第43話 登場! カスケード・シルバーの悪魔!(中編)


 悪魔合体していた悪魔ちゃんが分離し、そこには三人の幼女が!


 以上、前編のあらすじ終わり!





「もう、なんで合体解除するのぉ!」


「だって、合体中ってヒマなんだもん。今度はおねーさまは下やってよ」


「今度するからぁ! 今はいいところだったでしょお!」


「やだ。おねーさまウソつくもん。今やって!」


 言い争う悪魔ちゃんズを見ながらオレは思う。


 ……合体悪魔とはエッチなことできんなぁ。


 途中で強制解除とか目も当てられん。


「合体! モードチェンジ! シートン膨らみかけモーッド!」


 そしてまばゆい光が沸き起こり、中学生ぐらいの年齢の妹ちゃんが出現した。


 ちなみにシートンとは妹ちゃんのことだ。ロイヤル・ビター・シトラスの悪魔だからシートンね。命名オレ!


「ふふーん! どうだぁ!! ねぇ!? どう? どう? どう?」 


「ふむ……」


 すると、手足の長くなったシートンはお尻をぷりぷりしながらドヤってきた。


 なんだね? はしたない。――が、この際だからよく観察してみよう。


 一見奥手なお嬢様っぽくなる悪魔ちゃんとは違い、妹ちゃんはなんかギャルっぽいんだよなぁ。


「ふひひ……良いねぇ良いねぇ。今日もおじさんと遊ぼうか?」


 もちろん冗談だ。


 オレはローアングルから超ミニのスカートをはいたままくるくるしているシートンに罠を仕掛ける。


 もちろん、こんな誘いに乗ってきたら叱りつける所存です。


 淑女たるもの、こんな誘いに乗ってはならない。


 だからね? これは冗談なんですよ。少女が間違いを犯さないようにたしなめるんですよ。


「あ、今日はもう帰る」


 もしも仮に、こんなおじさんの誘いにホイホイ乗ってくるようなら、叱り飛ばさないといけないからね。


「ヘヘ……近くの個室にでも連れ込んでみっちりと、フヒヒ……なんというか地域密着型の性指導を――って、帰るのォ!?」


「うん。お仕事行かなきゃだし」


 オレは声もなく号泣した。


 当然うれし涙だ。よかった。おっさんの誘いに乗っちゃうようなギャルはいないんだな!


『えー行くのぉ!?』


 「やだー行かないでェ! おじさんにもっと構ってェ!!」とオレがも抱き心地の良い腰に縋りついて泣いていると、すぐ近くから悪魔ちゃんの声が聞こえた。


 無論、悪魔ちゃんは今シートンの半身となっている。つまりその状態で声が出てきているのだ。お腹から。


 いや、お腹から声を出す、ってそう言う意味じゃないんですけど!? 


 ――ますます合体悪魔とはエッチなことできねーなこれ。


 しかし悪魔ちゃんは妹ちゃんがお仕事とやらに行くのが不満なのだろうか?


「うん、お仕事大事だもん」


「ちなみに何するの?」


 聞いてみよう。そもそも、悪魔の仕事とはなんだろうか?


「くうばく――!」


 シートんはしなやかに伸びた両腕をバンザイして、ニコニコ顔でのたまう。かわいいね♡ しかし……


「ふむ? くうばく? クウバク……空爆? ――空爆!?」


 聞き間違いだろうか? 食う獏クウバクとかで幻想生物の焼き肉とかかもしれん。


『んなわけあるか! お仕事って言ってるでしょ? 空爆って言ったら空爆よ。戦争の時に人間が良くやるでしょ?』


 お腹のほうの人が冷静にツッコミを入れてくる。


 つまりほんとに爆撃に行くのか。へぇ―? 予想外じゃん?


「どゆことォ!? 君は爆撃機か何かなの!? 死の翼アルバトロスなのぉ!?」


 オレはがくがくとヒザを震わせながら問う。そんな! こんなに可愛いのに!?


