第19話 おモチの女神様(前編)
神域。
またもや、その神妙なる静寂が破られる。
「――どういう事じゃいオラァ!」
聖なるドアと共に
「ちょっとおぉぉぉ、異世界転生もの(?)で主人公大敗北するとかありえないでしょうぉぉぉ!?」
男はいつものように神域へ踏み込み、勢い女神の元へ詰め寄る
「……」
しかし、対する女神の視線は冷ややかであった!
「ファッ!?」
思わず冷やりとするような視線が男を出迎える。
「……ほかに、何か言うことはありませんか」
なんかありましたっけ?
「あ、ガー様お久しぶりです。前回会えなかったせいか、以前にもましてお美しい。そのご尊顔を拝しまして感激の極みにございます」
「そんな事は聞いていません!」
丁寧にごあいさつを申し上げてもだめらしい。何が気に入らないのさ?
だが、そのぷりぷりしたお姿もまた懐かしく、そして愛らしい。――あらためて恋☆しちゃう! さー御託は抜きにして、久々の熱いベーゼをここらでひとつ……。
「久々も何もあるか!」
「グワーッ!」
チューの態勢を整えたままにじり寄ると、例の神器とやらでぶっ叩かれた!
やだもー、バトル展開はもうコリゴリですよぉ。トホホォ……。
「自分が何をやったかわかってるんですか!?」
えーなにをそんなにお怒りになってるんですぅ?
「あ、そんな事よりもガー様。あのニンジャ野郎と知りあいなんでしょ? 住所とか教えてもらえます? 転生の前にちょいとカチコミ済ましておきたいんですけど」
「言ってるソバから――ダメに決まってるでしょう!?」
「あー、いえ、ガー様に迷惑は……は!? ――まさかあの野郎……前回の件でガー様にネチネチとした湿っぽい
それで怒ってるとか!?
「アナタじゃないんですから、そんなことあるわけないでしょう……」
「じゃあ……さらさらとした折檻を?」
「どんな折檻ですか!? 折檻も叱責もされてません! だから問題なんです!」
んー? わからんなぁ?
「事の顛末は報告書で読みました。……コレだけのことをして、さしたる叱責が無いのが問題だと言っているんです! ――本来なら私は懲戒処分になっていてもおかしくないんですよ!?」
んな大げさな。
「ちょっとスキだらけの傘女神のパンツガバーッてして、後ニンジャにケンカうっただけじゃん」
「――だけ、とはなんですか! 私にとっても大恩のある方なんですよ――それを」
ちょっとまて。
「……まさか、もしかして、よもや……ああのニンジャと男女の仲だったりします?」
いやに持ち上げるじゃないですか、あのふざけた仮装した野郎を。
「ゲスの勘繰りはおやめなさい! ――まったく。どうしてこんなことに」
いやいやいや。それについてはこっちからも一言あるぞ!?
「そもそも采配がおかしいですって。あんなのが来たらオレが不安になるのわかるじゃん!?」
「……どうしてですか?」
おうシット! この女……男の心理と言うものをまったく理解していない。……おぼこ疑惑が深まるな。
「そらガー様の知り合いだなんて名乗る野郎って時点でケンカ売りますよ!? だって、俺マジでガー様のこと好きなんですけど!? そう言うのわかんない!?」
「……なんでそれで仲たがいする理由になるんですか!?」
なんてこった。神ってのはみんなこうなのか!? 理屈じゃなくて感情の話なんですけどぉ!? 男心が分かってねぇなぁホント!
「だいたい。ほんとうに……その、私を好きだというなら軽々に口に出すものではありません」
いつの時代の深窓の御令嬢だてめえ!
「なるほど。つまりガー様は今までの俺の好意を全て冗談か何かかだと思っておられた、と」
なーるほどぉ。ハハハ! コイツは傑作だ!
