懺悔其の三十一 赤い服着た爺さんだと?

「はぁー、まだまだ暑いねぇ」


 夏のピークを過ぎてはいるが、まだまだ暑い。

 さっさと冬になってほしい。

 そう言えばアタシがここの担当になってからもう半年になるのか、何だかんだと早いもんだ……


 ん? なんか引きずる音と鈴の音がするぞ? 新しいタイプの暴走族か?

 音が止んだな、この付近で停まったようだ、しばらくすると扉が開く……そして


「フォッフォッフォ、メリークリスマス! 皆いい子にしてたかなぁ……ありゃ?」


 白い顎髭を蓄えた少し恰幅の良いボディ、赤い服に赤いズボンを穿いて頭には赤のナイトキャップのような帽子をかぶった七十ほどのジイさんが立っていた……肩には白い大きな袋を持っている。

 ああ、どうみても聖ニコラウスがモデルになったあの人だ。


 オーストラリアではサーフボードで登場するサンタクロースってヤツだな。


「実に言いにくいんだけど、ちょーっと出番早いかなぁ」


 アタシの言葉を聞いても、余裕のある顔で顎髭をなでながら


「フォッフォッフォ、なーに問題はないよ。ほれ、日本の歌にもあるじゃろ」


 顎髭をなでながらすこし思い出そうとしているサンタクロース。


「えーと、こんな歌じゃったかな?」

「ん? クリスマスソングか?」

「えーと。中山道のサンタクロース、クリスマス前にやってきたじゃったかな?」


 んー、なんか違うな……いやいや全然違うじゃないか!


「中山道じゃねーよ! あわてんぼうだよ!」

「いやー、中山道にもおるかもしれんぞ?」

「いねぇよ!」


 中山道出身のサンタクロースって何だよ、そもそも中山道って街道名じゃねーかよ。


「で、何でもうサンタの恰好してるんだよ、せめてハロウィンまで待とうよ」

「え? ワシは一年中この格好じゃぞ」

「は? まじで?」


 サンタだと思い込んでる系?


「まあ、ワシは世界中におるからなあ」

「いやいや、待て待てサンタクロースって架空の人物じゃないの?」

「なにを言っとるんだ、実際ここにおるではないか」

「え? サンタのコスプレ爺さんじゃないの?」


 サンタはアタシの肩に手を置くと、首を左右に振った。

 どういう意味なんだよその行動は!


「娘さんはサンタに会ったことが無いのか? じゃから信じておらんのじゃな」

「ぬあ! 確かに会った事なんてねぇよ! お父さんサンタですら会ったことねぇよ」

「まあそれは仕方のない事じゃな、ワシは世界中におるがワシも全ての子供に会えるわけじゃないから仕方ない事じゃ」


 世界中にいるってのも意味が分からん。


「世界中にいるってどういうことなんだい?」

「言葉の意味のままじゃよ。世界中にワシはおりそのすべてとワシは繋がっておる」

「ネットワークみたいなもんだな」

「ふぉっふぉっふぉ、そうかもしれんのぉ」


 顎髭をなでながら笑うサンタ。

 そしてアタシの全身を少しの間見つめている。


「ふぉっふぉっふぉ、どうやら娘さんはこの一年は良い子でおったようじゃな」

「はぁ? アタシみたいな元ヤンが良い子だって?」

「元なんじゃろ? 今は違うならそれで良いではないか。ふぉっふぉっふぉ」


 そう言うとサンタはまた笑った。


「せっかくじゃし、クリスマスには早いが娘さんにもプレゼントをあげよう。娘さんが欲しがってる物の一つをあげよう」


 アタシの欲しい物をくれる? 靴下に手紙も入れてないのに分かるものか。


「はは、本当にアタシの欲しい物が当たったなら、アンタがサンタだって信じてやるよ」

「なるほど、では娘さんに信じてもらうために面白いもの見せてやろうかね」


 サンタはそういうと、アタシの前に白い袋を置くと袋の口を開けた。


「特別じゃぞ、中を見せてあげよう」

「いいのかい? 企業秘密とかじゃないの?」

「ふぉっふぉっふぉ、秘密とは言っておるが別に見られて困るものでもないんじゃよ」


 アタシは胡散臭そうな顔で袋の中を覗くとそこには……

 お茶漬けの素と乾燥ネギが一つずつ入っていた……


「なんじゃこりゃー! 何故、茶漬けの素と乾燥ネギ?」

「じゃろ? 見られても構わんのじゃよ」

「じゃあ、プレゼントはどこにあるんだい?」


 と、いうか何でそれだけで、袋があんなに膨らんでるんだよ!

 そしてサンタは袋に手を入れるとガサゴソと何かを探しはじめる……まさかプレゼントって乾燥ネギじゃないよな? アタしゃネギなんていらんぞ。


「お? これじゃな」


 どうやらアタシの欲しい物があったらしい。

 サンタは袋から手を出すとそこには……


「これじゃろ? 娘さんの欲しい物ランキング四位の品じゃ!」

「な、まさか……」


 アタシは驚きを隠せない、袋の中には茶漬けの素と乾燥ネギしか入ってなかったのに……

 あんなもの隠す場所は無かったはずなのに……


「あ、あぁ……それをアタシにくれるのか?」


 サンタはアタシにプレゼントを差し出しながら言った。


「少し早いがメリークリスマス娘さん! 良い子へサンタさんからプレゼントじゃぞ!」

「あ、ありがとう」


 アタシはガラにもなく少し泣きそうになった、そしてサンタにお礼を言う。

 あと、三か月は少しじゃないから……


 アタシはサンタの手からプレゼントを受け取る。

 まさかこの手にこれを持つ日が来るなんて……


「あ、あぁ……まさかまさか。アタシの元にしかも新品で手に入るなんて」


 アタシはサンタの目の前だというのに、大人げもなく貰ったプレゼントを掲げる。


「本当に欲しかったよ!Vサタ〇ン!!」


 〇クターが作ったサ〇ーン! これでガーディアンヒー〇ーズがプレイできる!

 サンタは頷きながら言った。


「これで信じてもらえたかな?」

「ああ、信じるしかないじゃないか……」

「それは良かった」


 サンタは頷いていた。

 アタシはこの疑問をサンタに会ってからずっと抱いていた。


「しかし、なんで今の季節に活動してるんだ?」

「ふぉっふぉっふぉ、なーに単なる勘違いで三ケ月早く来てしまっただけじゃよ」

「流石にその勘違いはダメだろ!」


 サンタは欠伸をすると。


「いやー、流石に早く起き過ぎたわい。さて良い子にプレゼントは渡したし家に帰って寝直すとするかの」

「あ、そんな適当でいいんだ?」

「ふぉっふぉ、そりゃあのワシ、クリスマスにしか仕事無いからのぉ」

「そうなのか」

「そうなんじゃよ」


 そしてそう言うと、サンタは扉の方に向かって行った。


「それではの、またクリスマスにでも会おう! メリークリスマス!」


 サンタが出ていき少しすると、また鈴の音と何かを引きずる音が聞こえた。

 アタシは急いで窓から外を見ると……


「ソリが空飛んでやがる……」


 今回は懺悔でも相談でも無い珍客の相手をした一日だった……

 あ、パ〇メモリー買わないと。

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