「もっとすごいよ!」


 シートンはさらに嬉しそうに答えた。 


 もっとすごいのかぁ。そっかぁ……。


 神よ――神よ、何をしておられるのですか!? 悪魔がやりたい放題です!!


「さ、差し出がましいようですが、その……戦争はよくないのではないかと(小声)」


「んーとねぇ」


『悪魔が戦争するんじゃなくて、人間とかの戦争を加勢しに行くのよ。だから大丈夫よ』


 お腹のヒトがそんなこと言うのだが、何が大丈夫なのかわからん。当事者でないとすると余計に性質が悪いような……。


「わたしねー、あんまお仕事ないからこういう時は頑張るの!」


 しかし、妹ちゃんは満面の笑顔を浮かべる。


 そこに、ためらいや戸惑いのようなものは存在しない。


「……そういや、妹ちゃんは『強襲型』なんだっけ?」


 前にそんなことを聞いたことがあったような……。


『そうよ。だから出番が少ないの。――でも、やっぱり危ないでしょ?』


「もー、お姉さまいっつもそう! ひとりでもだいじょぶなのにぃ!」


 そう言って、妹ちゃんは左手でわき腹の辺りをボスボスと殴る。あー、そこはお姉ちゃんなのね?


『や、やめなさい! 痛いじゃないの! 私は心配してるのよ!!』

 

 すると今度は右腕が左腕を止める。


「んもぉ~! 今はわたしが上でしょうぉ!!」


『殴るからよぉ……ッッ!』


 今度は背中のメカニカルウィングが展開したかと思えば、もう片方の羽が地面に食い込み綱引き状態になる。


 足の動きもちぐはぐだ。


「『ンギギギギギィ!』」


 ……このヒト1人で何してるんだろう? 的な光景である。


 なんか上下で半々なのかと思ってたけど、どうもいろいろと複雑に絡み合ってあの形状になっているらしいな。


 なんかガワが可愛いだけで中身はって感じ。「スピーシーズ」を観たあとのような気分だ。


「んまぁ、どゥでもいっすけど。そろそろ行かなくていいの?」


「行くよ! 行くけど……わたし一人でいいのにぃ!」


『ダメよ、こうなったら私も一緒よ。邪魔はしないから』


 しばらく一人でンギギギギッとしていた悪魔ちゃんズはお年頃な形態のまま飛んで行ってしまった。


 まったく何しに来たんだか……。 


「――ん?」


 そう言えば3体合体してここに来て、今飛んで行ったのはいつもの姉妹だけ……。


 ということは。


「ねー、猫のおにーさん。ここってどの辺?」


 そう。初めて見る新顔の悪魔っ子が残っているのだ。


 ちなみに猫のおにーさんてのは、おれがガー様に押し付けられた着ぐるみスーツを着ているからである。


 これ伏線ね? 


 年頃は悪魔ちゃんズとほぼ同じぐらい。銀髪の可愛い幼女である。


 しかし翼は無く、一見すると人間の幼女のようにも見える風体である。


「ここは神域の近くだけど。キミはどちらさん? なんの悪魔?」


 銀髪ちゃんはオレの猫スーツをニギニギしながら、ちょっとだけ虚無的な笑顔を浮かべた。


 なんだろう? ちょっとだけ背筋がぞっとしたぞぉい?


「わたいはカスケード・シルバーの悪魔! なんか起きたらここにいた。そんだけー!」


 わたいってなんだよ、とか、カスケードって何色だっけ? とか思う所はいろいろあるのだが、まぁ面倒だから流すこととしよう。


「じゃあカーちんで」


「いいよォー」


 オレがあだ名を制定すると、カーちんはぴたりと動きを止めた。


「……?」


 なにか考えているのかと思ったが、特にそう言う訳でもないらしく。ひたすらに、真っ直ぐに虚空を見据えたまま微動だにしない。


 なんだろうこの娘は……。


「カーちん?」


「なにー!?」


 呼びかけると、ぎゅるんと首が動き、虚無の瞳がオレを見据える。


 ……いいだろう、上等だ。


 この程度の変なヤツに今更ビビるオレではないわ!


