幾光年のアルマジロ

@hasegawatomo

第1話 4673

強烈な眠気が襲ってきた。暗闇が僕を引きずり込む。


ああ またか


閉じ行く僕の目には、うっすらと石田さんが見えていた。



このままじゃ地球が……



_____

僕の名前は成瀬晴翔なるせはると。高校1年生。学校は家の近所だからって理由で選んだ。部活には入っていない。それは何故か。僕はよく寝る。というか、眠気にまみれて生活を送っている。日中の活動中でも、突然眠気が襲ってくる。眠気で学校へ行けない事もしょっちゅうだ。


家族は僕と父さんと母さんの3人。父さんは僕が幼い頃から海外で単身赴任をしている。全く家に帰ってこない彼を僕は父親とは認識していない。母さんとは一緒に住んでるけど、彼女は仕事が生きがいだ。サービス残業なんて当たり前。仕事仲間との飲み会もしょっちゅう。


そんなだからか、僕の事は放任状態。ひとりの僕は、夜たっぷりと寝ても、日中に睡魔が襲ってくる。小学校でも眠気に逆らえず、授業中に寝ていた。あまりに続くので、担任の先生が母さんを呼び出した。だが、その呼び出しを断るワーカーホリックぶり。僕は小学生にして父さんと母さんに期待するのはやめた。


僕は小学校と中学校には、気が向いた時だけ行く事に決めた。気ままに暮らしていたのに中学2年生になって、母さんの妹、りさ姉がこのままだと高校進学できないと、押しかけてきた。高校になんか興味は無かった。だがりさ姉から高校に通う事の大切さや、今の生活を一生は続けられない事を諭された。しかもりさ姉は、病院に行っても原因不明の眠気をどうにかする為、通販番組で購入したたというドリンクを僕に飲むよう強制した。


ドリンクの瓶には〈あなたの味方❤︎目覚まし隊〉と赤い文字でデカデカと書かれていた。どう考えても怪しすぎる。飲みたくないと僕は抗議したが、りさ姉は許さなかった。絶対毎日飲むようにと何度も釘を刺された。ちなみにドリンクの味は超薄っすーい、青汁みたいな感じだ。味が無い味が濃いより、味が薄い方が不味い気がする。色はドス黒いムラサキ。身を震わせながら毎日飲むようになった。


ドリンクの効能があったのかは不明だが、それからというもの、毎日学校に間に合うように仕度し、通学し、授業を全部受けて帰るようになった。もちろん最初から全部できたわけじゃない。今までそんな生活を送っていなかった僕にとっては試練だった。


同級生達が当たり前にしていた毎日が、僕には鬼のような日々となった。通学していれば良いという問題でもない。中3になれば高校受験が待っている。今までやっていなかった分を取り返さなければならない。通学を始めて最初に受けた1学期の期末テストは赤点だらけ、と言うより汚点だらけだったと言っても過言ではない。テストの点数を見たりさ姉は、次の日問題集を山ほど買ってきた。枕に良さそうだねと言ってしまったあの時の自分にドンマイ。


そんなりさ姉のスパルタのおかげで、僕は家から近い高校に受かる事ができた。どこにでもある市立の学校だ。どこにでもあるくらいの努力をしていれば受かる高校だが、僕にとっては必死に勝ち取った合格だ。


入学式当日、僕はそこまでこぎつけた事に安心してしまったのか、寝坊した。いや、正確には一度起きて、制服を着て準備はした。その後の記憶がない。気がついたら時計は11時を回っていた。だるくてたまらなかったが、とりあえず学校に行く事にした。校門周辺にはまばらな人影。とりあえず、受付に行き事情を話す。そうこうしている間に、担任だと名乗る男の先生が現れた。呆れて物も言えないといった有様だったが、明日からは間に合うようにとだけ言わた。それから僕は1年2組なんだそうだ。


あんまり怒られなくて良かったと胸をなでおろした。教室の位置だけ確認しようと、もう一度受付に声をかけて、1年2組の場所を教えてもらった。下駄箱から左に行き、階段を上がって2階へ行った。教室を3つ通りすぎて、その一番奥が1年2組だった。年々生徒数が減り、1年は本来ならば3階だったが、教室数が余り始め、3階だった1年生の1部は2階になったと言う事だった。


2階でラッキーなんて思いながら教室をのぞくと、誰もいなかった。今日から始まったこの教室には、まだ何もない。校舎自体は古びている。だがこれは新1年生の教室だ。清々しく希望を含んだ空気が漂っているような気がした。そんな空気を吸いながら教室を回遊し、僕なりの入学式を味わうのだった。


ちゃんと明日からは来るんだ


そう自分に言い聞かせて教室を出ようとした時に、女の子が入ってきた。その子は僕にはめもくれず、何か机の周りで探し物をしてるようだった。


「どうしたの?」


これまで女子と喋ったこともないのに、声をかけた自分にびっくりしてしまったが、その子の慌てぶりについ。


「これくらいの、細くて青い棒、ガラスの棒みたいなの、落ちてなかった?」


このくらいのと、彼女は自分の小指を立てて見せた。こんなに細いガラス?!もしかして踏んでないよな?焦って自分の足元を見た。それらしきものは無いので安心した。


「僕、さっきこの教室に入ってきたんだけど、見てないかな」


「そっか、ありがとう」


彼女はそういうと教室を後にした。また教室に1人になった。急に気怠さが襲ってきた。教室の時計の針は12時を過ぎた辺りだった。教室で寝てしまう前に帰ろう。

玄関に行き、受付で借りたスリッパを元に戻して靴を置いた。靴を履こうとした矢先、足元のスノコの下にキラっとする何かが見えた。


スノコから降り、スノコを上げて下を見た。もしかしてこれか?さっきの女子が言っていたのと同じくらいの大きさの青いガラス棒が見えた。それを拾って、スノコを元に戻す。


キラキラと光っていて、よくよく見ると数字が彫られていた。


4678


なんだ?と思いつつ、僕は制服の上のジャケットのポケットにそれを入れた。明日、あの子に渡そう。明日は絶対、間に合うように学校に来る。そう思いながら、さっさと家に帰った。


つづく



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