私の気持ち

あれから、何を話したのかあまり覚えていない。

色々と王子が気遣ってくれて、話してくれた気がするがぐるぐると悩んでいた私は上手く答えられたのかあまり思い出せない。

・・・・・・多分上の空だったのだろうけど。

勉強が終わった姫様が来てあの場から連れ出してくれたおかげで、あれ以上変な空気にはならなかったと思うが、色々考えてしまったせいでボーッとしていたようで姫様に何度も大丈夫?と心配げな顔をさせてしまって申し訳なくなる。

「アイリーン、どうかしました?」

「あ、ごめんなさい・・・・・・」

せっかく姫様とのお茶会なのに・・・・・・。

歳下の姫様に気を遣わせてしまうとは・・・そう思い内心凹んでいればカップを置いた姫様が私の顔を覗き込んでくる。

「エリザベート様・・・・・・?」

「お兄様に、告白でもされました?」

「なっ?!」


なんで分かったの?!


そう驚く私とは対照的に、姫様はクスクスと笑っている。

「知ってますよ、その為にエドワード様やアルベール様を下がらせたんですから」

つまり、王子と二人きりになったのは初めから全部仕組まれたことだったのだと、その時悟った。

・・・・・・どうりで誰も来なかったわけだ。

普通であれば侍女の一人くらいいてもおかしくはないのに、むしろそれが当然なはずなのだが、あの時は私以外誰もいなかったのは前もって人払いをしていたからだろう。

姫様の話し方からすると、他にも協力者がいるのかもしれないが、一体いつから仕組まれていたのか・・・・・・。

……つまり、兄様もそれを知っていたのね、と思うと更に頭痛がしてくる。あの時の兄様の不機嫌な理由がと今後の家のことを考えて、うぅぅ・・・と小さく唸っていればアイリーン、と名前を呼ばれた。

「私もアイリーンが、お姉様になってくれたらとても嬉しいです」

「エリザベート様・・・・・・」

私も姫様のことは妹のように思っている。だからそう言ってくれるのはとても嬉しいとは思うが、彼女の言う姉は血縁関係を結ぶ方の意味だ。だからその意味が分かっているので、何も言う事が出来なかった。

だって、私は・・・・・・。

「でも無理強いする気はありませんから、しっかり考えて教えてくださいね」

私がすぐに答えれないことを察したのか、そう告げる姫様の顔を見れば、彼女は少し大人びた顔で微笑んでいた。

「エリザベート様・・・・・・」

「例えお兄様の事を断ったとしても、変わらない関係でいてくださいね」

こうやってお茶しましょうね。

私のことを気遣ってくれる姫様の言葉に、はい・・・と小さく頷くことしか出来ない自分が情けなかった。




その後、迎えに来てくれた兄様と共に屋敷に帰り、部屋に戻った瞬間に一気に疲れが訪れた気がしてリリアに一人にして欲しいとお願いして少し休むことした。

「お嬢様、どこかお体が・・・」

「大丈夫、少し疲れただけよ」

考えないといけないことが多くて、頭がパンクしそうだ。

誰かに聞いて欲しいけれど、家族に話してしまえば大事になりかねない。兄様は知っているのだろうけど、帰り道に何も言わないところを見ると、下手に話してしまうのは良くないだろう。誰も好き好んで虎の尾を踏みたくはない。

そう思い心配そうな顔をするリリアには悪いが、下がってもらい一人部屋にこもった。

ボスン、とベッドに倒れ込んで目を閉じ今日のことを思い出す。

しっかりと考えて欲しいって言われたけど・・・・・・。

告白された事なんて初めてで、どう返すのが正解なのか分からない。

私が将来どうしたいのか、その答えは出ていたはずだ。だけど王子に好きだと言われて、嬉しいと感じている自分もいて、彼の告白を断っていいのかと悩む自分もいた。

きっと彼が王子ではなく、自分の条件にピッタリな家柄の相手だったなら、私は断ることなく告白を受け入れていただろう。

条件を満たしているから、という理由だけで。

だけどそうではなくて、家柄とか王族という問題を無しにしてカノン王子のことどう思っているのか、これから先どうなりたいのかをしっかり考えて私の答えを出して欲しいと言われている。