「……お、お菓子とか食べる?」


 前言撤回。オレはヒヨっていた。


 ぶっちゃけ本心ではこのまま置いて帰るのが一番いいと警鐘を鳴らしまくっているのだが、悪魔を野放しにするのは流石にアレだろうしなぁ


「あんがと」


 まずはこの子の生態を確認しよう。食欲は旺盛なようだ。


「カーちんはどんなタイプの悪魔なん?」


「おにーさんはー、「一回現実で使ってみたいマンガのセリフ」とかある―?」


 うむ。いきなり問答が成立しない。まぁ大丈夫。まだ慌てるような状況ではない。子供相手ならよくあることさ。


「まぁね。そりゃあ、あるよ。そりゃあ」


「んじゃ、2番目はなーにー?」


 なぜ2番目から……。


「んー『――かばねだ!』かな」


「使わないのォ?」


「うん。毒は結構仕込むんだけどねぇ。なかなか使う機会がないんだよねぇ」


 この前もモフに仕込んだけど、結局セリフは使うヒマなかったもんなぁ。タイミングがねやっぱ。


「ふぅーん。じゃあ1番は?」


「『対ショック対閃光防御!』だな」


 意外と無いんだよ。日常生活で使うチャンスが。


「ふぅーん?」


 くすくすくす。


 などとどーでもいいことをしゃべくっていると、カーチンは思い出したようんなテンポでおかしそうに笑う。


 とりあえず、つかみはオッケーと言う感じかな?


 とにかく、機嫌を損ねてその辺に空爆とかウィルスの散布とかアンゴルモアの大王の召喚とかさせないようにしないとな。


「おにーさん。なんか好き♡」


 いつの間にかオレの猫スーツにスリスリしながら、カーちんはそんな事を言う。


「ファ!?」


 マジかよ? オレはまた幼女の心を奪ってしまったのか!? ――なんて罪作りなオ・レ!


 などと言うている場合ではない。これ以上悪魔に好かれてもいろいろとまずい気がする。

 

 戦争犯罪の片棒とか担がされるのしんどいもんなぁ。

  

「あー、残念だけどカーちん。オレにはね? 好きな人が他にいるんだ」


「頑張る!」 


 即答された。曇り無き虚無の瞳がオレを射抜くかのようだ。


「で、でもオレ、今から神様のとこに行くからさ。ほら、捕まっちゃうよ?」


 千年説教だよ。休日の過ごし方としては下の下の、さらに下だよ?


「大丈夫。わたい、高度戦術型・ステルスタイプの悪魔だから!」


 言うや否や、カーちんは妙なポーズをとりつつ、姿をふっと消した。


「むぅ――ッ! どこだ!? ――どこに……」


 いない! 見つからない! バカな! 


 オレの索敵性能をもってしても見つからないってヤベーだろ、どっかのニンジャ並みってことだぞ!


「ここー!」


「ヘぶンッ!?」


 なぜか股間に激突してきたカーちんをオレはようやく知覚できた。


 な、なぜ下から……。


 にしてもなんつー潜伏能力だ。姿を消せる上に、あらゆる知覚・センサー類をすり抜けられるってことか!


 シンプルに腕っ節の強い悪魔ちゃんズよりもむしろ厄介じゃねーか!


「おぅふ……か、カーちんはいつも神域に侵入してるの?」


「ここって神域だったんだー。いつもは来ないよー。お仕事忙し―の。今日はお休みだから寝てたの」


 お仕事ねぇ?


 これほどの能力を持つ潜伏型の悪魔、そのお仕事とはいったい……。


 想像するだに身の毛がよだつぜ!


「い、いったいどんなおしごとなのかなー?」


「ねー。おにーさんはこの後どうするのお。ヒマだからついてく」


 うーむ。無理に訊きだそうとしても逆効果だろうか? 


