プログラムの4

 マナは弾けるような笑顔で、俺が苦心してこさえた『愛情たっぷり』お手製弁当を『美味しい、美味しい』と頬張っている。


 マリーも一応は褒めてくれたものの、こっちは多分に『サービス』も混じっているんだろう。


 大人は結構世辞を言ったりするもんだが、子供はそれがない。

 俺は特別子供好きという訳じゃないが、はっきりした物言いを、割とかぶせずに口にするところは評価できると思っている。

 

 誰だって褒めて貰えりゃ、嬉しいもんだ。


 俺は少し頬を緩ませながら、握り飯を一つつまみかけた。


 と、目の端に何か写った。


 校門のところに、男が二人立っている。


 グレーの作業服を着て、手に何か道具箱のようなものを持っていた。


 今日は特別な日と言うことで、普段守衛が厳密なチェックをするのだが、それもなしだ。


 なんていうこともなく、二人は校内に入って来た。だが、二人ともグラウンドには目もくれず、そのまま校舎の方へと歩いて行った。


 俺は握り飯を置き、立ち上がると、マリーに、


『ママ、ちょっと行ってくる』とささやいた。


『あら、パパ、出番は昼食休憩のあと2プログラム目よ。竹馬レース』


 握り飯をかじりかけた彼女が言う。


『ト・イ・レ、直ぐに戻る』


 俺はそう答えると、靴を履きなおし、速足で校舎に向かって歩いて行った。



 俺は途中でスニーカーの紐を結びなおすふりをして、ジーンズを捲る。


 右の脹脛ふくらはぎに、特殊警棒を留めたサックを着けておいたのだ。


 まさか学校での仕事いらい拳銃レンコンを持ち込むわけにもゆくまい。


 腰のベルトに、そっとそれを挟んだ。グラウンドと校舎を隔てるあたりに、大きな銀杏の大木が二本立っている。


 俺はその陰に隠れ、奴らの動向を探った。


 奴らは丁度『第二校舎』の一階に当たる場所にある職員室に通じる通用口の鍵をこじ開け、中に侵入していた。


 二人が中に入ると、俺も少し間を置き、後をつける。


 職員室の隣には、職員専用の更衣室があった。


 連中は難なくそこの鍵も開けてしまった。


 俺は壁に張り付き、両手にグローブを嵌め、警棒を振った。


『そこまでだ。コソドロ君』


 ドアを思い切り開け、俺は叫んだ。


 一人が手に持ったバールで俺に襲い掛かって来た。


 俺はそいつの一振りをかい潜ると、ボディーに警棒の一撃をくれた。


 なんてことはない。

 ロッカーに身体を思い切りたたきつけ、難なく伸ばす。


 もう一人の男は、サバイバルナイフを大上段に振りかぶった。


 泥棒の癖に武器の使い方もなってねぇな。


 俺は身体を沈め、エルボーの一撃をくれてやる。前のめりになった奴の首筋に、警棒を叩きつけると、情けないことに、簡単に失神した。


 結局、二人をのに、10分もかからなかった。


 時計をちらりと見る。


 余裕はあるが、急がないとな。


 俺はポケットからガムテープ(用意がいいだろ?)を出すと、とりあえず二人の手足を何重にも巻き付け、逃げられぬようにして、急ぎ足で外に出た。


『ただいまから午後の部、第二プログラム・・・・父兄の方による竹馬レースを開始します・・・・参加される・・・・・』


 ギリギリで俺は受付に間に合い、ゼッケンを受け取ると、ゴール近くに待っていたマリーに警棒を渡し、竹馬に乗った。


 見損なっちゃいけない。


 ガキの頃から竹馬乗りなんて朝飯前だ。


 俺はピストルの轟音と共に猛ダッシュ。


 他のパパさんたちをダントツに引き離し、ゴールへと駆け込んだ。


 マナが大きな笑顔で拍手をしているのが見える。


 俺は満足して金メダル(といっても紙で作ったやつだが)を受け取り、悠然と席に戻って来た。


『パパ、凄い!』


 マナが俺の首っ玉に抱き着いてきた。


『もう、パパ、どこに・・・・』そう言いかけたマリーの耳元に、


(急いで110番に電話しろ。お土産があるぜ)


 ウィンクをしながら小声で伝える。


 

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