2、ドンドンドン!

  汗が止まらない。

 一刻も早く、この個室から出たい

 だが、まだ、得体の知れない"何か"に囲まれているのとを考えれば、出るに出れない。


 

 個室は静まりかえり、もう危機は去ったと思い始めた時だった。



 コン、コン、コン。



 背後からノックが聞こえた。

 俺は驚き身体をよじって振り向く。



 ありえない、後ろはコンクリートの壁だ。



 コン、コン、コン。


 間違いない。

 コンクリートの向こう側から聞こえた。


 

 背後から聞こえるノックを遮るように、両耳を押さえて顔を伏せた。

 しかし、 ドン、ドン、ドン!


 

 耳を塞いでいるはずなのに、ノックの音が鮮明に聞こえる。

 まるで鼓膜を直接叩かれているような感覚だ。



 耳の奥が火で炙られるように痛くなり、キーン、という耳鳴りが響き、徐々に大きくなると、耳鳴りと共に激しい頭痛に襲われる。



 頭が破れそうだ!

 誰か、誰か助けてくれ!



 脳ミソを叩き、締め付けているような感覚。



 おぞましいことに眼下の影が、漏れ出し水が流れこむように、個室の隙間から侵入して来た。



「わぁぁぁあああ!!」


 俺は恐怖のあまり、半狂乱になりながら便器から立ち上がり、ズボンを上げることすら放棄して、ドアに体当たり。

 ドアに身体を押し当て、必死で自分がかけた鍵を、解除しようとする。



 鍵を開けると個室から飛び出す。



 ――――――――周囲は普通の光景、入る前と変わらないトイレだ。



 ズボンで足が絡まり、思うように歩けない。

 案の定、転んでしまいトイレの硬く不潔な床へ倒れこむ。


 痛たた……。


 目の前に赤い汚れが見えた。

 次第に赤い汚れは、1つ、2つ、3つと、増えて行く。

ようやくそれが何なのかわかった。

俺は顔を押さえて手で拭う。


 

 鼻から出血している。



 あぁ……止まらない、止まらない。血が止まらない! 

 


 鼻を抑える手の隙間から、止めどなく溢れる落ちる、生暖かい液体。



 再び頭痛が襲う。

 誰かに脳を、力いっぱい握られているような感覚だ。



 床で芋虫のようにのたうち、苦しんだ後に意識は遠のき、気を失った。



#####



 その後、トイレで倒れているところを、当直の看護師に発見され検査の為、病院へ緊急搬送。


 医者の判断で、すぐさま応急処置がほどこされる。



 意識はほとんどなく、自分がどんな治療を受けていたのか全く記憶にない。

 医師の治療により、身体は回復へ向かい精神状態も元に戻った。



 数日後。

 回復の後は、田舎から両親や友達も駆け付け、心配の声を口々にした。

 自分が警備する病院で、ここまでの大掛かりな治療を受けるはめになるとは、思わなかった。



 身体が元に戻ると、病院側から説明がなされる。



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