うらやましい


「なに! 勇者モモエが!? 」

「はい…… 恐らくもう殺されていると思われます」


この言葉に一番、唖然としたのは宗教国チバーカの教皇だった。

勇者が復活せず死んだという事は……

「神が我々を見放したというのか…… 」


その教皇の呟(つぶや)きは重くその場の空気に沈んだ。





城の外では軍と神聖者が魔物の対策に忙しく走り回る


魔物を迎え撃つ準備があるのだ。





万の数の魔物を迎え撃つにはそれなりの武器が必要だ。





――― 街の中央には高さ333メートルの塔がある。


これは山野百恵が勇者召喚されホームシックに陥(おちい)った時に友人となっていたアメカの姫が百恵の為に建てたものである。






それは単なる雑談からだった…… ホームシックになりブツブツと紅茶を飲みながら姫に愚痴っていた……

「東京タワーの夜景は綺麗だったなぁ…… 」

「東京タワー? 」

「うん…… 電波塔でね形は…… 」


美術の授業が得意だった百恵が絵と話で姫に伝えたのだ。

「これが…… 東京タワー…… 」

「うん…… なんか私は好きだったなぁ…… 」





それから数ヶ月ダンジョンに籠り旅をして帰るとアメカに東京タワーが建設されているのを見て始め百恵は爆笑した。


「元気になった? 」

姫の優しい笑い声に目が潤む

「なにこれ? 壊す? 」

「やめてよリカー! もう 」

「じょーだんよ! 姫とばっかり仲がいいんだもん」




「東京タワーを異世界で見るなんて…… 」

百恵は困ったような笑い顔でそれを見上げていた。


そんな暖かい日の思い出……







「どうだろう? いけるか? 」

「大丈夫だと思います! 」

東京タワーの展望部分に魔道具が設置される


「もう魔物の大軍はすぐそこだ急げ! 」

「ハッ! 了解しました! 」


軍部と神聖者が設置作業を進める。

これは魔導レーザーといい魔力を送ればその分だけの威力を圧縮して撃ち出すという兵器だ。


雑に言うとビニールのホースと同じである。


・魔力を一箇所に集めて打ち出す。

・水道の蛇口から水を出しホースの出口から水が噴き出す


つまりそういう事だ。



魔導レーザーの弾は魔力…… この国には今、魔力が溢れた日ゼロディで強化された人々がいる



「これならイケるだろ」

「ああ! 絶対大丈夫だ! 」


国民の全てが東京タワーに魔力を流すと力が蓄積されレーザーとして射出しようとしているのだ。

「レーザー孔(こう)の周りの結界は? 」

「ちゃんと開けていますよ。結界に反射されたら元も子もないですからね」


神聖者の現場代表が近衛に答えるとお互い頷(うなず)く




時を同じ頃……

「では! 」

「おうよ! 」

国王と教皇が城のバルコニーに立ち風魔法を使う。


国王がまず口を開く

「国民の皆、聞いてくれ知っていると思うが今から魔物を駆除する…… 皆の力を貸して欲しい」



次に教皇が咳を一つして両手を広げて語りかける

「神聖者の皆よ…… この地は我が国ではない。しかしここで魔を滅ぼさねば我々は死に行く運命を進むだろうお互いに力を合わせよう」



風魔法で声は拡散され国民の全てに伝わり大きな歓声が広がる

希望…… それを信じて人々は手を打ち鳴らし拍手を始める。



「さて皆よ! 東京タワーに向かい魔力を流してくれ! 」

「神聖者よ神の裁きを奴らに! 」

国王と教皇の話が終わる前からフライング気味に人々は東京タワーに魔力を流し、それに遅れまいと魔力付与の輪が広がっていく。



王都の人種族の結束に国王と教皇は笑顔で目礼し合った。





「陛下! 魔物が射程圏に入ります! 」

伝令が大声で伝わると国王は腰の剣を抜き魔物が迫る方角に突き出して叫ぶ


「撃て!!! 」


グググググと地を引き剥がすような鈍い音が東京タワーから発せられて塔全体が光り輝く


光は東京タワーの展望台部分にギュンと集まりピカッと太陽のような光が放たれた!



グワッシャーーーン!

