第7話 side亜美と風子と秘密主義

「あーあ、龍馬君行っちゃった……」

 タピオカ屋の列に並んでいる風子は、姫乃と一緒に去っていく龍馬を見つめ残念アピールをぷんぷん漂わせていた。


「ふーこ。あんまりからかわないようにね? ちょっと狙い方がガチっぽかった感あったよ。やるならもう少し冗談気味にしないとひめのも可哀想だって」

「そ、そこまでガチだったかな!? 流石に友達の彼氏には手を出さない……じゃなくて出せないよ。あたしにもカレシいるわけだし」

「じゃあもっと遠慮すること」


 亜美から念押しされるが、これは風子らしいことでもある。


「気をつけたかったよ? 気をつけたかったんだけど……姫乃っちの顔を見たらスイッチ入っちゃってさ。アミも見たでしょ? あの顔」

「超幸せそうだったね。ウチらが来た瞬間の表情の変わりようは面白かった」

「ニッコニコ笑顔からから急に真顔になったやつでしょ? それであたし達に『なに』ってメッチャ不満そうに」

「そうそうそれそれ」

「大学じゃあ見れない姿だよね。正確に言うなら龍馬君がいる時にしか、だけど」


 龍馬がお手洗いに行っていた時に、亜美と風子はしっかりと目視していたのだ。

 周りが見えていないであろう姫乃が、一人で嬉しそうな笑顔を浮かべてるところを。デートが楽しくて仕方がない。そんな笑みを。


 実際は趣味を肯定され、『羨ましい』『カッコいい』と褒められ嬉しかっただけなのだが、そこまで状況を理解できていたのなら超能力を使っているレベルだ。


「正直、ひめのがあんな顔するなんて思わなかったなぁ。もしあれくらい表情豊かになればもっとモテるはずなのにねぇ。ふーこもそう思うでしょ?」

「でも姫乃っちは無口で表情筋が無いってところが男からウケてない?」

「確かにそうだけどウチは断然ニコニコ派。さっきのアレを見て変わったよ」

「ぶっちゃけ同意見」

「ふーこも同意見かい!」


 その話のキリの良いタイミングで注文の順番がやってくる。

 亜美はきなこミルクタピオカを注文し、風子はココナッツミルクタピオカを注文する。

 二人とも秋限定の和栗スムージータピオカは、1回目の時に飲んでいる。


 そんな亜美と風子は、龍馬と姫乃が座っていた席に腰を下ろし話を広げていた。


「今思えばりょうまさんって凄くない? ふーこのグイグイにしっかり対応しながら、ひめのが嫉妬しないくらいの距離感保ってたでしょ? あれ、なかなか出来ることじゃないと思うんだけど」

 と、きなこミルクタピオカをごくごく飲みながら言う亜美。


「しかも……普通にイケてたし、びっくりしたなぁ。男友達紹介してくれないかな」

「あれ、かなりのやり手だよ、やり手。なかなかお目にかかれないくらいの」

「やり手っていうと?」

「悪く言えば女をはべらせた経験がバチクソあって、その経験値を全部姫乃っちに当ててる感じ」

「なにそれ」

 悪く言えばではない。かなり、、、悪く言っている風子。


「良く言えば姫乃っちしか見てないっていうか、姫乃っちのためにしか動いてないって感じ」

「あー、そっちは納得」

 前者は0点。後者は100点。計50点正解の風子である。

 だが後者の回答には大きな穴がある。

 それは姫乃のことが好きだからというわけではない。姫乃からお金を貰うため”だと言うこと。


 龍馬が仕事、、でデートをしていることに気付く者は誰一人としていない。それくらいに馴染めている。


「まー、結局のところりょうまさんは、ひめのにベタ惚れってことでしょ? ひめのの趣味をしっかり受け入れてるし、いい彼氏だよホント。……はぁぁ、ウチに内緒で彼氏作ってたなんて……恨めしい」

