッ。


地面に人が倒れた。


一瞬の沈黙が辺りを覆う。


だが、倒れたのは……


──花さんの方ではなかった。


男が、花さんの右頬を捉えた……

誰しもがそう思ったはず。

しかし、その拳は、頬に当たることなく、

素早く、その手を引かれ、反対に

見事な一本背負いを決められた。


 そう、倒れたのは、男の方だったのだ。


「あれ……花さんってもしかして……。めちゃくちゃ強いんじゃ……」


『な、なんだ今の見えなかったぞ……。

次のやつだ次のやつ! どんどん、やっちまえ!!』


今度は、集団で、花さんに向かいかかる。

なんとも卑怯な連中だ。男6人で喧嘩をふっかけ、花さんを呼び出して。

しかも集団で。


「花さん!」


流石に集団では、いくら花さんが強くても

まずいと、割り込もうとしたが、

その必要もなかった。


『ぎゃあああああああ』


『ぐはああああああ』


男の叫び声が、たちまち聞こえだす。

一人、また一人と、宙へと投げ飛ばされる。

花さん、やっぱり強い。

いや、強いなんて次元じゃない。

……強すぎる!!


残ったのは、リーダーとみられる男ただ一人。


『ば、化け物だ。女一人でこんな……』


リーダーとみられる男は、その圧に押されたのだろうか、思わず一歩後ろへ下がる。


「誰が化け物だ。か弱い乙女に喧嘩をふっかけ、友達を傷つけた落とし前、しっかりつけてもらうよ」


花さんは、いつも通りのクールな感じでそう言い放つ。


『ど、どこが、か弱い乙女だ!!!』


「か弱い乙女だよ。まじ、天使って感じじゃんあたし」


違うの? と疑問を浮かべている。


『いや、こんな強い乙女がいるわけ……ぎゃああああああ』


ーー勝負は一瞬で終わった。

 それを見て、倒れていた男達も一目散に逃げ出した。

あれ? これ僕いらなかったんじゃ……。

そう思うほどに花さんは強かった。

一応、花さんが怪我をしてるかもしれないと思い声をかける。


「花さん……その、大丈夫ですか?」


「あーうん。全員、手加減して投げ技しか使ってないから、無事だと思うよ」


まさかの、そっちの心配!?

というか、あれ、手加減してたんだ……。


「そうじゃなくて、花さんの方ですよ!」


「あーあたし? あたしは大丈夫だよ」


無事なようだ。

てか、あれで手加減してたんだ……。

花さんって、こんなに整った顔立ちしててこの強さって……恐ろしいな……。

……うん、逆らうのは辞めておこう。


「あ、あの、神崎さん!」


「あーどしたの、羽川ちゃん」


「ごめんなさい!」


羽川先輩が申し訳なさそうに

頭を下げている。


「私は、神崎さんの喧嘩を止めようと思ったのに、逆に迷惑をかけてしまって……」


「あー。大丈夫だよ。

てか、心配してくれてたんだ。羽川ちゃん、やさしーね」


「や、やさしい……? そ、そんなことないわよ!! 大体、貴方はまた制服を……」


「やば、説教だ。バイト戻らなきゃー(棒)」


ダッ。


「ちょっと! 待ちなさい!! 神崎さん!?」


いつもの委員長に戻ったようだ。

これで一件落着……。

あれ? 今、花さんバイトって

言わなかった?

まずい!! 羽川先輩はバイトしてること知らないんだ!!


「えーと、羽川先輩、花さんがバイトしてるのはそのー……」


なんとか言い訳を考えるが、

何も思いつかない。

どうしたものか。

すると、羽川先輩は、

あっけらかんと答えた。


「家族のためでしょ?」


「知ってたんですか!?」


「ええ、一度、神崎さんのことが気になってついていったらバイトしてて、店長さんに聞いたのよ」


羽川先輩も、知ってたんだ。

知っているのなら、もう今更

嘘をついても

意味がないな…。


「あの……学校やみんなには言わないでもらってもいいですか」


「……もし、言うっていったら?」


「なんでもするんで!! 勘弁してください!!」


「ふふっ。面白いわね、宮本くん。

言わないわよ。確かに校則は破ってるかもしれないけど、家族のために頑張る同級生の邪魔をするわけにはいかないもの」


「羽川先輩……」


「ま、まぁ、校則は学校の中だけだから……べ、別に、神崎さんのためじゃなくって!

放課後についてまで取り組むルールはないから! ね! それだけよ!」


典型的なツンデレだなこの人。

なんだかんだで花さんを

大切にしてるんだな。


「何か言いたそうな顔ね?」


「い、いえ、なんでも!」


「……まぁいいわ。それじゃ私もそろそろ帰るから……。宮本くんも気をつけて帰るのよ」


「暗いですし、送って行きますよ?」


「いえ、大丈夫よ、

近くに、親が働いているから

迎えが来るわ。それに……神崎さんに悪いもの」


「花さんに悪い……? わかりました、では、また」


花さんに悪いという意味はよくわからなかったが、全員無事でよかった。

花さんって大人だし、カッコいいなぁ……。

あらためて、尊敬という思いが強くなった。

それに、何故かはよくわからないが、

誰かの為に頑張ると言うのも悪くないな……と内心思ったことは、内緒である。


♢ ♢ ♢ ♢ ♢



「そういえばあたし、昴と間接キスしてないか……。うわ、今更になって恥ずかしくなってきた。恥ずかしい顔見られなくて、良かったな……」



あたしは、時間差で恥ずかしさが

くるタイプだったらしい。



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