5、オジサンのフュージョン!

 俺は敵に背を向けて駆け出した。



「ゲイのオジサンにお尻りを向けるとは、いい眺めだね〜……はぁ! 意味なく影分身!」



 何で意味もなく分身すんだよ!?


 分身した5人のオジサンは、俺を囲む。


 クソ! 5人になったから恐怖も5等分だ。

 ん? 5等分?

 さっきオジサンは5人になると、楽しさも5等分って言ってたな?


 つまり、俺を襲う時は、"1人に戻りたい"はずだ。

 1人に戻る瞬間、そこに"スキ"が生まれる。


 落ち着け、ギリギリまで待つんだ。

 "必ず"オジサンは1人に戻る。



 俺のそばまでくると、5人のオジサンはメリーゴーランドのように回り始めて回転する。

 囲まれた俺は逃げ道を断たれたものの、確信した。



 やっぱりそうか、オジサンは再び融合しようとしている。



 だか盲点だったのは、回転することでオジサンの下半身を隠すコートが風圧でめくれ上がり、中が露出されたことだった。



 クソォ!

 5人のオジサンのフルトゥインが、ブルブル震えてやがる。

 が、我慢だ。



「「「「「オジサ〜ンの、融合フュージョン!!!!!」」」」」


 来た!


 

 オジサンは空中へ飛び上がり、太陽のように輝きを放ちながら、融合を果たす。

 そこからオジサンは俺へまっ逆さまに向かって来た。


 5人のオジサンが重なった後の隙を狙っていた俺は、オジサンの腹に矢のごとく足を伸ばす。


 一応、俺はサッカー部。

 実は補欠だが、足の力には自身がある。


 オジサンの腹に蹴りを入れると、クリティカルヒットを果たした。


「えぐぅっ!?」


 一瞬、嗚咽をするオジサン。


 勝った。

 だが、それもやっぱり、俺の"脳内"での話だったのだ。




「ヒ、ヒ、フフ……フフフ。アハハハ! 君のことだからね。"必ず"1人に戻る瞬間を狙ってくると思ったよ。だから意味がないと思わせて分身したのさ」




 そんな馬鹿な!?

 意味のない影分身が、オジサンの罠だったなんて……。

 マズい……これは本気てマズいぞ?



「やぁ〜と、捕まえた」



 黄色い歯をニタァと、見せつけ七福神の笑う神のように、目を細め、こちらをじっくり眺める黒いオジサン。



 チクショウ!

 離せ、離せよぉ!


 

 俺は足を掴むオジサンの手を、無我夢中で振りほどこうとした。


 

 すると、オジサンは後退していく。



「ちょっと、そんなに暴れると……あ、あっ! あああ〜!!?」



 幸いなことに、オジサンは階段まで追い詰められ、自身のかかとをスベらせて転げる。

 俺は振りほどくことに成功して、その様を眺めることになった。



 オジサンは後ろへ転げ、バウンドしながら転がり落ちるボールのように、階段から落下。

 階段の上から下を除くと、オジサンは遊歩道のへりに並べられた、レンガに後頭部を打ち付ける。

 


 まるでトマトを踏み潰したように、オジサンの後頭部が破裂して、地面は血の池になっていた。



 た、助かった……。


 キモチ悪いオジサンとの戦いに勝利した俺は、その場にヘタリこみ立てなくなってしまった。



 ホラー映画でよくあるが、クリーチャーと戦い終わった後、主人公は皆、精も根も尽き果て、糸が切れたマリオネットのように力尽き、エンディングを迎える。

 今の俺は、そんな主人公達と肩を並べたに違いない。



 この後、どうなるんだろ?

 やっぱり警察とか来て大騒ぎになるんだろうな?

 とりあえず疲れた。

 早く家に帰って眠りたい……。


 

 ウトウトしていると、視界の先で"何か"が蠢く。

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