第17話 海賊艦は決戦に臨む

「この作戦の要諦は、強襲揚陸艦の運用にかかっています」


 ウェルスは戦闘要員を集め概要を説明する。自動航行する汎用軍艦の真下に位置し、都市空母からのソナー探知を避けつつ接近するのだ。


「いいだろう。この際だ、重装歩兵とパワードスーツも投入して、奴らに目に物をみせてやろうじゃないか」

 パルミュラ艦長の言葉に艦橋ブリッジ内は湧きたった。


「ところでウェルス。この作戦には君も参加したまえ」

 パワードスーツを使いこなすのは、彼が一番慣れている。これには誰も異議はなかった。ただ副官のルセナだけは、なぜか目を伏せている。


「大丈夫ですよ、ルセナさん。きっと上手くいきます。そんな心配そうな顔をしないでください」

 気付いたウェルスが声をかけると、ルセナはかすかに笑顔をつくった。


「プラット、ホイットニー、アリソン。それぞれ3人ずつ選抜しろ。アリソン隊の3名は重装歩兵要員とする」

「9人って。それは、あまりに少なくないですか、艦長」

 パルミュラは困惑顔のプラットを見て、首を振った。

「我々はあの空母を制圧しに行くわけじゃない。局地的に勝ち、そしてすぐに撤退する。大人数は必要ないさ」

「それは、そうでしょうが……」

「諦めろ、プラット。艦長が決めたことだ。俺たちは従うまでだ」

 アリソンが宥めるように口をはさみ、プラットも、ああ、とつぶやいた。


 ☆


「なあ、ウェルス」

 艦長室のベッドにうつ伏せになり、パルミュラは呼び掛けた。ウェルスはその彼女の腰を揉まされているところだった。


「お前は、前の都市空母ではずっと研究室に閉じ込められて居たのだったな」

「え、まあそうですけど。どうしてです」

「お前はまだ若い……もっとこの世界の事を知りたいと思わないか」

 ウェルスは首をかしげた。

「仰っている意味が分かりませんが」


 うん、とパルミュラは頷いた。しばらく黙り込んだあと、呟く。

「……実は、わたしも何を言いたいのか分からないんだけれどもな」

 いつの間にか、パルミュラは眠っていた。


 ☆


 部屋に戻ると、アクィラとコルタがベッドに潜り込んでいた。シーツの中ではすでに服を脱いでいるらしい。


「失礼しました」

 背を向けて部屋を出ようとするウェルスを二人が慌てて呼び止める。

「待ってよ、ウェルス。お姉さんと一緒に温まろう」

「今日はボクを好きにしていいから」

「二人とも艦長みたいなこと言わないで下さい!」



 コルタは疲れ果て、猫目を半分開けたままで、気を失ったように眠っている。だが、アクィラは汗だくのウェルスの上で、ずっと体を重ねている。

「もっと、もっとです。ウェルス」

 うわごとの様に繰り返している。

 ぽたぽた、と涙がウェルスの胸に落ちる。

「こんなに大好きなのに……」


 クローンであるウェルスには、いわゆる生殖能力が無かった。


 採取した精液を検査した結果を告げるルセナの顔をウェルスは思い出した。

 もちろん、遺伝子操作を行えば受精は可能だが、それはこの艦では技術的に不可能だった。だからこうやって、どれだけ愛し合ってもアクィラたちの中に新しい生命が宿ることはない。


 それは艦内の誰もが分かっていた。けれど一縷の望みを抱き、彼女たちはウェルスをその胸に抱きしめるのだ。


 ☆


 その日、海は深い霧に包まれていた。

「真っ白ですね。艦長」

 ウェルスは満足そうに頷いた。

 霧に含まれる成分の影響と言われるが、こんな日はレーダーの効果が減殺されるのだ。


「ふふっ、やはり日頃の行いの良いものが勝つのだな」

「お願いですから不吉な事を言わないで下さい。艦長の行いの悪さに敵う人は、この世界に居ないですから!」

 得意気なパルミュラ艦長を見て、ウェルスはガックリと肩を落とした。


 こうして決戦の日は明けていった。








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