 というか、そろそろオレの手には負えないんじゃないかと思えてきた。


 ――クソ! なんで手におえない女神から逃げてきた先でまたこんな爆弾拾っちまうんだよオレは!







 仕方ないので、おれは姿を消したままのカーちんを連れて神域まで戻った。


 さて、悪魔嫌いの女神さまに見つからないようにしないとなー。


 って無理だよなどう考えても。


 まー、なるようになるか。


「遅かったですね」


 すると、開口一番、心なしかキリっと表情を引き締めたガー様がおれを出迎えた。


「アレ? なんか落ち着いてますね? まさかヤクを!?」


 ダウナー系のアレか!? やめたまえ!


「そんなわけが有りますか! ただ心を入れ替えただけです。反省したのです。確かにいつまでも浮かれている場合ではありません」


 ほぉーん? それが本当ならありがたいスけどォ……。


「アナタも、何時までもそんなもの着ている場合ではないですよ?」


「あんたが着ろって言ったんじゃないか! 勝手すぎない!?」


 あー、クソ! 上等だよ! このままジャガーマンとして転生してやる!

 

 次は古代インカ帝国にでも送ってもらおうか!?


「脱ぎたくないというのですか?」


「まーね。着てみたら結構着心地が良いので」


「ふむ……」


 すると、ガー様は立ち上がり、ツカツカとオレに近づいてきた。


 どしたん? 転生は?


「むぎゅー♡♡」


 が、この女は舌の根も乾かぬうちにしっとりと抱き着いてきやがった!


「ちょっとぉ!? 反省したんじゃないんですか!?」


「フカフカ……♡ 反省はしました。私は思い出したのです。大事なのメリハリですよね、と♡」


 わ――罠だった! ダマされた!


 なんてこった、こんなウソを吐く人ではなかったのに! 気持ちいい!


「なんも反省してねぇじゃん! まだ浮かれポンチなままじゃねーか!!」


 マズイ、このままではまたヒューマンミューティレーションされる! ――されてもいい気がしてきたけど!


「な、何がポンチですか! いやらしい! 私を誘惑しないでください! 抱き着くだけで済まなくなっちゃう!」


 一方この阿呆はそんな事を言いだした。なんだよ誘惑って!? してねーよ!


「落ち着け! 何もいやらしいことは言ってませんて! フルーツポンチとか言うでしょ!?」


 皆も一度は検索したことがあるであろうが、一応補足しておく。


 フルーツポンチのポンチはサンスクリット語の「パーンチ」が元になっているカクテルの名前なのだ。


 よって、決していやらしい意味合いがあるわけではない。


 誰しもが胸を張って公の場で「ポンチ」と発言する自由を保障されているのである。


「そ、そうですね。取り乱しました。フルーツポンチ……そう言えば地元の郷土料理でした」


 それはおかしいだろ!


「なんでそんなものんが郷土料理と見なされてんだよ!」


 どうなってんだアンタの地元は! もうやだ。このままだとオレがその郷土料理にされる!!




 ――――うふふ。ずいぶん元気になったんだね、おねーさん? ――――




 と、再びガー様が積尸鬼冥界波せきしきめいかいは的なアレでオレを眠らせようとして来たその時、(もはや誰が悪魔なのかも解らない)


 どこからともなく、忍び寄る様な声がこだました。


「これは――ッ!」


「あーしまった。忘れてた」


 それとなくガー様にも伝えようと思ってたんだけど、このヒトが暴走するからさぁ。 


「うふふ。久しぶりだねおねーさん♡」


 オレの背後からぴょこっと姿を現したカーちんを見るや否や、ガー様はとろけていた顔を、今度は本当の意味で引き締めた。


 さらに、喉を震わせながら、驚愕を露わにする。


「アナタは――まさか!」


 ええ? 知り合いなのォ?






後編に続く。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る