幼女と遊ぼう



「それで、アンタが作ったの? 」

「いやぁ…… ダンデスさんがぁ…… 」

シャティを睨んでいる髪を後ろに引っ詰めたグレイの肌の幼女がこちらを睨む。


…… ふむ[この娘はどういう種族なのか]の方が気になるな目の瞳孔(どうこう)が星形とはな。

どのように景色が見えている事やら。


「アンタが作ったの? 」

「いや、作ったのはシャティだ」

「あ"ーーっ! なんなのよもう! 」

この責任のキャッチボールは既に何回か続けておりとうとう、 この診療所の医師であるルー・ルー・ルー氏がキレた。


幼女ルールールーは動きやすいシンプルな木綿生地の貫頭衣(かんとうい)を着ていて椅子に座りこちらを睨む。

…… 貫頭衣とは…… 日本人で言えばポンチョと言えば良いだろうか?

まるで、てるてる坊主のような風貌の愛らしさについ虐めてしまった。


ルールー氏の部屋入り口横には貫頭衣の束が[着用済]とラベルを貼られた籠に何枚も入れられている。

それらは血のような物がベッタリついている事から怪我人を施術、回復して血などで汚れる度に簡易に着替えられるように工夫したのだろう。


粉薬や水薬が両壁の棚を覆い、部屋奥の壁には大きな窓が天井まであり採光を取り入れ、その窓がある壁に詰めた机には達筆にて書かれたカルテが無造作に置かれている。



丸椅子に座りキリッとした姿勢で睨むルールールー氏は長く医師をしてきたのだろう貫禄がある



—————— まあ、見た目てるてる坊主なのだが…… フッ



「…… アンタ、今わたしを見て笑わなかった? 」

「いえ、滅相もございません。合理的な作業衣と思い感心していただけです。」


パァーッと俺のヨイショにルールー氏は笑顔になり、貫頭衣の合理性をベラベラと語り出した。

これで「四つ葉のクローバーあったよ! 」とか言い出したらそこいらの五歳児と変わらないだろう。


クローバーか…… この世界はクローバーはあるのだろうか?

俺はルールー氏の後ろにある窓の外に目をやり遠く離れた日本を思った。


「もーーーう! ぜんぜん聞いてないじゃなーーい! 」

ルール氏が叫ぶが、まぁ愛らしい事だ。


「とりあえず、万能薬の件(くだん)は黙秘…… で良いかな? その代わりであるが…… 」

壁の水薬と水薬の間にコトリと万能薬の精製時に余った中身が半端な量の薬瓶を置く。


さて、どう出る? という嫌らしい試しでルールー氏を見る。


ルールー氏は黄金の液体をチラリと見て長椅子に控えるヨーネフ氏を見る。


それは万能薬だ、という風に深くヨーネフ氏が頷くとルールー氏は頭を手で押さえる。

「オーケー、現物があるなら研究して作れるわ…… 出会ったばかりでアナタの報酬となる物が分からないんだけど? 」

「なら渡して良い一番良い物をくれるか? 」

「——————万能薬にその価値は無いわ」


なるほど、相手の欲しい物を尋ねる程に多岐の種類に何かを収蔵していて万能薬より価値のある物を持っている。

収蔵している良いモノ・・に対して万能薬は商材として物足らずか。



この幼女、どれだけの物を隠し持っている事やら。



……案外、これは良い出会いかのかもしれないな




「では恩をもらうのはいかがか? 」

「…… 抜け目ないわねアナタ」

「貰えないなら必要な時に借りられるかもしれないじゃないか? 」

ジッと見つめ合うこと20秒程、リーリーリー氏は俺が置いた万能薬を手に取り眉間にシワを寄せる。


「成立か? 」

「まあ…… ね。アンタ人族でしょ? 何歳なの? 見た目は未成年なのに何てやり取りするの? 」

「50歳を超えてると言えば? 」

「…… なんだやっぱ子供じゃない」

「ちなみにリーリーリー様は? 」

「200歳以上よ」

「…… カッ! 」

「わーらーうーなー! 」

キーッと怒るリーリーリー氏に笑ってしまう。

だってよ、まともな話をしてるのに見た目はテルテル坊主で200歳の婆さんなんだぜ?


