第3話 まだ夢を見てる

 ——もう、うるっさいなぁ

 今日もいつもの喫茶店でネームを描いているんだけど、初めて見る鈴女の子らが、この静かが取り柄のお店で騒いでる。

 あっ、鈴女ってかいてリンジョ、鈴の音女学園の高等部のことね。あたしの後輩になるんだけどさ。あたしたちの頃はさあ、こんな喫茶店に学校帰りに寄るなんて、そんなことがバレたらそりゃあもう、親は呼び出されるは学校中大騒ぎよ。時代は変わったなあ。でも、それのおかげで今あたしもここに居場所をみつけたんだけどね。

 まあ、あたしも高校生の頃は一応お嬢様なんて言われてたけど、今はしがない漫画描き。親の反対押し切って、就職も結婚もしないで漫画家を目指したけど、結局一度だけ新人賞を取ったけど、それっきり芽が出ない。これがかつてのお嬢様の末路ってわけ。

 後悔してるかって? そりゃあ親の言う通り結婚して玉の輿に乗ってたら、それなりに裕福な人生だったかもしれないけどさ、でも心まで裕福になれたかどうかは、わかんないよね。

 それにしても、ああ、煩い。あの子らあたしが叩き出してやろうか?

 顔を上げてふっとマスターと目があったら、マスターから目でゴメンと言われちゃった。まあ、あたしの店じゃないから、言えないんだけどね。

 そうそう、さっきの話、あたしは全然後悔してないよ。だって、まだあたしはきっとプロとしてデビューできるって自分を信じてるからさ。

 おっ、煩いあの子らがやっと帰ったわ。さあて、気合い入れてネームの続き描いちゃおう。

「マスター、トラジャ濃い目に淹れてちょうだい」

「あいよ」

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