懺悔其の二 娘大好きお父さん

 

 シスターケイトの陰謀のせいでこの懺悔室ファッキングルームの担当になってしまった……

 アタシャ最近までヤンキーだったんだぞ、無理に決まってるだろうが。

 そんなことを考えていたら誰かが部屋に入ってきた。


 少しよれたスーツに黒縁の眼鏡、綺麗に整った七三分けの髪型、歳の頃は四十後半くらいの男性だ。


「どうか私の悩みを聞いてください……」

「どうされました?」


 アタシが声をかけると、男は淡々と語りだした。


「ここ数年ですが、娘が私と一緒にお風呂に入ってくれないのです」


 は? 何言ってんだこのオッサン? 娘って幾つだよ


「そうですか、失礼でなければ娘さんの歳は幾つになりますか?」

「今年で一八になります」

「……」


 うん、何言ってんだコイツ?


「え、あ。娘さんも思春期で恥ずかしいのではないでしょうか?」

「そんな! 昔はあんなにパパ、パパ言って私についてきていたのに」


 昔っていつの話だよ!


「八年前までは一緒にお風呂に入っていたのに……」


 アタシにゃよくわからないけど、十歳って親父さんと風呂って一緒に入るもんなのか?


「数年前から呼び方もパパから父さんになってしまうし。あぁ、娘はグレてしまったのでしょうか?」


 絶対にそれ思春期とか反抗期だろ、グレるってアタシがそうだったからわかるけど、そんなもんじゃないんだよなぁ。


「それはグレてるわけではありません、そこだけははっきりとしていますから安心してください」

「そうなんでしょうか? 私の下着と一緒に自分の下着を洗うのを嫌がるんですよ!」

「年頃の娘さんには良くあることです、安心してください」


 男はプルプル震えている、何かを恐れているような感じさえ見受けられる。

 少しの間プルプル震えていたオッサンが、突然ガタって音を立てながら立ち上がり。


「ああ、恐ろしい娘が遠い存在に感じられる……まさか! 男か! 男が出来たのか?」


 男は興奮した様子で声を荒げる。

 良く分からないが自分の妄想に恐怖してるのか?


「おい、オッサン落ち着け! いいから落ち着け」

「シスター! 貴女は誰の味方なんですか!」

「少なくともお前の味方じゃねぇよ!」


 いけね、いつもの口調になっちまった。まあ、いいか。


「それ思春期だから、普通の事だからアンタは多分嫌われてないから!」


 初回から濃いの来たヨ、アタシは行き成り泣きそうだよ……

 オッサンが少し落ち着きを取り戻したようで椅子を戻し、また座った。


「シスター、申し訳ありません。少し興奮してしまいました」

「ああ、落ち着いたならそれでいいよ」


 男は落ち着きを取り戻し再び語りだす。


「私は妻と娘のために仕事に励んでおります」

「そうでしょうね、それは素晴らしい行いだと思います」

「娘なんて尻の穴に入れても痛くないほど可愛いと思っております」

「なるほど、なる……ん?」


 アレ、このオッサン今変なこと言わなかったか? 確か普通は目に入れても痛くないだよな? それを今、尻の穴とか言わなかったか?


「すいませんが、目に入れても痛くないではなくお尻の穴ですか?」

「そうです! 目に入れたら痛いじゃないですか! ですがお尻の穴なら痛くはありません、むしろ娘がお尻に……想像するだけでも。フォー!」


 オッサンまたも突然プルプル震え出し、今度は奇声を発しながら垂直に飛んでいる。


「ちょっとお前何言ってんだ? 気は確かかオッサン! 何想像して興奮してるんだよ、娘さんの思春期とか関係なくオッサンがそんなだから避けられてるんじゃないのか」


 アタシの最後の言葉にオッサンが反応する。オッサンは誰かに殴られたような衝撃を受け勝手に吹っ飛んだ。


「備品壊すなよ」


 今度はアタシの声が聞こえなかったかのように、ゆらーっと立ち上がりゾンビのようにフラフラと歩いてくる。


「私が娘に……ケツの穴に入れても痛くない、むしろ気持ちが」

「だからそれがダメなんだっつーの」

「ですが……親が娘に愛を注ぐことの何が悪いんですか?」

「悪くは無いと思うぞ」


 アタシの両親はアタシにゃ無関心だったけどな、だけどシスターケイトがいてくれた。

 こんな変態でもアタシの本当の親よりは何倍もマシだとは思う、この人の娘さんには悪いが少しだけ羨ましいよ。


「そうですよね! 私は娘が心配でいつも娘の登下校を陰ながら見守っていますし、娘に悪い虫がつかないように監視していますし。娘のスマホに盗聴器もしかけています」


 前言撤回、こんな親父は嫌だわやっぱ……もはや娘のストーカーじゃねぇか。


「あー、良く聞けオッサン、流石に娘さんの事も考えてやろうよ」

「私はいつも娘の事を考えています」

「いや、そいつは娘さんの事じゃなく、自分の事しか考えてないよ。アンタは自分の都合を娘さんに押し付けてるだけだ」

「バカな……」


 ただ、娘が大切なのは理解できるんだよなぁ。


「アタシの両親は完全にアタシにゃ無関心だった、それに比べればアンタは良いオヤジだとは思うよ。だけど干渉しすぎもダメだと思うんだよ、娘さんのことを思うなら信用してやって少し距離を置くのも優しさじゃないかね?」


 アタシの言葉にオッサンは黙り込んでしまい考えているようだ。


「シスター……可哀想に」


 え? アレ? なんでオッサンがアタシの事を可哀想だと思うんだい?


「シスター! 良ければ私の事をパパと呼び、実の父親のように思っていただき尻の穴に入っていただいてもいいんですよ! さあ!パパと呼んでください」

「いや、アタシの事はどうでも良いんだよ! オッサンの事なんざパパとよばねーし、尻の穴に入るとか頭おかしいだろ!」

「照れなくてもいいんですよ」

「照れてないから!」


 訳のわかんねーこと言いだしたぞコイツ、最初からコレとか本当に泣くぞ。


「オッサン! アタシの事は良いんだよ。アンタの娘の事だよ!」

「ああ! そうでした」

「とにかくあまり干渉しすぎもダメだ、一定の距離を取るんだよ。まずは娘さんと話し合ってみるといい、こんな小娘に説教なんてされたくはないだろうが、娘の事を思うならもう少し考えてやってくれ」


 オッサンは落ち着いてアタシの言葉に耳を傾けたあと。


「そうですね、流石に毎日登下校を監視したりスマホに盗聴器は少しやりすぎかもしれません、一度娘とよく話し合ってみます」

「その方がいいと思うよ」

「シスターもありがとうございます、シスターも頑張ってください。本日はありがとうございました」


 オッサンはアタシに礼を述べると、晴れやかな顔で部屋を出て行った


「つかれたー……初日なのにあのオッサンはハードモードだろ」


 アタシは椅子に深く座ると溜息をついた


「だけど、オッサンの最後の晴れやかな顔、ここを出ていくときにああいった表情が見れるなら悪くないのかもしれねぇなぁ」


 アタシが呟くと後ろから声がした。


「レナちゃん、完全に口調が戻ってるわよ」

「うわ! シスターケイト」

「でも、懺悔室の事少しわかってくれたかしら?」

「どうなんだろうなあ、とりあえずは続けてみるさ」


 アタシの答えを聞いたシスターケイトは微笑んでいた

 こうしてアタシの懺悔室一日目が終了した。

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