採取と盗み



新たな部屋には下への階段は無かった。


「…… 階段はないですねぇー」

「長い時間、開かなかったから時世と共に噂話に尾鰭(おひれ)がついたんだろうな」


俺は鬱蒼と茂る薬草の群生地を何かを探すフリをしながら奥へ進む。

ゲールとシャティは階段や宝箱が無いのを確認すると少しガッカリしながら薬草を積みだした。



俺は〈キーサーチ〉が示す場所へと、チラチラと2人を確認しながら平静を装って近づく。


〈キーサーチ〉

この部屋に何か隠された物があるか?


△北へ5メートルの場所に薬草とヨモギに隠れるように小箱が落ちています。


部屋は縦横20メートルほどの広さがある、北へ5メートルという事は……


俺は薬草を摘みながらそこに近づく。

———————— なるほど。


雑草と花に隠れた1メートル程の台座があり、その上には色が時間経過で褪せたのだろう汚い手に乗る程の小箱があった。


俺は背中のカバンから汗を拭くタオルを出しながら同時にスルリと焦らず当然のような雰囲気で小箱をカバンの中に滑り込ませた。


〈キーサーチ〉が反応する程の物だ。

ここでゲールにバレたら王国預かりになり持って行かれる可能性がある。

後々、一人で開けて中身を確認して有用なら黙って戴いてしまおう。


「ふー…… 暑いですねダンデスさん」

「使うか? 」

俺はシャティにタオルを渡して薬を作るのに必要な素材を〈キーサーチ〉を使い効率的に採取して革紐に縛り集めて行く。




そうだ、これだけ素材があるならば……


「ゲールさん、今…… そうだな…… 王城で一番に望まれている薬は何ですか? 」


ルールー氏に仕事で媚を売るのもよいだろうと提案してみたがどうだろうか?


ゲールは見たところ人間種族で…… 年齢は17〜18歳といった所か……

頭は良さそうだがこの質問は捉え方によっては王城のウィークポイントを聞き出そうとしている…… と勘繰(かんぐ)る事もできる。



ゲールさんは「う〜ん 」と顎に人差し指を添え考えた後に

「そういえば…… 媚薬がどうのこうの…… 」


…… 全く、金と権力がある人間の考える事はどの世界でも一緒だな


俺は〈luck Key〉モードを発動して一応、自分に自己幸運マイラッキーを20付与して媚薬の素材を探す。


〈luck Key〉モードを解除しても1時間が終わるまで幸運は維持されるのは実験済みなので、其(そ)のまま〈キーサーチ〉に媚薬を作るのに必要な素材の場所をマーキングさせてて探す


幸運を付与したのは、作るのに必要な知識があっても材料が無いと意味がないからだ。幸運を使う事によって偶然に材料になる花弁が開いたのか媚薬に必要な材料のマーキングの数が2つ増える。



俺は媚薬に必要な素材を一纏(ひとまと)めにして、これも革紐で結びゲールに渡す

「これは? 」

「媚薬の素材だ」

「…… 揶揄(からか)っているの? ルールー様でもまだ作れないのに」

「いいからいいから」


ゲールはジッと俺の顔を見た後、少し頬を赤く染め恥ずかしそうに媚薬の素材をルールー氏に提出する袋に入れた。

「怒られる時は自分だけ怒られてよね? 」


ルールー氏の呆れたような声に俺は苦笑をした。




□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■


「へー…… あの扉が…… 」

「はい、ダンデスが少し弄るとガチャリと…… 」


ゲールは診療所に戻りルー・ルー・ルーとの歓談と素材の確認の為に職員の休憩室の机に向かい合って座る。


「でも薬草の素材しかなくて…… 」

「ゲール、私達には良い事じゃない採取場所が増えるに越した事はないわ…… ? ゲール、この革紐で縛っている素材は何? 」

机に開けた薬草やら花やらを選り分けようとしたルー・ルー・ルーが止まる。


「ああ、それはダンデスがポーション等を作るのに必要な素材を一纏(ひとまと)めにしておいたと言っていましたが…… 分かる訳がないのにカッコつけていただけと思いますよ? 」


ゲールは薬草の表面を乾いた布で拭きながら苦笑する。

「…… 合ってるわ」

「え? 何ですか? 」

「ダンデスが結んだ素材の選り分けが合ってるの…… しかもちゃんと切り落として捨てる要らない部分に木炭チョークで何の薬が作れるか書いてあるわ」

しかも効率が良い配分で、どこでこんな知識を得たのかと幼いダンデスを思い浮かべてルー・ルー・ルーは小さな背中をひやりとさせる。




ルー・ルー・ルーの言葉に慌ててゲールは縛られたダンデスが作った素材の束を確認していき顔を青くする。


「———————— どうしたの? ゲール? 」

「あ…… あぁ…… あの…… 」

態度がおかしいと思ったルー・ルー・ルーはジッと真顔でゲールを見つめる


…… こういう時のゲールは何かを隠している。


「…… 何? ゲール、怒らないから話しなさい」

ルー・ルー・ルーの言葉に汗を流し、ゲールは自分の腰につけたポーチを開き中から薬草や平石、いくつかの花が縛られた束を机に出す。


「これは? 」

「ダンデスが言うには…… 媚薬の素材らしい…… です。 やっぱり怒られるのが嫌で私のポーチに移動させていました…… 」

「な!!? 」

ガサガサとルー・ルー・ルーは引っ手繰るようにそれを取り上げて一つ一つの素材を確認しては中空を見て呟きを続け、最後にガタン! と座っていた椅子が倒れる程の勢いで立ち上がる。


「ゲール! ダンデスはどこに!? 」

「え!? や…… 宿屋に帰ると言ってました」

「どこの宿屋よ!? 」

「冒険者ギルド近くにある剣の置き場という名前の宿屋だったと思いますが…… どうしたんですか? 」

「おそらく…… 」

ルー・ルー・ルーは部屋の出口に歩きながら考えるように呟く。


「合ってる」

「はい? 」

「媚薬を作る素材で多分…… 合ってる。 理論的にも成分的にも、 そして分量的にも…… 」

研究者として悔しいのかギリリとルー・ルー・ルーは奥歯を噛み締めて呟く


ゲールはルー・ルー・ルーの言葉がまだ理解出来ないのかポーカーンとした顔をして

「理科という学問といいダンデスは一体…… 」

「何!? りか? 」


すぐにでもダンデスを問い詰めようとして部屋から出る間際に聞いた言葉にルー・ルー・ルーは止まる。


「は…… はい、ダンデスがダンジョンで話していた学問で酸素や二酸化炭素などの——————————————————————————……


ルー・ルー・ルーはゲールからダンジョンでダンデスから得た知識を反芻しながら話すゲールに嫉妬する。


私が、その場で聞いていればもっと良い質問が出来たのに!


「え…… ? 」

ルー・ルー・ルーはハッとする

賢者と言われる自分が知識を得て質問をしたいなんて…… ダンデス……



ルー・ルー・ルーは赤髪の美少年を思い出しながら心がなぜかムズムズと痒くなるのを感じた。


「私、ダンデスの所に行ってくる! 」

「あ! ルー・ルー・ルー様! 」


ルー・ルー・ルーは堪らない気分になりダンデスの元へ走り出した。

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