「私が、どうなりたいのか・・・・・・」

出来ればこれから先も、今と変わらない関係を続けていきたかった。だけど、それは彼の望むものではなくて、告白された以上答えを出さないといけないだろう。

今後どうなるかは別として。

姫様は私の返事が何であっても、変わらない関係でいたいと言ってくれた。それを疑うわけではないが、全く同じでいるのは少し難しいだろう。


どうしたらいいのかな・・・・・・。


ひたすらぐるぐると考えていれば、サァ・・・と風が頬を撫でた。

「何やら悩んでいるな」

「サクヤ・・・・・・」

いつの間に部屋の中に入っていたのか。

顔を上げて窓を見れば日が沈んでおり、随分と考え込んでいたことがわかった。

「あの王子のことが嫌いな訳では無いだろう」

「どうして・・・」

「我の元にはいろんなものが届くからな」

なんでも知っているのだ、というサクヤにそれを問い掛けるのは今更だと思い、私はベッドから起き上がり机の元へと向かった。

彼がいつ来てもいいようにと、お菓子は常に用意してあるので箱にしまっていたカステラを取りだしお茶の用意を始めた。

そんな私の姿をサクヤは眺めながら、背に向かって声をかけてくる。

「何をそんなに悩むのだ」

「何って、色々よ」

私が王妃にならないにしても、王子が婿に来るとなればまた色々と周りから言われるだろうし、それを考えると頭が痛い。

だって王子のお嫁さんにー、って思っていたのにいつの間にか王子は地味な子の婿になります!って知らされて、納得出来る子なんて少ないだろう。

しかもその相手が私なら尚更だ。

「王妃になれば、お主のしたいことももっと自由に出来るのでは?」

「確かにそうかもしれないけど、私は王妃なんて柄ではないわ」

王子が話したように、彼の妻になれば私のしたいことは沢山できるだろうし、道も広がるだろう。だけどそれは私が本当にしたいことではない。

私はあくまで領地でのんびりと老後生活をおくるのが目標なのだから。

王妃になれば、そんなことも叶わないだろう。

そんな愚痴めいたことを話しながらお茶の入ったカップとカステラの乗った皿を並べて、彼の前に座る。お気に入りのお茶を飲めば少しだけ気持ちが落ち着いた気がする。

「お主は自己評価が低いうえに、変なところで自分を卑下するからな」

「そんなこと、ないと思うけど・・・」

むしろ私が過剰評価し過ぎるくらいだ。私はただ私のしたい事のために、動いているだけにすぎない。

琥珀姫なんて、大層な名前で呼ばれているらしいがそんな人物ではない。結果的に、周りの為になっているだけで、元は全て自分の為でしかないのだから。

そんな自分のことばかりな人間が、王子の相手に相応しいとは到底思えない。それに私が王子を婿にすることで、何も悪くない人達が色々言われるのも嫌だし、周囲が変わるのも怖い。元々人付き合いは得意ではないから、そんなに知り合いが多い方ではないけど、それでも私の大切な人たちが周囲の変化に流され離れてしまったら、と思うととても怖くなる。

そうポツポツと零す私に、サクヤはそこまで不安になることは何もないだろうと言う。

「お主が星の守人だと分かってから、周囲は変わったか?」

「それは・・・・・・」

何が変わってしまうのではないかと、初めの頃は不安もあったが、私自身が変わらないように、周囲も変わらず接してくれる。誰も腫れ物扱いなどせず、私は私だと抱きしめてくれた。

「それと同じだ」

「同じことはないと思うけど・・・」

「変わらぬ。どこで何をしようが、お主が自分らしくある限り、周囲は変わらぬ。それはどんな立場であれそうだ」

例えお主が王妃になろうとも、な。

そう言うサクヤにそれだけは絶対ない、とすぐに否定すれば彼はおかしそうに笑った。

「我にそう言えるのだから、悩む必要もなかろう」


ほら、もう答えはとっくにお主の中にあるだろう?


「お主が周囲の人間を大切に思うように、周りの人間もお主を大切に思っている」


だからどんな答えを選ぼうが、それを尊重してくれることだろう。


「お主がどうしたいのか、それが一番大事なことだ」


それを忘れずに、しっかり自分の心の声と向き合ってみろ。そう言ってその話は終わりだとばかりに、カステラを美味しそうに食べ始める。

そんなマイペースな夜の王に内心感謝しながら、自分の中で出た答えに私は微笑んだ。

「そうね、ありがとうサクヤ」

それを聞いて満足そうにうなずく夜の王に、明日みんなに私の考えを話そうと思った。

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