「これを言うのはなんだけどさ、あたしのカレシよりイケてるよね。龍馬君。めっちゃオシャレだったし」

「それ、彼氏にバレたら泣かれるぞー」

「じ、じょーだんだよ、冗談!」

「今のトーンは本気だった」

「バ、バレたか! でもイケてるだけが全てじゃないしね!」


 なんて失礼まがいなことを言うのも風子の特徴である。


「てかさ、少し違和感なかった? 『大好き』ってセリフを聞いた時の龍馬君。ぎこちないっていうか、あくまで友達に対してみたいな」

「ちょ、疑いすぎでしょ。彼女の前でならぎこちなくなるって」

「でもやり手の男だよ? 龍馬君。そんなウブ的反応は卒業してるでしょ」

 

 ちょっと熱が入り気味の風子。龍馬がやり手というのは完全な誤解。

 お金をもらうため。その目的が龍馬の演技、取り繕い方を向上させている。結果、風子の勘の良さの上を行っているのだ。


「だぁいすきな彼女だったらウブさは見せるって。全部が全部慣れてたらもうロボットじゃん。付き合ってても楽しくないと思うし」

「それを言われたらそうだけどぉ……」

「嫉妬は醜いですぜぇ。ふーこちゃん」

「アミには言われたくないって! いやマジで!」

「ははっ、違いないなぁー!」


 姫乃と龍馬を話題にしてタピオカを美味しく飲む二人。

 恋話、世間話、愚痴話。最後は人を傷つけるものだが、この三種が盛り上がる話の代表である。


「でも一体どこであんな人を見つけたんだろうなー、姫乃っちは。出会いとか聞くの忘れたし、今までにカレシがいる気配ってなかったよね? アミもそうでしょ?」

「まーそうだけど、そこはひめのらしいところだと思ってる。ひめのは秘密主義なところ多いし、それがキャラとしても似合ってるところではあるしね」

「え? 秘密主義って?」


 風子にとって秘密主義な姫乃というのは初耳だった。


「あ、言ってなかったっけ? ひめののスマホを覗いちゃった時のこと」

「全く知らない。……で、姫乃っちのスマホを覗いたらどうだったの? まさかアダルトサイト見てたとか!?」

「違う違う。ちょうどその時にひめのがツイッターしてて……フォロワーさん10万人くらいいたんだよ。やばくない!?」

「ん!? 10万!? それってフォロー数がバチクソ多いとかじゃなくて?」

「チラッと見えただけだから確証はないけどフォロー数は3桁だったよ」


 フォロー数が3桁。その最大をあげると999人。

 そしてフォロワーをあげると100,000人。

 この二つを差し引いてもフォロワー数はざっと99,000人以上。どれほどの知名度があるのかは見ての通りだ。


「あのさ、それって姫乃っちが別の人のアカウントを見てただけだって。いくらなんでもそれはありえないし」

 その手の情報を何かしら拾っていたのなら疑ってはしなかっただろうは、風子は初耳なのだ。友達がそれだけの有名人だとはそう簡単に信じられるものではない。


「ううん、アカウントに切り替えたところを偶然見たから間違いない」

「切り替えたところって……え? じゃあマジじゃん……」

「マジだって。こんなこと嘘ついても仕方ないし」


 タピオカを手に持ちながら冗談口調のない真顔のやり取り。


「つまり姫乃っちって何者なん……? 超有名人じゃん。なにかやってないと絶対その数字出すの無理だって」

「だよね。ウチもツイッターしてるからわかる」

 Twitterを利用している者ならばそれがどれだけ凄いことなのか、並外れていることなのか、たやすく理解できること。


「だからさ、りょうまさんとはツイッター関連で繋がったんじゃない? むしろそれしか考えられないっていうか。ひめのはインドア派だし」

「どんどん謎が増えてくじゃん……。え、じゃあ龍馬君も有名人ってこと?」

「さぁ、どうだろ……」

「もうわけわかめ」


 姫乃と龍馬がデートをしている最中、亜美と風子は頭上にハテナマークを浮かばせているのであった。









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