『ありふれた職業で世界最強』から見る「ありふれた職業」の年代ギャップ

「巨人・大鵬・卵焼き」という言葉がある。これは昭和40年代前後を表す流行語であった。意味は当時の「子供(また大衆)に人気のあるもの」である。

今、この言葉に変わるモノを作ろうとしても、子供に絶対に受ける三つをあげろと言われても、困難である。その上で、語感よくという条件では完全に無理である。

(この三つが必ずしも当時で、老若男女、猫も杓子も人気だったかはよく分からない。ともあれ、公の場で発言されたことで流行った流行語の先駆けでもあるとされる)


さて、そんな子供の好きなモノというか、憧れには職業というのも含まれる。野球選手に憧れ、目指すというのは、いい例である。そして、ランキングにもなり、なりたい職業ランキングは、年代ごとに多様性を見せている。

昔は野球選手であった憧れも、今ではYouTuberユーチューバーも含まれるほどの変容である。


さて、なりたい職業、これは何も現実だけの話ではない。ゲームも同じで、ことRPGに置いては攻略の要になるため、重要な要素である。

ただ、ゲームも年代によって技術や演出面などにより、多様化していき、より攻略性が増え、歯ごたえを出すことになっていく。当然、ゲーム内の職業も多様となっていく。


つい先日、アニメも放送されて話題となっている『ありふれた職業で世界最強』(掲載開始は2013年11月)。よく感想に『「ありふれた職業」とは何?』というのを耳にする。アニメ本編では尺の関係で説明不足というのもあるだろうが、小説作中では「錬成師」という、鍛冶屋と錬金術師の合わせたような、作中の世界における一般職、「ありふれた職業」とのこと。


この説明で物語として納得しても、受け手側の「ありふれた職業」のイメージが違うという気がする人も多いだろう。

まず、ファンタジーな世界の職業が現実的でなければ、イメージしずらい。空想世界、つまりは体験済みのアニメ、ゲームで似たものがあれば、そこを意識する。

でも、それが「ありふれた職業」だったか?

これは先に語ったようにゲームにおける年代ギャップも一つ、本質として関係している気がする。


よく、なろう系小説で生産系不遇というジャンルがある。問題はこの生産系、年代的にMMORPG全盛の「ラグナロクオンライン」(日本での運営開始は2002年12月)などの生産系が根本的なイメージだと思う。


「ラグナロクオンライン」における生産系は二次職からなれるブラックスミスという職業がある。一次職、マーチャント(いわゆる商人)からレベルアップすることでなれる。

この「ラグナロクオンライン」では敵との戦闘で経験値が得て、レベルアップとなる。マーチャントでは戦闘職ではないため、パーティによるレベル上げが効率がいい。

しかし、そうなると戦闘力が下がる生産系を入れることはパーティ全体としては効率が悪いため、プレイヤーの仲間内でないと頼みづらい話である。

そのため、生産系はあくまでサブキャラで楽しむが一般であった。

(自分は「ラグナロクオンライン」を旧二次職が実装した当たりをピークでプレイはしていたけれど、その後はプレイしていないため、仕様変更している箇所があるかもしれない)


さて、「ラグナロクオンライン」について語った通り、なろう系小説の生産系不遇とはこの年代のMMORPGを原体験した作者が作り出した要素と思う。

だが、問題はこれ以前のゲーム好きにはこの生産系のイメージはない。確かに自分のように「ラグナロクオンライン」などを触れていれば、理解はできることだが、ゲームを遠のいた人には理解はしづらい。


RPG定番、おつかいイベントはある意味、生産系に近いのかもしれない。

これはRPGにおける尺稼ぎ、プレイ時間水増しではあるが、アイテムを回収して、渡すという流れは、生産系とも似ている。

そして、いまだ、ネタにされる伝説のおつかいイベント、「ドラゴンクエスト2」の『サマルトリアの王子』。これはドラクエ4コマでも鉄板ネタである。

ただし、この単語だけで笑えるのはプレイしたことがある人間だけ。逆に年代が上がれば、過去作まで好んでプレイしていないと知らない話となる。また、友達からの話題となる可能性も少ない。


また、この後の2010年代のゲームでは「マインクラフト」、もしくは「グランブルーファンタジー」(配信開始2014年6月)のようなアプリゲームとなるため、プレイすることで素材を集めて、集めた素材を元に作り出すスタイルへと変化するため、この生産系のイメージはまた違ってくる。

(また、自分の話になりますが「グランブルーファンタジー」は未プレイです。近いゲームはやったことはありますが、少し的外れだったらすみません)


