第2話

キョウコとは時々会うようになった。

といっても、向こうが勝手にオレについて来るだけだが。


「ねぇジュン、ボカロは何が好き?あたしはやっぱり“メルト”かな」

「ねぇジュン、君が尊敬するTPTPの動画全部見たよ!かっこいいね」

「ねぇジュン、東方のMADも作ってよ」


キョウコが一方的にしゃべるだけ。オレは相槌さえも打たない。


ある日のことだ。


「ねぇジュン・・・あたし、君のこと前からウワサで知ってたかも。“狂犬ジュン”、でしょ?」


またかよ・・・。

その通り名を聞くたび、ウンザリする。


「イースト池袋のギャング12人を、たった一人で倒したンでしょ?その武勇伝、あたしにも聞かせてよ」


はぁ・・・。ため息がでる。


4年前、13のとき。

たしかにオレは荒れていた。

学校には行かずストリートをはいかいする毎日。


不良やギャングに絡まれたこともある。

やむを得ず軽く拳をまじえた・・・のだが、自分が思う以上にダメージを与え、相手をノックダウンさせたことも多々あった。


「池袋にヤクザも恐れぬ中坊がいる」


ウワサ話が大きくなり、いつの間にかオレは「池袋最強の喧嘩師、狂犬ジュン(IKBストロンゲスト・ファイター、狂犬ジュン)」になっていた。


まぁオレもその肩書きに甘んじて、やんちゃしたけどな。

ギャングのヘッドをきどって乱闘ごっこをしたり、自警団をきどってワルどもにケンカをふっかけたり。


だがしょせん、子供のお遊びだ。

3年たらずでギャングごっこは終わり。16からはフリーのIT稼業をやっている。


てな話をキョウコに伝えたのだが。


「それでも十分スゴイ話だよ!遊びでギャングのヘッドをはるなんて!」


キョウコは一人ではしゃいでやがる。オレは黙って歩く。


「ねぇジュン、こっち向いて」


面倒だがキョウコのほうに向き直る。

彼女はオレをじっと見つめる。


「あたし、君の瞳に、あこがれる」


キョウコの鋭い眼光が、オレの瞳孔を打ち抜いた。

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