シャーンティさん




王都グラディウスは10万人都市である

10万人というと少なく思うけど、北海道の千歳市と同じくらいの人口が魔物から守るための壁の中に暮らしていると思えば規模が分かるだろう。


中央に王城がありその外に貴族が住まう邸宅、その外に金のある商業スペースその外に市民の街…… とドーナツのように丸く都市計画がされている。


その壁に近い宿屋が俺の今の根城だ。

外壁の門扉から近く、冒険者ギルドに比較的近くまたガラット鍛冶屋から遠いとなるとこの宿屋が一番良かった。


その宿屋の部屋をツインルームに変更し俺はガリガリに痩せた少女シャーンティの目覚めを待っている。


この少女を拾ったのには訳がある。



————————————————————————————————————————————————————

松本から逃げた後、俺は廃屋になり果て斜めに川に浸かる釣り小屋の鴨居に引っかかって目覚めた。


〈キーサーチ〉 に聞いて食料と水を確保して廃屋となった釣り小屋の雨が凌げるスペースに腰を下ろし「やれやれ」とぼやいて一息ついて考える。



—————— 自分のスキルに対する知識が圧倒的に足りない。



幸い周りに魔物はいないとキーサーチの判定もあるので、しばらくここに腰を落ち着けてみようと考え〈キーサーチ〉の実験を繰り返した。



では早速とluck keyモードには簡単に入れたが……

「これは…… リスクが高いな」

オートモードにするかの返答にはluck keyモードのオート機能をオフにすると答える。



俺のスマホスキルが示す魔力量は現在

2500Mマジックと表示されている

キーサーチを一度発動すると1000Mを消費するのだ。


食事量や睡眠時間で魔力総量が上下するのはここ数日で分かった。

牢屋での環境を考えると、松本に殺されかけた時の魔力総量は大分少なかったはずだ

「それでアレなら十分か…… ? 」


そう、言い換えれば体や魔力総量が酷い状態でも一つの領主が持つ軍隊に包囲されながも逃げられるという事でもある。


「———— 次、 luck key[食べられる魚]のラックを200奪ってくれ」

俺はすぐ横に流れる川に手を向けてluck keyに指示をだす。


▲川魚ハヤのluckラックをマイナス78にしますーエラー122のマイナスは出来ません

▲川魚ハヤのluckを保存


そうすると川の中から飛び上がったハヤが偶然、廃屋の木材に当たり俺の目の前に落ちた…… ハヤは木材にぶつかり死んでいるようだ。


「は…… ははははは」

乾いた笑いが出てしまう。これは凄い。


食べられる魚と言っただけで魚の種類を選ぶのもエライが…… 俺が200という多めのラックを指定したのは運を奪うだけで生き物を殺せるか?という事を調べたかったからだ。


逃走時の乱戦は剣や弓矢や環境なんかが左右されて判断出来なかったが…… 座り込んで手を出すだけで生き物の命を奪えてしまう力を手に入れたと大声で笑った。




「エラー表示があったのは川魚ハヤの運のマイナス値の限界を超える入力をした…… からだろうか? …… それと▲川魚ハヤのluckを保存…… そういえば前も保存と出ていたな…… 」


どうせならと川魚ハヤを火魔法で炙り調理をしながら考える。


保存という事は、放出リリース出来ると言うことだよな

「………… luck key、保存したluckを俺に使用出来るか? 」


▲他者のluckは術者本人に使用できません


▲術者本人のluckの保存・放出…… 可能



…… なるほど自己血輸血と同じで自分のもんは自分で貯めろってか?