「グランブルーファンタジー」の少し前には、代表作が「艦隊これくしょん -艦これ-」となるDMM.comがブラウザゲームを数々配信している。つまり、「ラグナロクオンライン」は現在も運営されているが2010年代ではオンラインゲームの主流が変わったことが分かる。


実際、「ラグナロクオンライン」のようなMMORPGはブラウザゲーム アプリゲーム以降で衰退し、サービスを終了していく。

大きなタイトルとしては、「ラグナロクオンライン」正当な後発MMORPG「エミル・クロニクル・オンライン」はこの流れの全盛となった2017年8月31日をもってサービスを終了した。運営開始日は2005年12月9日のため、開始して約10年。かなり長く運営された方だが、この先を続けるには時代について行けなかったのだろう。

詳しくは語らないがビジネススタイルも、MMORPGとブラウザゲームでは似て非だと思う。


結果、『「ありふれた職業」とは何?』とは。

推測にはなりますが、「小説家になろう」で活動する作家は20代後半30代前半がなろう系の主な年代だとすると、ゲームの原体験は「ラグナロクオンライン」のようなMMORPGになる。(ユーザー自体は10代20代が多く、続く30代と記述はある)

だから、彼らのゲームにおける「ありふれた職業」は生産系になる。

また、その年代の読者も経験から、生産系不遇というジャンルを楽しめる。


それ以上、それ以下のプレイヤーには「ありふれた職業」は生産系ではない。そう、年代ギャップで説明ができないのだ。「巨人・大鵬・卵焼き」これで昭和40年代前後の雰囲気が伝わる言葉だが、その言葉以上の説明を求められても困るという具合になる。


ただ、この期間とは、昭和40年代前後とは違い、ほんの10年程度の話である。それで伝わる、伝わらないが決まるので、丁寧に描かないとゲームの原体験は狭い層にしか受け入れられない。年代ギャップとはかくも恐ろしいモノだ。


『ありふれた職業で世界最強』から見る「ありふれた職業」とは、年代ギャップもあり、既に古いのだ。



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同じく、アニメ化された『魔王様、リトライ!』における転生元となるゲーム「-DIVE TO GAME-」。これは作中で開始時期が2001年としっかりと明記してある。アニメ版では少しこの要素は描かれていないが、原作を読んでいくと2001年に出ていそうなゲームシステムである。


未プレイであるけれど、このゲームは多分、「ガンダムネットワークオペレーション」(発売日2002年4月1日)のようなモノがベースにしている思える。これは約3ヶ月間の期限で一年戦争を体験して、接続していなくても事前の指示によって、接続しない間も自動で行える。そして、終了後はまた3ヶ月間で一年戦争をやり直す。


『魔王様、リトライ!』と『ありふれた職業で世界最強』を比べると、作者のゲーム原体験は恐らく違う。

それは作品世界のゲーム設定の使い方で年代差を感じるからである。


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ゼロ年以前では、この素材集め、アイテム加工こそあるが、それを単体にして売りにしたゲームではあるにしても、ゲーム内で生産系を職業にするのは少なかった。

当然、容量の問題が多いというのが一番の理由である。この当時の開発者は容量との戦いでもあった。ギャグではないが要領よくやらないと、容量はすぐになくなる。

それでも自分の中でも印象に残る職業があるので、いくつか紹介を。


「ウィザードリィ」におけるビショップは鑑定要員として、酒場に居座る存在。上級職でありながら、レベルこそすべての「ウィザードリィ」にはレベルが上がりにくい、ビショップの活用法は難しい。

特に初心者がシステムを理解していないと、上級職だからといって、序盤に入れる少し大変なことになる。


「ドラゴンクエスト3」FC版の商人はほぼ使い道がない。ネタキャラである。それでもイベントには必須キャラなので、印象は強い。

そのためか、リメイク版では商人としての、特性を活かした上方修正がされている。


また、「ドラゴンクエスト4」のトルネコは結構、面白い風に見せている。

武器屋という職業をきちんとドラクエのあのシステムで演じることができるからだ。ちょっとした、隠し要素に近いのだが、トルネコと「はじゃのつるぎ」の関係は武器屋としてやりこんでいないと見えないというのは実に面白い点であった。

(普通なら、武器屋のアルバイトを早々にドラクエの定番、フィールドへ冒険に出るためだ。また、トルネコが主人公である第三章は目的がお金を貯める点にあるため、ドラクエのお約束が通じにくい話である)


後それと、なろう系の生産系不遇と同じく、ドラクエ4コマ(むしろ、この存在を知っている人も大概、おっさんとなるが)の不遇キャラはトルネコやクリフトになる。これはゲームが原体験が違うだけの差でしかないと思う。

そして、サマルトリアの王子も。

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