「……そこまでは言いませんが――――いえ、この話はやめましょう。それよりも私が出先で得た巨人の方々の見解を」
「そんな事より、――これを見てくれ」
男はおもむろに全裸となり、磨き上げられた剛体を余すことなく晒す。
「きゃあああああ!??? な、――なにを!?」
知れたことよ! 囁いて足らぬ愛というなら、言葉で届かぬ想いというなら――――我が全霊のムーブによってこの溢れんばかりの「だい好き♡」を伝えるまで!
「おぼこの分際で男の純情を弄ぶとは笑止千万!! 俺の心は傷つきました! ――よって必要量の謝罪と賠償を求めます――身体で♡」
全裸のまま、男は女神へ向けて前進する。
「えええええ!? そんな傷つくって――何でですか!? 訳のわからないことを言うんじゃありません!」
悪いが傷ついたのはマジだ。よって、多少手荒になるかも知らんが、許してほしい。――すべては、愛ゆえに!
「す、すぐそういう事に結び付けるのが愛だとは限りません!」
ガー様は赤面しつつ身構える。――なるほど前回の傘子のようにはいくまいな。
だが、なんの勝算もなくこんな挙に出るオレではない。
「止めましょうや。――もう言葉では止まらんのですよ。解ってるんでしょう?」
「解りませんけど……」
言いつつ、男は距離を詰めていく。
「と、止まりなさい! ――というかしまいなさい!!」
ガー様は真っ赤になったまま、目を逸らしつつ(初めてでもあるまいに)神器である杖を握って障壁のようなものを展開する。――いつもの手だな。
ククク。だがな、オレも前回のことで学んでいるのさ。さらけ出された
「――ぬぅん!!」
震脚。要するに床を特殊な技法により踏みつけ、障壁の展開されていない床へ衝撃を伝播させる。
そして振動は床を伝い、ガー様の突き出している杖を弾き飛ばした。
下から突き上げられるような衝撃に、杖はスポンと手から抜けてしまった。
「――――あ! と、――とッ」
ガー様は慌ててそれを捕まえようとして、お手玉でもするように杖を追う。
そして両手を突き出したままつんのめり、あわや、という所で、抱き止められた。
「大丈夫ですか?」
「あ、はい。どうも…………」
「……」
行きついた先には全裸の男の腕の中であった。
「きゃあああああぁぁぁぁぁ!?」
すべては予定通りである。神とは言え戦闘では素人、やりようはいくらでもあるというものよ。
「さぁ、それでは神妙に俺の愛を受け入れるがいい、我が女神よ!」
「ダ――ダメです! こういうのはダメです! 離しさない! 肉欲におぼれては……」
「ならば『ダメ』ではなく、『いや』とおっしゃいなさいな」
「――――ッ」
「ガー様が本気で『いや』だというならオレもやめますよ。でも本心を隠したまま建前ではぐらかされるのはもう、ごめんだ」
「……い、……いやです。はなして……」
「目を見て」
明後日のほうに逸らされていた翠玉の瞳が、惑うようにして男に向けられる。
「い、――――ダ、ダメなんです! ダメ、だから……」
それが返答でいいんだな!?
