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『ニジくんへ


 この手紙が君に届いているならば、俺の計画は成功したということになります。それは俺にとって、とても嬉しいことです。今この時を以て、計画は完遂されました。

 さて、今更ながら、いきなりよく分からない計画に巻き込んでしまってごめんなさい。これから計画について全てを打ち明けようと思います。


 もう知ってるかもしれないけど、俺は心臓の病気でした。

 初めて病気であることが発覚したのは、小学六年生の時。君と一緒に発表会に出る予定だったあの日の前日のことです。

 その日、俺は高熱を出しました。初めはピアノを練習し過ぎて疲れが出たんだろうと俺の親も大して気にしていませんでした。その時はただの風邪だと誰もが思っていました。

 ところが三日経っても熱が一向に下がらないので、これは何かおかしいと病院に連れていかれたところ、病気が発覚しました。

 その病気は、昔はかかったら二度と治らない病気と言われていましたが、今では医学が進歩して、治る病気とさえ言われていました。また早い段階で病気を見つけることができたので、すぐには入院する必要もなく、経過観察ということになりました。だから俺も家族も皆安心し切っていました。

 しかし、中学二年生の冬、俺は突然倒れました。救急車で病院に搬送され、緊急入院することになりました。そこで医師に言われた言葉に俺は耳を疑いました。治る病気なんじゃないのかよと思いました。初めは他人事のようにしか考えられませんでした。あまりにも、ドラマのような現実離れした出来事に笑いさえ込み上げて来るようでした。

 けれども、母親が泣き崩れ、父親までもが涙を浮かべている様子を見て、いよいよ実感が湧いてきて、俺は絶望しました。


 こうして余命を宣告されてからも、学校には普通に通い、誰にも病気のことは言わないでいました。誰にも心配をかけたくなかったからです。

 君にだけは言うべきだと思いました。君とは心配をかけるかけない程度の仲ではないことは、重々承知していました。だからしっかり伝えなければと思っていました。

 だけど俺が死んだ後、君が一人孤立してしまうのではないかと俺は危惧しました。俺がいなくなったら、君はその先ずっと悲しみを引きずって、一人で生きていくような気がしました。だから俺は、君に病気のことを伝える前に、俺の代わりに君のことを任せられる人を探すことにしました。

 そんなときにやって来たのが彼女、緒方おがた光莉ひかりでした。彼女は俺に恋愛相談をしてきました。初めは面倒くさいなと思いながらも話を聞いていると、彼女が恋をしている相手はなんと、(彼女には悪いけど、バラさないと先を書けない💦)。これはもしかしたらと思い、彼女の人となりを知るために何度か相談に乗ってあげることにしました。

 そんなある日、彼女の相談に乗っている最中に、俺は急に体調が悪くなりました。彼女は心配して俺を病院に連れていってくれました。そこで彼女に俺の病気のことを知られてしまいました。計画を思い付いたのはそんなときでした。彼女に君のことを任せ、ついでに彼女の願いもかなえられるという一石二鳥の計画です。この計画を彼女に話すと、彼女は計画に乗ると言ってくれました。そして、計画の準備のために、彼女と付き合うふりをしました。こうして計画が始動したのです。

 そのお陰で俺は絶望から立ち直ることができました。残された時間を生きる希望ができました。

 それから俺たちは毎日一緒に計画を練りました。

 夏休みの間中も、とにかく念入りに計画を立てていました。

 秋になり、学校で卒業式の話題がちらほら出始めた頃、卒業記念発表会の話を耳にしました。俺は、君との合わせる約束を果たせないまま死にたくはありませんでした。けれども、かと言って、いつ体調が悪化するとも知れないのに発表会に出てもいいのか分かりませんでした。また前の時、俺のせいで一緒に合わせられなかったこともあって、誘って断られたらどうしようという思いもありました。

 日記にも書いた通り、そんなときに背中を後押ししてくれたのが彼女でした。彼女のお陰で俺は君との約束を果たすことが出来ます。これを書いているときはまだ発表会の前なので、発表会のことを書けないのが残念だけど、それは日記の方に書くつもりです。もし約束を果たす前に死んじゃってたらごめんなさい。

 一応死ななかったときのためにと、親に頼んで高校受験もすることにしました。それに受けないとみんな不審に思うだろうしね。君との練習の合間に一生懸命勉強して、見事三人で受かれた時はすごく喜びました。けど同時に悲しくもありました。二人と一緒に高校生活送りたかったなぁって。


 さて、計画の目的は、主に二つありました。一つは彼女と君を付き合うように仕向けること。もう一つは君にを作らせることです。

 前者については、お節介であることは分かっています。でも君には俺の代わりになる人が必要かなって。それに彼女は本気で君のことが好きみたいです。だって俺がいくら好きになったって彼女は振り向かないんだぜ? 全く羨ましいよ。しっかり考えてあげてください。

 後者は、きっと俺がいなくなったら、君は友達も作らないで一人でいるようになるんじゃないかなと何となく思ったからです。

 俺が死んだ時が、計画開始の合図でした。計画の第一段階は、まず彼女が君と接触することでした。そしてどうにかして、俺が渡した鍵のことを聞き出して、それについて一緒に調べるように言います。すぐに見つけてしまっては面白くないので、先にノートを見つけてもらうことにしました。

 そして第二段階では、ノートによって明らかになった、「俺の彼女」の存在を追わせました。それによって君はクラス中の男子に声を掛ける羽目になっただろう? それは、前述した後者の目的の足掛かりに少しでもなってくれれば、と思ってのことです。このように所々で目的のために仕掛けを入れました。彼女にはキスぐらいしちゃえよと言ったけどもうしたかな?(笑)

 第三段階は、君に「俺の彼女」の正体を悟らせることでした。アルカンシエルという命名はたまたまですが、そのためにアルカンシエルでわざと写真を撮ってほのめかしたりといった小細工もしました。そうすれば、君は必ず彼女に詰め寄り、真実を確かめようとするだろうと俺は考えたからです。

 恐らくそうして今、ここに辿たどり着いたのだと思います。

 これが、俺の計画の全貌です。

 引き出しの中には、レコード盤が一緒に入っていると思います。是非聴いてみてください。聴けば分かると思います。


 最後に、病気のことを黙っていてごめんなさい。俺がいなくても、たくさん友達を作って幸せに生きていってください。彼女のこともよろしく頼みます。


 稲葉いなば 白兎しろと

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