「ウーケールー! 」

「なっ……! アナタの仲間も失礼ね! 」

シャティもノリノリである。


「ぷーくすくすくすくす」

「ヨーォォォネフゥゥゥーー! 」

ヨーネフ氏もノリノリである。


まぁ、何かを借りられる…… という事は実際に無いだろう。

だが、王都の権力のある人間に顔を覚えられたのならば上々。

元手がタダなんだ、ガッつき過ぎて敵に回られるよりは…… これで十分、遺憾なきことかな…… だ。



□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■


「さて、私は帰るがいいんだね? 」

ヨーネフ氏はルー・ルー・ルー氏との夜の会食を2度用意してくれ、幼い彼女と建設的な話も出来るようになった。



…… 娘を助けた報酬としては弱いのではと、遠回しにヨーネフ氏に聞くと冬の王都での下級貴族宛に開かれる夜会に護衛として雇ってくれる事になった。


ヨーネフ氏は俺を金銭的な部分と名誉を欲している俗物と思っただろうが、俺には松本という懸念材料がある。人脈が必要なのだ。


松本のクソ野郎がどれだけの権力があるかは分からないが、もし下級貴族であり夜会に来るとなるならばケゴ諸共に命を巻き取れるようにしなくてはならないが…… 出来るか? 間違えば不敬罪で次こそ死刑執行されるのではないか?



外堀をもっと埋めたいのだから松本にはまだ来て欲しくは無いが……



さて、ヨーネフ氏は自分の領内に帰ると言う話だが…… 今、馬車にはシャティが乗っている。

ヨーネフ氏との打ち合わせとして本意を隠して俺と氏はコソッと下車したのだ。



「…… 彼女は元農民です。それなりの出自をつけていずれ良き縁に送り出してくれるのでしょう? 」

「うむ、エリアルが嫁ぐ年齢になり落ち着いたら貴族は無理だろうが商人か立場ある気の合う者に嫁がせよう」

「なら、それが何よりです」


この王都には住民証明があるが貴族の力を使えば領内で死亡したシャティと同年代の娘の戸籍に背乗りする事も可能なのだとか


背乗りか…… 日本ではあまりよろしく無い言葉が思い浮かぶが、ここはそのアンダーグラウンドな行為に感謝するしかない。


あまり言葉を多くするとシャティにバレてしまう。

ヨーネフ氏は俺に小さく別れの手振りをして馬車に乗り込んだ。


これで領内に戻りヨーネフ氏の家に戻るとシャティはしばらく領主館で缶詰になりお嬢様と贅沢な暮らしをする事になる。

人は贅沢に慣れたら戻るのが難しい。


金持ちという見栄や贅沢を続け借金苦に陥るバカもいるぐらい、それは逃れられない快感になる。


…… スグに俺など忘れるだろう。



走り出し小さくなっていくヨーネフ氏の馬車に俺は小さく手を振り背を向けて宿に歩き出した。








…… バタン!

ドテッ!



———————ザッザッザッ!





———————————— ん?



何の音だ? 扉が開く音?

何か? と振り向くと


半身が砂に汚れ茶色い髪がこれでもかと乱れ

ボロボロに泣いているシャティが真後ろにいた


パーーーン!

「…… お? 」

シャティは俺の頬をビンタしグイッとさらに詰め寄る。

「わだ…… わだじは、ダンデズさんと別れてやらないんですからね"!うわーーーん! 」

そして俺にしがみ付いて大泣きを始めた。


離れた馬車から半身を乗り出してヨーネフ氏がこちらを見ているのに気付いて俺は大きなリアクションで『行け! 』と合図をする。

エリアル嬢まで降りてきたらたまらんわ。


少しヨーネフ氏とエリアル嬢が馬車出口でわちゃわちゃとした後に何とか2人は馬車に乗り込み早駆けのように走り去った。


やはりエリアル嬢も降りる気合いであったかいな…… くわばらくわばら



「…… シャティ…… 困った子だ。 冒険者のようなヤクザな暮らしは出来るだけするもんじゃないんだよ? 」

「好きです。好きなんですダンデスさん」

俺の言葉なんか聞かないという風に呟きながら俺に抱きつくシャティの頭を撫でてやると、少し落ち着き俺の顔を涙目で見上げる。



…… さてはて、どうしたもんだろうか……


一層(いっそ)の事、俺の顔をナイフでギタギタにしてやろうか? この美人顔はこの世界では厄介すぎてならんな……



「とりあえず、人目もある甘いのでも食べようか? 」

「……はい、、はい!! 」


…… さてはて…… はぁ……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る