「…… luck key、俺のluckを2保存してくれ 」

▲術者のluckを2保存→ 保存量2


「っつ! 」

ああ、なるほど考えながら魚を炙っていたから指先を少しだけ火傷したな…… マイナスluck2の不幸は数分で忘れる程度か。




それと…… luck keyは


▲川魚ハヤのluckラックをマイナス78にしますーエラー122のマイナスは出来ません


と答えた…… 大きく運を奪うようにすれば相手の運を数値として理解出来る…… という事だ。

luck限界が78の川魚のハヤはもしナチュラルに幸運の値を上回る釣り人と対峙すれば釣り上げられる可能性が高い



その考え方は人と人、人と魔物にも応用出来るだろう。

俺の魔力量の総量がその力技を許せる程に上がれば…… だがな……






それから俺は気候が暖かくなるまでキーサーチとluck keyの訓練と魔力量の鍛錬を続けた。——————————————————————————……







「森の生き物じゃあluckの付与は分からんかったからな…… やはり人体実験に限る…… 」

俺はボソリと呟くとベッドの上で眠るシャーンティは身を捩りパチリと目を開けた。




目が覚め目が合うとヨロヨロと俺に抱きつきながら感謝をして、冒険者として安全に生きたいと雇用を求めた。



「いや、まずは体を拭き食事をしなさいな」

「…… はい、急ぎましたね」

そのままここで服を脱ごうとするシャーンティを押し留め俺は宿に据えられた水場に案内する。



外に建てられた日本家屋のトイレ程の広さの個室に桶を持って行き水を被る…… つまり行水だその後に持って来た部屋の布団カバーで体を拭き、カバーは行水の個室横のカゴに入れる。


タオルなど貸してはくれない。

後で宿屋の受付に銅貨を一枚渡すとシーツの交換をしてくれる。



「ふー…… こんなに良くしてくれるんです………… 覚悟はしてます」

赤い顔をするシャーンティに首を傾げる。

何を言ってんだこの娘は?


まぁ、人体実験するんだし覚悟は必要か?

「ああ、よろしく頼む」


孫ほどの年齢の子供を人体実験に使うのはどうかと思うが…… まあ悪い実験ではないと自分を誤魔化す



それから宿を出て軽く食事をし、人影がない袋小路にシャーンティを連れ込む。

シャーンティは…… スカートをたくし上げ太ももの半ばまで足を露わにする。

「いや、待ちなさい。お互いに認識に齟齬がある。おじさんはお嬢さんを抱く気は無いよ? 」

「——————— え? 」



本当に? と聞いてくるシャーンティに頷くと彼女はホッとした顔で涙を流した。

良くしてもらったから体を売らないといけないと思い瞬時に受け入れたんかねぇ? 世知辛いねぇ……————————————————————————————————————————————————————……





袋小路で隠れながらluck keyモードを起動しluckうんをとりあえず10ポイントをシャーンティに付与した。


シャーンティは一瞬、炎に包まれるように赤く輝きそれが消えるとまず、どこかからの銀貨がシャーンティの足元に転がる。

「え!? なんで? お金が? 」

目を白黒させシャーンティは銀貨を拾う。


…… 幸運モードのシャーンティが歩けば何故かお腹がいっぱいになった石工職人から弁当をもらい、そんなマズイのを渡すなと石工職人の親方からさらに小遣(こずか)いを貰う。


チャリチャリと小銭をエプロンに入れて歩くと冒険に役立ちそうなミドルソードが在庫整理で販売されている場面に立ち会い、所持していた小銭で丁度に購入が出来た。


———————— ここで一時間


フゥーッとシャーンティの足元から風が吹き上がり少しスカートが捲れ上がる。

「なんか…… 気分が普通になったわ…… 」

ほぅ、気分がね……




「お嬢ちゃん、ここで終わりだよ 」

「本当に運が付与されるんですね…… なんか物語の主人公になれたような気分」

ふふっと笑いシャーンティはミドルソードを胸に抱きしめクルッとその場で回り喜ぶ



スマホスキルで時間をチェックしたのだが一時間が人に幸運を付与できるリミットみたいだ


—————これは俺自身に付与する時も同じだ。


あと、10ポイントの付与に対して消費魔力は無し、人を巻き込んで幸運が持続するという事が知れたのも良かった。


それに幸運付与中は気分が高揚するようで、まるでミュージカルのヒロインのように楽しげに歩き鼻歌を歌っていたな……



〈キーサーチ〉

あとluck keyの幸運付与ポイントは残りいくらある?


◇他人への付与ポイントは450

◇術者への付与ポイントは100



よし、もう少しシャーンティで実験を続けてみようか……


俺は満足がいく初実験内容につい笑顔になると、目の前にいるシャーンティは俺の笑顔を見て惚けた後に真っ赤な顔になり俯(うつむ)いた


ふむ、若いのは経験が少なく御し易いな……

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