落雷のような音をならし放たれた魔法の光はナパーム弾が地表を焼くように高熱で一気に魔物と景色を融解(ゆうかい)させた。


さすがにチートを得た魔物でも東京タワーのレーザーを防ぎきれない

といっても人種族の女性達が量産出産したゴブリンとオーガの内の数千匹でしかない。








――― あー……

まだチート残っていたかぁ……

神は百恵を他の世界に送ってから再度ディール(このせかい)が映るテレビで見た


とっとと『終わらせ』ないと

新しい箱庭ゲームミニスケープで遊べない……



ちなみに百恵は次の世界では制限付きのチートを与えられた。

辛い人生になるだろう。




神は何も無い空間から様々な物理ボタンやスライダーを出現させてディールこのせかいの人種族が困難の中で・・・・・滅ぶように設定をし始めた。









スバーーン! グワッシャーーーン!

東京タワーから何度も何度もレーザーが放たれる


「しかし…… 減らないな…… 」

兵士の1人がボソリと呟く


王都に攻め込む魔物の数が減らないのである。


どれだけ人種族の女性が酷使・・されたか想像に易(やす)い


グワッシャーーーン!

さらに東京タワーから攻撃が放たれた後に地表に立つ兵士が異変を感じる。


足元(あしもと)からズクズクと痛みや痺(しび)れが体に上がってくる……


裸足(はだし)だった獣人は紫色の疱瘡のようなものが足を覆いだす


「ど…… 毒だ‼︎ 」

1人が叫ぶと混乱が広がる。


そう…… 神は地表の設定を毒に変えたのだ


もちろん魔物も毒に倒れるが今の魔物はチートを与えられているので体内にある心臓のような臓器の魔石に毒が達すると耐性が出来てスックと立ち上がると進軍を再開する。



一方、防衛の人種族は耐性など出来ない。


「え…… エクストララウンドパリフィケイション‼︎ 」

神聖者達が急いで地表を浄化する極大魔法を唱えると兵士は安堵(あんど)の表情を浮かべるが……

「な…… なんだと!? 」


円状に広がった浄化魔法はリバーシをひっくり返すように地表をスグに毒に戻す


沼や地表の毒なら魔法で浄化できる

しかしこれは神の設定なのだ。 地殻の奥底まで猛毒に侵されている……


プールに新しい乾いた布を浮かべてもスグに水が浸されるように猛毒の惑星の地表だけを浄化しても意味がなかった



「皆の者! 早く建物の高い所に! 」

アメカの兵長が大声で支持を出すのとアメカの城門を壊そうと魔物が叩き出すのは時差がなかった。





「これは…… もう…… 」

「ああ…… 」

城の高い場所から戦局を判断していた王と教皇は感情の無い顔で肯き合う


もうここにまて毒素が気化して漂い出しているのを感じる。


「しかし…… 酷い終わりだな…… 」

「と言っても女と子供がもう居ないんだから結果…… な…… 」

分かっていたが恐ろしくて言えなかった事を教皇が王に話すと、ヤケになったようにお互い大声で笑う。


「おい! 」

王が会話を聞いていた近衛を呼び寄せると笑いを止めてく真顔になり口を開く


「死ぬ事を推奨すると国民に伝えよ」

「…… はっ! 」

近衛は歯をぐっと噛み締めてこれに短い言葉で答えると部屋から走りでる。


「いいな…… 」

教皇が愚痴る

「…… そうか教義で自殺は出来ないんだったか? 」

この世界の信仰は強い。

魔法や勇者があるのだ当然だ。


その教義には自殺を許さずとある……



「では…… 先にな…… お前はいい友人だったよ」

スラリと腰にある剣を王は抜きながら教皇に話す


「ああ…… お前もいい友人だった」

教皇の返答に笑顔で答えると自分の首に剣を添えて一気に振り抜くと王は痙攣しながら倒れた……



「本当に…… 羨(うらや)ましい…… 」

教皇は友の死に涙を流しながら城の外を眺める

アメカの兵士や国民のほとんどが自害をし

神聖者や自害出来なかった者は城に雪崩れ込んだ魔物に……


無惨に食べられて叫ぶそれを見て教皇は顔を歪めそして

「本当に…… 羨ましい…… 」

もう一度、そう呟(つぶや)いた

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