「違うんです――これには……」
男はいっそうに、か細い身体を抱く腕に力を込めた。
「もう、しゃべんなよ」
「あぁ……」
折れんばかりに抱きすくめられ、女神は意図の判然とせぬ言葉を絞りだす。
互いの心音が妙にうるさかった。
「ご休憩の――」
と、そこで、再び聖なるドアをけ破る音が神域に響き渡った。
「時間だオラァ!!」
何を隠そう、後輩ちゃんのエントリーであった。
あまりにもタイミング良すぎる気がするが……
「――――ちょ、それオレのヤツやん!」
「うるせぇ!」
一足飛びで詰め寄った後輩ちゃんは、全裸の男に持っていた巨大なダンベルのようなものを叩き付けた。
「グワーッ! なんでや!?」
無論ガードはしていた。しかし強固な十字受けで受けとめたハズそれは途中でぐにゃりとへし曲がり、そのまま男の頭を打ったのだ。
「た、助かりました――キャーッ!」
男を叩き伏せた後輩ちゃんは、そのままそのダンベル様な鈍器の先でガー様を突く。
「な、なにするんですか!?」
「アンタもなにイチャイチャしてんだオラァ!」
すると、押し付けられた鈍器の尖端はグニャグニャと変形し、女神の身体を拘束してしまう。
「イ――イチイチャなど……していません。ま、また暴行されそうになっただけで……」
「アンタのスキがでかすぎんだよ! そのせいでこんなことになってんだよ! コイツが調子に乗って!」
なにが『イヤじゃなくてダメ』ですか! こっ恥ずかしい!! と後輩ちゃんはぷりぷりしながら続ける。
なにやら、これまでにないほどブチ切れているようだ。――よく見れば、その総身は細かい傷だらけである。
「そ、――それはその、私にだってその言い分と言うものが……というか、どこからか見ていたかのような言いようではないですか!?」
「しばらく隙間から見てましたんで」
「そんな!? 助けてくださいよ!」
「ホントは自分で何とか出来ないとでしょうが! ――そんなだから転生者が調子に乗るんスよ」
「す――すみません」
ガー様はがっくりとうなだれて謝罪した。
「さて――じゃー次はお前さんだコノヤロウ」
うーむ、どうやら先ほどから聞き及ぶに、後輩ちゃんの怒りの矛先はオレのようである。
しかし、なんでまた?
「ううむ……よくわからんが、オレ達の愛の成就を邪魔する権利はないハズ! 何のつもりだ!?」
とにかく、何故か知らんがこの乳神は本気だ。抵抗しなければやられてしまう!
――が、しかしなぜか立つことが出来ない。先ほどの攻撃もほとんど痛みのようなものは感じなかったのだが……
「まー、その辺は好きにすりゃあいいとアタイも思うさ。――けどな、前回自分がやったことの罪深さだけは知っておいてもらわないといけないからねぇ」
ぬぅ……また前回の話か? しかし、あのニンジャとのバトルが、この後輩ちゃんに対していったいどんな迷惑になるというのだろうか?
「あー? もしかして、あのいぢめてオーラ満載の天気の女神様と、なんかあんのか? ――つーか立てねぇんだけどなんかした?」
「いや、あのヒトは毎回そう言う感じだからねぇ。ことを大きくするっつーか。うん。それについては先輩の変わりにあのヒト寄越したやつが悪いわ」
女神の間でもそう言う評判なのかよ。――って、
「まーお前さんもやりすぎだかんな? アレが無ければ何も問題なかったっつーのに……」
後輩ちゃんはさらにデカいダンベルのようなものの先端でモチっと俺を突いてくる。
なんだコレ、柔らかい!? モッチモチだ!
「じゃー何が問題でそんなに怒って……って、オイ! なにしてんださっきから!?」
別に痛みはないのだが、後輩ちゃんはそのモチィっとした棒状のもので俺を幾度となく突いては引き突いては引きを繰り返す。
――なんだこれ!? モチ突きか!? じゃあ、この棒状のものは「キネ」か!?
「なにが問題も何も―――お前があのニンジャ焚き付けるから! アタイらはみんなボコボコにされてんんだよぉぉ!!」
このバカぁ!! と、さらに後輩ちゃんは突いてくる。
とりあえず、動きが激しくなるにつれて、胸元のおモチのような双丘もばるんばるんとダイナミックに跳ねまくっている。
うーむ、絶景、絶景。
――などと言っている場合ではない! 後輩ちゃんのこの負傷はあのニンジャ野郎にやられたことだってのか!?
「――いったいどういうこと……って、な、なんじゃこりゃああああ!?」
しかし、俺にはそれを問い質す
俺の手足は痛みもないまま捻じ曲がり、それどころか身体と一体化して、まるでスライムよろしく一個の肉塊にされてしまっていたのだ。
自分の身体が自分のものとは思えない! どうなってる!?
「なにって、アタイの権能さ。アタイはどんなものでもモチにできんのさ」
な、なんだってー!?
(後編に続く)
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